深田久弥の「わが山山」の中で、「山へはいりかけのあの楽しい興奮を、その経験のない人にどう伝えたらよいだろう。乾き切った山恋の情が貪るように働いて、峰一つ谷一つさえ見逃すまいとする。」と、あるように、今度の山行きはその気持ちそのものだった。
なぜなら、7月末に白山へ行ったまま1か月半経ち、近くにある低山にさえ登っていない。弓道の稽古を1か月半さぼったら致命的な気持ちになるかもしれないのと同様、山行きも1か月も登らないと不安も募る。それでも、5時間の予定なら何とかなるだろうと、誘われた時は簡単に返事してしまった。家から見える大日山にいつかは登りたいと思っていたからだ。不安より興奮の方が強くなると頑張ろうという気になる。
しかし、何故か最近2kgも太ってしまって大丈夫か?という気もする。1gでも荷物を軽くしたいのに。
山おじさんが道案内で、女ふたりでついて行くが、Yさんはスポーツマンで、わたしよりずっと若い、最近の登山歴もなかなかのものだ。白山仲間の同級生に「小学生を連れて行くつもりで・・」と、言われてすっかり自信もないわたしだが、山おじさんはわたしの力量を知っているので、緩やかな予定を立ててくれた。
以前、鈴ケ岳へ行った時、結構辛かったことを思い出した。そこからまだ1時間登らなくてはならないのである。標高1368mは、富士写ケ岳より高い。標高720m、距離は4km。昨年は日帰りで白山の黒ボコまで行ったことが信じられないほど、今年のわたしは体力がない気がする。
一番無理のないコースという事で、木地小屋の登山口から登りカタクリ小屋へ出る。
沢から始まる山登りはわくわくする。しかし、川の中の飛び石が平均身長以下のわたしには難しい。どうみても届かない。山おじさんが手を貸してくれたので、エイやっ!と、渡るが現実は厳しい。足が水にさぶっと浸かったが、瞬時に引き上げてもらったので殆ど水が入らなかった。さすが、ゴアテックスの靴である。しっかり紐を結んであるので、足首が濡れた程度で助かった。いきなりの川渡りでざぶんとは!
山おじさんは、帰りの為に手ごろな石をひとつ川に投げ入れた。
その後も3か所の川を渡った。後は歩幅に合う石があって何とか渡り切る。
山はすっかり秋の風情で、栗が落ちている。途中、山ブドウの木の下で休憩。一房ずつ頂く。小さい粒に、種が3個も4個もあるので、一度にたくさん頬張っていっぺんに種を出した。甘酸っぱい味で元気が出る気がした。
急坂と階段が続くと一度に息が上がって、まだ1時間しか歩いていないのに、わたしの足は皆より遅れる。大雪や台風でたくさんの木が倒れて登山道が塞がれていたらしい。整備してくれる人に感謝。
9時に出発してカタクリ小屋に着いたのが、10時42分。
ここから後は緩やかになり登りやすいと言われほっとするが、身体がなまっている感じがする。
それでも、稜線から景色が見えると元気が出る。
頂上までもう少しもう少し。少しみんなに遅れ気味で歩幅は小さいが、休まず歩けば何とか前に出る。時間が来れば何とかたどり着けると考えて黙々登る。
もうすぐ頂上という時に、笹藪に入りみんなの姿が見えなくなった。かろうじて足元が登山道であることが判断できるが、ひとりだったらこんな藪漕ぎはごめんだ。身の丈以上の笹を分けて2分ほどしたら頂上に出た。予定より5分速い11時55分。やった!!よく頑張りました。