「一緒に地獄行く覚悟あるんか?」…泉房穂前明石市長が明かす「私はなぜ宗教団体の脅しに屈しなかったのか」
発売即3刷のベストセラーとなっている泉房穂氏の最新刊『政治はケンカだ! 明石市長の12年』(聞き手=『朝日新聞政治部』の著者で政治ジャーナリストの鮫島浩氏)。大反響の特別無料公開もいよいよ第七回目となり、今回は「宗教・業界団体編」をお届けする。
あらゆる抵抗勢力と闘って「日本一の子育て政策」を実現してきた泉氏だが、宗教団体や各種業界団体は、政治家の選挙と結びついているだけに、ひと際やっかいだったと言う。
では泉氏は、なぜそうした団体に取り込まれずに、信念を貫けたのか。
それは、幼いころから身に付けていた「ケンカの技法」があったからだ。
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連載『政治はケンカだ! 』第7回前編
あの手この手で近寄ってくる利権集団
鮫島 これまでの泉さんの政治家人生を振り返ってみると、業界団体や宗教団体に対して、一貫して強硬姿勢を貫いています。政治や行政の場には利権団体がうじゃうじゃいるわけで、表ではクリーンなことを言っていても、裏では特定の団体と繋がっている政治家はたくさんいるわけです。旧統一教会問題もしかり。政党が特定の団体と依存関係を築いているケースは山ほどある。
泉さんからすると、それらの団体と徹底的に闘うのは当然の判断なのでしょうが、それにしても強い。この強さの秘訣は何なんですか? だって、市長をやってれば、手を替え品を替え近付いてくるでしょ?
泉 後に引き継ぐ明石市に遺恨は残したくないから、慎重に言葉を選ばないといけませんが、もちろんそういう団体は色んな方法で接触を試みてきます。アメをチラつかせて擦り寄ってきたり。それこそ選挙のたびに「手打ちしてやるから支持者名簿出せ」と言ってきますし、だいぶ古典的な方法で近付いてくる。
でもね、そんな甘い話ありませんわ。結局、こっちが擦り寄ったところで、向こうは味をしめて「もっともっと」と要求するようになるだけです。挙げ句、4年後に違う候補を出されて裏切られる。そんなの目に見えています。
これは、とくに議会で孤立している無党派の市長や知事に言いたいのですけどね。選挙で勝ったなら、これまで戦っていた団体と手打ちしないことです。改革しようと思ったら一定の緊張関係はやむをえない。こちらが妥協しなければ、やがて向こうから歩み寄ってきます。これは悪い意味じゃなく、こちらの力を認めるという感じかな。
私の場合だって、周り全てが敵の状態でしたけど、じーっと耐えてたらいつの間にか寄ってきて、実際、予算が通るようになってますから。結局は、痺れを切らして、向こうは市長に歩み寄るしかなくなる。絶対に、こちらから「ノイジー・マイノリティ」に過ぎない既得権益層や古い勢力に近付いてはいけない。そんなことしたら、向こうに取り込まれるだけ。
せっかく「サイレント・マジョリティ」の応援をもらって市長に選ばれたのに、それでは意味がない。市長は、どれだけ議会で居心地が悪くても、市民の代表者としてドッシリしていればいい。半年ぐらい持ち堪えることができれば、既存の古い勢力も嫌がらせを続けられなくなってくる。だんだん自分たちの立場が危うくなってきますから。
ケンカは腹を括ってるほうが勝つ
鮫島 恵まれた家庭環境に生まれ育ち、エリートが集まる進学校で受験テクニックばかりを学んだ昨今の政治家や官僚たちは「政治闘争」の基本を肌で理解していないんですよね。おっかない不良にからまれた体験などないのでしょう。強い者に対してペコペコしても見逃してはくれません。踏みにじられるだけです。「俺をやるなら、やれ! その代わり、お前も道連れにしてやる!」という決死の覚悟を示すしかないんです。「相打ちの極意」ってやつですね。強い立場にいる者ほど「こんなヤツと共倒れしたくない」と怯んで対決を回避するものなんですよ。
子どもの時からエリートとして培養され、ケンカもしたことがない奴ほど、すぐ屈する。
泉 実は私、すっごいケンカしてたんですよ(笑)。こんなこと自慢にもならへんけど。子どもの頃から腹括ってたから、めちゃくちゃケンカが強かった。ケンカって、腕っぷしの強いほうが勝つんじゃなくて、腹を括ってるほうが勝つんです。「こいつには勝てない」と思わせれば、それでいい。まあ、当時のケンカはナイフもなかったしね。いまは殺されるからやらないほうがいいけど。
最後のケンカは20歳かな。三鷹駅の南側のゲームセンターで、不良中学生3人組に因縁つけられて「なんや、このガキ」と表に出て行ったらボコボコにされました。靴も脱げて裸足で帰ってきたんですけど、「これはもうあかん」と思って、殴り合いは卒業しました。
鮫島 捨て身戦法が一番強いんです 私も取材では、絶対に政治家に頭を下げません。「俺を騙したら、お前のスキャンダルを一生かけて見つけてやる」「俺も死ぬけど、お前も死ぬぞ」という覚悟で取材に臨みます。相手に「こいつとケンカしたら、やばいことになる」と思わせないと、権力者と互角には戦えませんよ。取材記者にとって最大の敵は、自分自身の保身です。
泉 それは真実。闘いの局面では、いつも心の中で「一緒に地獄行く覚悟あるんか?」と言っている。「俺は地獄の底にタッチして戻って来れるけど、お前、戻って来れるか?」と。生まれつき、チキンレースには滅法強いんです。
鮫島 ある閣僚経験者が言ってましたけど、エリートはいつも選択肢を二つ用意する。だから、危うくなると必ず安全策に流れていく。でも、ケンカ慣れしてる奴は一つしか選択肢を用意しない。選択肢を二つ持ってる奴と、一つしか持ってない奴がケンカしたら、絶対一つのほうが勝つ。
役人って、基本的に選択肢を二つ持とうとするから、役人を押し切るのは簡単なんですよ。「俺も死ぬけどお前も死ぬよ」って言うと、だいたいすぐ折れる。彼らは死にたくないから。
役所でも一切忖度しなかった泉さんの強さは、20歳まで現役だったというケンカで培われた部分はあるでしょうね。
泉 たしかに負けん気は強いかもしれませんね。
司法修習生の時に、ある事でルール違反と言われて始末書を書かされたことがありました。ホンマに理不尽な話なんですが。それで、体裁だけは始末書書いてるふうにしておいて、中身で「お前らアホちゃうか」みたいな挑戦的な文章を書きました。そしたら、教官に呼び付けられて、激怒された。「泉くん、そんな態度だったら、せっかく通った司法試験が無駄になるよ」と脅されました。そのとき、私は「いいですよ。クビになったら、また来年司法試験を受けて、すぐに戻ってきますから」と言いました。「クビにするならしてください」って。
やっぱり、理不尽に対しては、相手が誰だろうが決して引いちゃいけないというのが根底にあります。それこそ大学生時代は、革マル派も中核派も脅してきましたけど、一歩も引きませんでしたから。
鮫島 この感覚こそ政治闘争。政治家に、絶対必要な感覚です。
労働組合ってホンマに労働者の代表なん?
鮫島 労働組合の中でもとくに連合と政治の問題は、無視できないと考えています。連合は労働者の代表を自任し、政府も連合の意見を飲むことで、労働者の意見を聞いたというアリバイ作りに使っている。でも、実態としては加盟率は十数パーセントに過ぎない。しかも、労働者といっても正規社員で、もはや大企業の代弁者になっている。
とくに旧同盟(全日本労働総同盟)系は製造業の大企業とべったりで、大企業とその正社員の既得権を守るための装置になっていて、非正規雇用の労働者が4割近くに迫る時代にあって、とても全労働者の代表とは言えない。その実態を棚上げして「自分たちは労働者の代表だ」と言い張り、政府も彼らを利用している。
格差社会を深化させたという意味で、連合の罪は非常に重いと考えます。
泉 私自身は市長になってからの選挙でも、連合の支援は受けたことがありません。そういう私からすると、連合も業界団体も、残念ながら既得権益側で、時代の大きな変化に全くついていけてないと感じます。
私自身はあまり連合に良い思いをしたことはありませんけど、他の国に目を向けると、ユニオンや労働組合が基盤となり、社会のネットワークのキーになることはよくあることですから、そういう意味では本来可能性があるはず。
労働者同士が幅広く手を繋ぐ手段としての連合。宗教団体でいえば、宗教連合という形の組織が、市民・国民の側に立った緩やかな政治活動に繋がることは、他の国では当たり前のように実現しています。そこは私も「もうちょっと何とかならんのかなぁ」と。
鮫島 日本は全くそうならないし、気配すらない。
泉 ええ。連合に限っていえば、労働貴族的な面が強くて。私も国会議員のときに声かけられるのはゴルフの誘いばっかりで、「なんで労働組合がゴルフやねん」と思ってました。ゴルフができないので、全て断ってましたけど、ああいうスタンスは正直ねぇ……。「ホンマに労働者の代表なん?」と思ってしまう。
【泉房穂前明石市長と、自民党や公明党、立憲民主党の議員との「決定的な違い」】に続きます
【泉房穂のドキュメンタリーを見る】
『泉房穂を生んだ海の町~明石を心から憎しみ、そして愛した』誰一人見捨てない政治の原点に迫る~情熱的な暴言市長の闘いは全国へ~『政治はケンカだ! 』自民立憲の二大政党政治を地方から突き崩せ