ハードバピッシュ&アレグロな日々

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ジョー・スタッフォード/ジョー・プラス・ジャズ

2024-11-11 21:09:31 | ジャズ(ヴォーカル)

ロックが登場する1950年代以前、アメリカのエンターテイメントの世界は今ほど明確にジャンル分けがされていませんした。当時主流だったのはいわゆるトラディショナル・ポップで、ブロードウェイやハリウッド映画のための音楽をコール・ポーター、アーヴィング・バーリン、ジェローム・カーンと言ったティン・パン・アレイの作曲家達が書き、それを人気歌手が歌うというスタイルでした。歌手たちはまた映画やテレビショーにも出演し、まさに何でもマルチにこなす総合的エンターテイナーでした。

代表的なのは男性だとフランク・シナトラ、ビング・クロスビー、ディーン・マーティン、ペリー・コモ、黒人のサミー・デイヴィス・ジュニア、女性だとローズマリー・クルーニー、ドリス・デイ、ダイナ・ショア、そして今日ご紹介するジョー・スタッフォードあたりが代表的な存在ですね。彼らが歌っているのはポップスなのか?それともジャズなのか?ビッグバンドやストリングスをバックにスタンダードを歌うという点では一緒とも言えますし、明確な線引きがあるわけではないです。ただ、50年代後半になるとポップスがロックやR&Bの要素を取り入れて複雑化して行くにつれ、だんだん差別化されて行きます。たとえばアニタ・オデイやクリス・コナー、ジューン・クリスティはジャズシンガーであってポップシンガーと呼ぶことはないですし、逆にコニー・フランシスやブレンダ・リーらのポップスターをジャズに含めることはありません。

今日ご紹介するジョー・スタッフォードはどちらかと言うとポップ・シンガーの括りに入れられることが多いですが、本作はタイトルにわざわざ「ジョー・プラス・ジャズ」と強調しているだけあって一流ジャズメンを多数起用したジャズ色の濃い内容です。そのメンバーたるや凄いですよ。中核となるのは新旧のデューク・エリントン楽団員と西海岸で活躍していたスタジオミュージシャン達で、前者がベン・ウェブスター(テナー)、ジョニー・ホッジス(アルト)、ハリー・カーニー(バリトン)、ローレンス・ブラウン(トロンボーン)、レイ・ナンス(トランペット)、後者がコンテ・カンドリ&ドン・ファガーキスト(トランペット)、ジミー・ロウルズ(ピアノ)、ジョー・モンドラゴン(ベース)、メル・ルイス(ドラム)と言った豪華な顔ぶれ。指揮するのはジョニー・マンデルです。ちなみに発売元は大手コロンビア・レコード、録音は1960年8月です。

全12曲。おなじみのスタンダード曲をジョーがじっくり歌い上げて行きます。やや低めのどっしりした声ですが、クリス・コナーらのようなハスキーヴォイスではなく、艶もある感じです。ポップスというとジャズより格下に見る方もいるかもしれませんが、それはとんでもない偏見で基本的にトラディショナル・ポップの歌手は皆歌が上手いです。本作はそれに加えて共演するジャズメンの演奏が素晴らしく、とりわけベン・ウェブスターがほとんどの曲でソロにオブリガートにと大活躍し、彼も陰の主役と言って良いでしょう。とりわけバラードでのふくよかで温かみのあるテナーの音色は絶品ですね。

どの曲も水準以上の出来ですが、中でもおススメがジョニー・ホッジスのアルトをバックにジョーが堂々と歌うオープニングトラック”Just Squeeze Me"、ベンのテナー&ドン・ファガーキストのミュートトランペットの伴奏を受けジョーが情感たっぷりに歌う”Midnight Sun"、ラス・フリーマンのチェレステが印象的なバラード"The Folks Who Live On The Hill”、ミディアムテンポのスインガーでベンのテナーソロも堪能できる"What Can I Say After I Say I'm Sorry"、ベンとコンテ・カンドリのソロをフィーチャーした"S'Posin'"等です。「ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン」のバージョンがあまりにも有名な”You'd Be So Nice To Come Home To"も本作のバージョンも負けず劣らず素晴らしく、ジョーの伸びのあるヴォーカルの合間にジミー・ロウルズ、ベン、コンテ・カンドリのソロも彩りを添えます。以上、曲よし歌よし伴奏よしの理想的なヴォーカル名盤です。

 

 

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