モダンジャズの歴史に輝かしい足跡を残したジョン・コルトレーンですが、彼のキャリアはどちらかと言うと遅咲きでした。彼が飛躍へのきっかけを摑んだのは1955年のマイルス・デイヴィス・クインテットへの抜擢ですが、その時点で28歳。18歳でデビューしたリー・モーガンは特別にしても、マイルスやクリフォード・ブラウン、ソニー・ロリンズらが皆20代前半で頭角を現しているのと比べると決して若いとは言えません。
その後も順調にスターダムを上ったかと言うとそうでもなく、プレスティッジを中心に多くのセッションに呼ばれる等仕事の依頼は多かったものの、リーダー作の機会はなかなか回ってきませんでした。彼が記念すべき最初の単独リーダー作「コルトレーン」をプレスティッジに吹き込んだのは1957年5月、30歳の時です。
ソロデビュー作のメンバーも意外と地味です。ピアノは前半3曲がマイルス・クインテットでも一緒だったレッド・ガーランド、後半3曲がプレスティッジのハウス・ピアニストだったマル・ウォルドロン、ベースがポール・チェンバース、ドラムがアルバート・ヒースとリズムセクションについてはそこそこ豪華なラインナップですが、フロントラインが地味です。まずはバリトンサックスにサヒブ・シハブ。後にヨーロッパに渡ってそこそこ活躍しますが(過去ブログ参照)、お世辞にもメジャーとは言えませんよね。何よりトランぺッターのジョニー・スプローンが謎です。彼については本当にこのアルバムでしか名前を見たことがなく、ペンシルヴァニア州ハリスバーグ出身と言うことぐらいしかわかりません。おそらくコルトレーンとはフィラデルフィア時代の知り合いだったのでしょうね。ちなみにサヒブにしろスプローンにしろ、ソロを取る機会は限定的でどちらかと言うとアンサンブルを充実させるための起用のようです。
アルバムはカル・マッセイ作の"Bakai"で幕を開けます。マッセイもフィラデルフィア出身で、同郷のコルトレーンやリー・モーガンに多くの曲を提供しています。サヒブ・シハブのバリトンが印象的なエキゾチックなオープニングの後、まずガーランドが2分半にも及ぶ長尺のソロを披露した後、満を持してコルトレーンが登場。得意のシーツ・オヴ・サウンドで吹きまくり、サヒブのバリトンソロへと繋げます。続く"Violets For Your Furs"は一転して珠玉のバラード演奏。歌手としても有名なマット・デニス作の名曲で、「ユタ・ヒップ・ウィズ・ズート・シムズ」と並んでこの曲の決定的名演です。バラードの名手コルトレーンの絶品のテナーソロに続き、ガーランドが得意のブロックコードを駆使したピアノソロでロマンチックな雰囲気を演出します。3曲目”Time Was”はあまり聞いたことのない曲ですが、原曲は”Duerme"と言う名のメキシコのポップソングらしいです。ミディアムテンポの軽快なナンバーで、コルトレーン→ガーランド→チェンバースとソロをリレーします。
後半の最初はコルトレーンのオリジナル”Straight Street"。コルトレーンに続き、ジョニー・スプローンがようやくトランペットソロを披露しますが、腕前的には可もなく不可もなくと言ったところでしょうか?ピアノはこの曲からマル・ウォルドロンに代わっています。5曲目”While My Lady Sleeps”は再びスタンダードのバラード。そんなにメジャーな曲ではないですが、チェット・ベイカーが「イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー」で歌っていました。ソロはコルトレーンのみでじっくりとバラードを歌い上げます。ラストはコルトレーン自作の”Chronic Blues"。サヒブ→コルトレーン→スプローン→マルとソロを展開しますが、実は3管がソロを取るのはこの曲だけだったりします。以上、コルトレーンのその後の傑作群に比べるとまだまだ発展途上感は否めませんが、それでも内容的には十分傾聴に値する作品だと思います。