本日は渋好みのテナー奏者アイク・ケベックをご紹介します。彼はブルーノートに縁の深い人物で、同レーベルがまだできて間もなかった1940年代半ばにいくつか吹き込みを残しているようです。また、タレントスカウトのようなこともしていて、無名だったセロニアス・モンクやバド・パウエルをブルーノートに紹介したのも彼だとか。一方で演奏活動の方は50年代に入ると停滞期に入ります。理由はご多分にもれずドラッグで、ヘロイン中毒でたびたび収容されるなどして、50年代前半から中盤にかけては全く録音を残していません。
そんなケベックに復帰の手を差し伸べたのがブルーノート社長のアルフレッド・ライオン。1959年にまずジュークボックス向けのレコードを何枚か録音し、1961年にアルバム「ヘヴィ・ソウル」で本格的にカムバックを果たします。その後「イット・マイト・アズ・ウェル・ビー・スプリング」を経て1961年12月に吹き込んだのがこの「ブルー・アンド・センチメンタル」です。
メンバーはグラント・グリーン(ギター)、ポール・チェンバース(ベース)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラム)から成るカルテット編成。ケベックはこれに先立つ2作品でフレディ・ローチのオルガンを起用していますが、ここではオルガンもなければ原則ピアノもなし。ただし、いくつかの曲でグラント・グリーンのギターソロの際にケベック自身がピアノでバッキングしています。ラストトラックの”Count Every Star”だけはリズムセクションがソニー・クラーク(ピアノ)、サム・ジョーンズ(ベース)、ルイス・ヘイズ(ドラム)に代わっていますが、クラークのソロはありません。
全6曲。スタンダードとオリジナルが3曲ずつという構成です。オリジナル曲はマイナーキーの”Minor Impulse"、ジャンプナンバーっぽい”Like"がケベック作で、”Blues For Charlie"がグラント・グリーン作です。中ではグリーンのソウルフルなギターが堪能できる”Blues For Charlie"がおススメです。ちなみにここで言うチャーリーはチャーリー・パーカーではなくモダンジャズギターの開祖チャーリー・クリスチャンのことです。
ただ、このアルバムの聴きどころは何と言ってもスタンダードのバラード3曲でしょう。カウント・ベイシー楽団の名曲”Blue And Sentimental"、コルトレーンも「スタンダード・コルトレーン」で演奏した”Don't Take Your Love From Me"、シャンソンが原曲のロマンチックな”Count Every Star"とどれも絶品です。ケベックは50年代に活動していないせいか、バップ以前の中間派風のスタイルで、コールマン・ホーキンスあたりを想わせる男の色気ムンムンのテナーで悠然とバラードを歌い上げます。グラント・グリーンの良く歌うギターも素晴らしいですね。
ケベックは翌年にボサノバを取り上げた「ソウル・サンバ」を発表。順調な演奏活動を続けているかに思われましたが、肺ガンのため翌1963年1月に44歳で生涯を閉じます。本作はそんな薄幸のテナーマンの短い絶頂期を記録した貴重な1枚です。