前回のソニー・ロリンズに続き、今日はチェット・ベイカーの珍しいビッグバンド作品をご紹介します。パシフィック・ジャズ・レコードに1956年10月に吹き込まれた1枚で、時系列的には「チェット・ベイカー&クルー」の後、「ピクチャー・オヴ・ヒース」の前になります。50年代のチェットはパシフィック・ジャズやリヴァーサイドに多くの名盤を残しているため、その中で本作が挙げられることはまずないですが、個人的にはなかなか充実した出来と思います。
メンバーは大きく2つに分かれており、10月18日&19日のセッションが6管編成によるノネット(9重奏)で、チェット、ボブ・バージェス(トロンボーン)、フィル・アーソ&ボブ・グラーフ(テナー)、フレッド・ウォルターズ(アルト)、ビル・フード(バリトン)、ボビー・ティモンズ(ピアノ)、ジミー・ボンド(ベース)、ドラムは18日がピーター・リットマン、19日がジェイムズ・マッキーンです。
10月26日の方は8管編成で、トランペットにコンテ・カンドリとノーマン・フェイが加わり、フランク・ロソリーノ(トロンボーン)、アーソ&ビル・パーキンス(テナー)、アート・ペッパー&バド・シャンク(アルト)、ティモンズ(ピアノ)、ボンド(ベース)、ローレンス・マラブル(ドラム)です。メンバーだけ見ればこちらの方が西海岸オールスターと言う感じで豪華ですが、彼らはほぼアンサンブルに徹しており、アート・ペッパーやボビー・ティモンズが少しソロを取るくらいです。
全10曲ありますが、日付毎に紹介した方がわかりやすいですね。オープニングの"A Foggy Day"、7曲目"Darn That Dream"、ラストトラックの"Tenderly"が10月26日のセッション。アレンジを担当したのはジミー・ヒースです。ヒースはこの頃麻薬禍で演奏活動から遠ざかっていましたが、チェットの次作「ピクチャー・オヴ・ヒース」にも携わるなどこの時期チェットと関係が深かったようです。どの曲もお馴染みのスタンダードですが、ヒースのモダンなアレンジのお陰でなかなか聴き応えのある演奏に仕上がっています。主役はもちろんブリリアントなチェットのトランペットですが、”Tenderly"ではアート・ペッパーの華麗なアルトソロも聴けます。
10月18日&19日収録の残り7曲はどちらかと言うとオリジナル曲中心。中でもクリスチャン・シュヴァリエとピエール・ミシュロと言う2人のフランス人が作曲にアレンジにと大きく関わっています。うちミシュロはフランスを代表するベーシストとしてマイルス「死刑台のエレベーター」、デクスター・ゴードン「アワ・マン・イン・パリ」等で知られていますが、シュヴァリエの方はあまり聞いたことない名前ですね。なぜ、チェットの作品に彼らが関わっているのかよくわかりませんが、チェットは前年に8ヶ月間にわたるヨーロッパツアーを行いましたのでその時の縁でしょうか?2人が手掛けた曲は”Mythe"”Chet"”Not Too Slow"”V-Line"の4曲で中では"Mythe"がなかなか魅力的なメロディを持った佳曲です。それ以外は「チェット・ベイカー&クルー」にも収録されていたバラードの”Worrying The Life Out Of Me"、フィル・アーソ作のハードバピッシュな”Phil's Blues"、歌モノスタンダードの”Dinah"も収録されています。なお、こちらのセッションではチェットだけでなく、他のメンバーもソロを取る機会が多く、フィル・アーソやボビー・ティモンズと言ったチェットのレギュラークインテットのメンバーだけでなく、ボブ・バージェス、ボブ・グラーフ、フレッド・ウォルターズ、ビル・フードと言った正直あまり聞いたことのないジャズメン達のソロも楽しむことができます。