広く浅く

秋田市を中心に青森県津軽・動植物・旅行記などをご紹介します。

鉄道の復旧

2011-04-19 18:49:06 | 地震
原武史氏という政治学者(1962年生まれ、明治学院大教授)がおられる。鉄道にも造詣が深く、著作物も出している。
その原氏が、ここ1週間ほどの間に、複数の新聞の寄稿やインタビューにおいて、東日本大震災と鉄道復旧についての意見を述べておられる。

それらを僕が解釈するには、
JR東日本は東北新幹線の全線運転再開を急いでいる。その一方、太平洋岸のローカル線の復旧は遅れている。
被災地の足として、さらには精神的な面での復興の意味からも、ローカル線をまず走らせるべき。
ということを言っておられると思う。
※東北新幹線は4月30日頃に全線で運転再開(本数を減らして、減速運転)予定。

被災地での交通手段の確保は必要だと思うし、ローカル線も復興すべきだとは思う。
でも、「新幹線より先に被災地のローカル線を運行せよ」というのには反対だ。

決して被災地・被災者を見捨てるつもりもないが、甚大な被害のローカル線の復旧を待ってから新幹線を復旧させたら、その間に経済活動が停滞し、東北全体いや日本全体に深刻な経済的ダメージが及んでしまうと思う。
原氏はそれでもなお、新幹線より先に、とおっしゃるのだろうか? 現状を理解しておられないように感じてしまう。

被災地の状況を知らない僕にも、つべこべ言う資格はないし、誤解しているのかもしれないが、以下に考えを記させていただく。
・今すぐ鉄道が必要?
津波によって線路や駅が流された所も多い。仮にすぐに鉄道を復旧するとなると、以前と同じ位置に線路や駅を造ることになるだろう。

しかし、今回津波の被害を受けた場所には、住居を再建しない(高台などに移る)方向で検討されていると聞く。
だとすれば、今すぐに線路を前と同じ場所に敷き直したとしても、そのままでは鉄道利用が見込めず、駅や線路の位置を大きく変えなければならない必要が将来的に出てくるだろう。
町全体の“復興”計画が白紙に近い今、いたずらに鉄道を“復旧”してしまうのは、手間と費用の浪費でしかないような気がする。

被災された皆さんは、まだ避難所住まいの方も多く、やっと仮設住宅の入居が始まったのが現状。
避難所や仮設住宅は高台にあるものが多いようだから、住民の足を確保するというのなら、鉄道よりもバスを運行したほうが小回りが利くし、足腰の弱い方や悪天候時も助かるはず。(先日どこかの避難所に青森市営バスの中型車と小型車が写っていた。こうした目的のため応援に行っているのだろう)

被災地の皆さんのどれだけが、「今すぐ鉄道がほしい」と思っているだろうか。まだ時期尚早の気がする。


また、常磐線のうち、福島第一原子力発電所の30キロ圏内にある13駅75キロについては、被害状況の把握すらまだできていないことも忘れてはいけない。

・新幹線も必要です!
被災地があり被災者がいる一方、東北地方といえども普段の通りの生活を送っている、送らなければいけない人もたくさんいる。(我々秋田県民の多くもそうであるわけですが)
新幹線で通勤する人もいる(原氏は「東北地方で新幹線に毎日乗る人はいない」と考えているようだが、います!)し、仕事で仙台や近県へ出張する必要のある人もいるし、お客を待つ観光地もある。
開始が遅れていた各大学の授業がそろそろ始まるようだから帰省先から戻る学生もいるだろうし、単身赴任の行き来や大型連休に帰省する人もいるだろうし、看病や冠婚葬祭で急いで移動しなければいけない人もいるだろう。
そうした人々には、新幹線こそ必要であり、それが使えないのは死活問題と言えるかもしれない。

東北各県の間では人の移動があるのだし、大宮から東京まで、東京から横浜までみたいに普通列車で移動できるような距離ではなく、新幹線が必要なのです。鉄道好きの原氏なら、こんなことはご存知のはずなのだけど…
輸送量は違うが、仮に東海道新幹線が不通になった場合、在来線の東海道本線や高速道路でその代替輸送を行うことは不可能に近いのと同じことだ。

また、遠方(東北地方以外)との人の行き来が成立することによる経済的・精神的な復興効果もあるのではないだろうか。

原氏は「ローカル線の復旧なくして被災地の復興はない」と考えているようだ。
でも、新幹線の復旧がなければ、被災地以外の日常生活や経済活動に影響が出て、悪循環に陥ると思う。「被災地以外が元気になって復興を支えるため」にも、新幹線の全線運転再開が必要だと思う。
東北地方に住む者として言わせてもらえば、貨物輸送やローカル輸送ももちろん必要だが、人を大量に速く運べる東北新幹線も早く復旧してほしい。

・比べること自体
被害状況が異なる新幹線とローカル線を比べて、どっちを早く復旧しろということ自体、ナンセンスな気もする。
東北新幹線は損傷を受けた箇所(約1100箇所)は多かったが、津波で流されたり、橋が崩落したものはなかった。
復旧工事が比較的早く進んでいるのは、これも理由の1つであると思う。

一方、ローカル線は上記のとおり、線路ごと津波で流されるなど甚大な被害が発生している。
津波によるものだけでも、23駅が流失し、総延長約60キロの線路と橋桁101箇所が流失・埋没するなど、計1680箇所の被害が確認されている(4月4日現在。公式リリースより)。
これらを復旧するには、一から新線を設計しなおすような工事になるのではないだろうか。(上記のとおり、集落の移動や今後の津波対策も必要)
新幹線並みの短期間で復旧しろとは、僕はとても言えない。

・責める先はJRではない
こうしたローカル線軽視、新幹線重視、いや鉄道軽視の風潮になってしまったのは、政府(過去と現在の)や国民自身の意識のせいではないだろうか。
近年の高速道路の料金均一/無料化をはじめとする政策、クルマに乗ることを選ぶ住民がいるから、鉄道の役割が軽んじられてきたのだ。
国や国民が、公共交通機関の役割・意義を再認識して、考えを改めることが必要ではないだろうか。

そんな状況で、JR東日本を責めることができるだろうか。
むしろ、偶然もあったのかもしれないが、多数の列車が運行されている時間帯の地震・津波だったのに列車の乗客の死者(負傷者も?)が皆無だったことは賞賛に価する。

新幹線はJR独自の地震感知システムにより、本格的な揺れが来る前に減速できていたし、在来線では複数の列車が津波に押し流されて大破したが、乗客は乗務員の誘導により避難して無事だった。
これらは阪神大震災など過去の教訓を活かし、日頃の研究や訓練を行った成果だと思う。(過去にトラブルを隠し、今回の重大事故発生後も不誠実な対応をし、補償費分を電力料金に転嫁して値上げを目論んでいるとかいう東京電力とは違う)
地震後は被害が軽微だった区間から部分的に運行を再開しているし、JR貨物も秋田など日本海回りで物資や燃料を輸送している。
公共交通機関としての役割を存分に果たしていると思う。

JRだって趣味や慈善事業で鉄道を走らせてるんじゃないんだし、儲けが大きいであろう新幹線を開通させたいのはある意味当然だと思う。
新幹線を開通させれば収入が増えて、ローカル線の復旧の一助にもなるはず。



原氏は、この震災による被災をきっかけにローカル線が廃線になってしまうのを危惧しているようだ。
それは同感だし、そのことを強調したいがために、ローカル線をまず、という論調にしたのかもしれないが、新幹線を必要とする人・地域への意識が完全に欠如しているように感じてしまった。

新幹線か在来線(JR以外の私鉄・3セク含む)かに関わらず、今はとにかく、復旧できるところは早く復旧し、そうでないところは時間がかかっても必ず運転再開することを期待するしかない思う。
鉄道会社にはがんばってもらいたいし、国も支援してもらいたい。
コメント (2)
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