1/17のつづき
武田兄がシャドー。
センターバックが主将の熊澤。
キーパーに副将・中山(以上3年)。
ワントップが唯一の2年・杉本。
この4人を中心に堅守速攻の
オーソドックスなサッカー。
もちろん、勝ち上がるためには
ラッキーボーイも必須。
左インサイドハーフの伊豆が
まさにそうだった。
2回戦での同点弾が彼の公式戦
初めての得点で、最後のゴールは
準決での決勝ヘッドになった。
つまり高校生活の全得点が
最後の県大会の、かつ重要なゴールに。
※※※
〈自分まわりに圧倒的な力を注ぎ、
周辺には関心がない人〉の具体例。
ある日の路線バス。
最後列の5〜7人は座れる長椅子の、
通路に面した中央に陣取り
両サイドに行きづらく座る御仁。
豹柄ジャケットにサイケなシャツ、
細身の黒パンツに赤い靴下とくれば
当然靴は先がとんがっている。
パーマ、サングラスという
絵に書いたようなイデタチの、
とどめはオーデコロン。
無駄に多く振り、匂いが強すぎる。
スマホをいじっていたと思ったら、
前の二人掛に一人で座る
寿司でも握りそうなごま塩短髪の
七十絡みの男性に話しかけた。
彼も窓側を空かせており、
足は通路に投げ出している。
普通なら二人掛けに並ぶものだが、
何しろ〈自分まわり〜〉なので。
「座りたければ一声くれればどくよ」
という発想なのだ、きっと、どちらも。
類は友を呼ぶとはよく言ったもの。
いや二人が友人知人なのが家族なのか
知る由もないけれど(汗)
いずれにしても。
「一声〜」に関しては間違ってはいない。
と脳内でグルグルしていたところで
七十絡みの電話が鳴った。
※※※
やはり全国の壁は厚かった。
完全に相手ペースでの展開は
前半0対2。
素人目には五分五分に見えたが
名門はこちらのカウンターを避け、
ゆったりと攻めてきた。
焦れたところでボールを奪うと
その気持ちが災いして意思疎通がずれ、
逆にインターセプトから
速攻を食らっての失点だった。
特に2点目は、ゴール前の密集で
熊澤と中山が一瞬譲りあって、
滑り込んだ敵FWの足が先んじた
手痛いシーンとなった。
どちらの守備範囲でもあり、
だからこその躊躇だった。
それも一瞬の。
後半開始早々、ハーフウェイで
インターセプトした伊豆が
杉本に長いパスを放り込む。
大きなCBに競り負けたが、
詰めていた武田兄の前にこぼれ出る。
県大会ではゴールを許していない
鉄壁の背番号21だったが、
当たりどころが悪いのが幸い、
結果的にループシュートとなり
ゴール隅に転がって一点差。
しかし、35分。
この日何度目にしただろう
波状攻撃に耐えきれずに3点目。
勝負はほぼ決した。
さすがの「史上最高」のイレブンも
下を向いた。そんな中、
武田兄だけは皆を鼓舞し、
杉本の背を抱いて具体的指示を出す。
※※※
当然、ごま塩氏はスマホに出た。
通話は他愛ない、今晩のおかず。
「今、バス」と切れば良い話だが
「馬鹿、そんなもん食えるかよ〜」
とキツい口調の会話。
だが、それがきっと彼らの日常であり、
幸福な毎日なんだろうと確信した。
つづく