「乳の海」所収。
ロンドンに行った年の夏、足をちょっと痛め、
コルセットなどをあてがって、不自由の身と
いうのを味わったらしい。右の脚が左の脚の
3分の2に二カ月後、痩せ細っていた。
右脚だけ20年くらい歳をとったようだ、と
いうと、温泉に行ってきなさい、と言われる。
その方面に詳しい人に聞くと山梨県の下部という
ところがフジワラくんにはいいだろう、という。
そこで老婆に会い、その老婆は片方の乳がない。
どうやら乳癌のためきってしまったらしい。
神様にもらったもんを罰当たりなこってす、と
その老婆は言う。
その下部を出て、身延についたころにはすっかり
日も暮れていて、老婆に宿を聞いた。その老婆は
あの片方の乳のない老婆にそっくりである。
三日ほど、身延に泊まり、山を歩いていると、
四匹の仔犬を連れた母犬と出会い、母犬は仔犬の
ために身を挺して守る、という話が紡がれてゆく。
(読了日 2024年2・14(水)0:50)
(鶴岡 卓哉)
ンドンに行った年の夏、足をちょっと痛め、
corset