ささやかであたたかな奇跡
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ちょっぴり切なく、ほんのり笑えて、最後はやさしい
人生が愛おしくなる“ささやかな奇跡”の物語5編
奥田英朗のマジックアワー
早期退職を拒み、工場の警備員へと異動させられた家電メーカーの中高年社員たち。
そこにはなぜかボクシング用品が揃っていた――。(「ファイトクラブ」)
五歳の息子には、コロナウイルスを感知する能力があるらしい。
我が子を信じ、奇妙な自主隔離生活を始めるパパの身に起こる顛末とは?(表題作)
ほか “ささやかな奇跡”に、人生が愛おしくなる全5編を収録。
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奥田英朗さんの短編集。
本巻に収められているストーリーにはどれにも、ちょっと不思議な存在や、力が出てきます。
でも、おどろおどろしくはなく、密やかでやさしい。
表題作「コロナと潜水服」は、言うまでもなくコロナ禍中の出来事ですが、
主人公の息子がなぜかコロナウイルスを感知することができるらしい。
そんな彼がある日、パパに、外に出るなというのです。
どうやら、自分が感染しているらしいと彼は思う。
けれど、仕事は自宅でできるにしても、息子を外で遊ばせたり、買い物など、
全く外に出ないでもいられない。
妻も仕事があっていつも家にいることはできません。
そこで「防護服」を買いたいけれど、そんなものはどこで売っているのか?
いや、売っていたとしても、すぐに売り切れて、どこにも見当たらない。
やむなく古道具屋で妻が探し出して古めかしい潜水服を購入。
潜水服というとコロナウイルスを自分が避けるために着用する、と想像していましたが、
この場合は感染した自分のウイルスをまき散らさないように着用するわけなのです。
こう言うやさしさ、涙ぐましさが本作の基調となっていて、
なんだか心がほんわかしてきます。
ラストの「パンダに乗って」。
ここで言うパンダはあの動物のパンダではなくて
イタリア製のコンパクトカー、フィアット・パンダ。
主人公・直樹は、この1980年初期モデルが
新潟の中古車店のホームページで売り出されていることを知り、購入。
引き取りに新潟まで出向きます。
そのパンダはしっかり動くように調整もなされていて、
後に取り付けられたらしいカーナビまで搭載している。
さっそくそれに乗って東京まで戻ろうとして、カーナビをセットしたところ、
それに従うと全く別の所についてしまうのです。
直樹はそんな風にして、数カ所を巡ることになりますが、
そうすると次第にあることがわかってきます。
それはどうやらこのパンダの以前の持ち主に関係するようで・・・。
コレもまたなかなかやさしさに包まれた感動を呼び起こします。
ステキな一冊。
オススメです。
「コロナと潜水服」奥田英朗 光文社
満足度★★★★★