映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「ちょいな人々」 荻原浩 

2011年09月07日 | 本(その他)
おじさまたちの悪戦苦闘

ちょいな人々 (文春文庫)
荻原 浩
文藝春秋


                * * * * * * * *

荻原浩さんの短編集。
この表題「ちょいな人々」は、冒頭の一作の題名。
これはつまり、「ちょいワルおやじ」「ちょいモテ」「ちょい軽」
・・・そういう意味の「ちょい」なのです。
とある会社課長の誠一。
ある日突然社の方針で、金曜日にはスーツ着用を止めて
「カジュアル・フライデー」とすることになった。
しかし、スーツを着ないとなると何を着ていいのか解らない。
彼は職場の女の子に「ジャン・レノみたい」といわれ、その気になってしまい、
ちょいワル親父ふうにセクシーに装ってみようと思うのですが・・・。
薄毛、メガネ、濃いヒゲ・・・これだけでジョン・レノになれるわけじゃないですよね。
女性なら、スーツでなくてもいろいろと、楽しんで装うことができますが・・・
男性の皆様は、よほどおしゃれな人でなければ、確かに大変そうです。
「ちょい」なおじさまたちの悪戦苦闘。
しかし、あくまでも「ちょい」は「ちょい」であって、ホンモノではないのです。
サラリーマンの制服、スーツが結局一番かっこよくて落ち着く・・・。
まあ、それでいいんじゃないでしょうか・・・。


他のどのストーリーもとても楽しいのですが、
「犬猫語完全翻訳機」と「正直メール」がシリーズになっていて、傑作です。
ある会社で新商品を開発するのです。

まず、「犬猫語完全翻訳機」
これは犬や猫のほぼ全身を覆うスーツ状のもの。
商品名「ワンニャンボイス」。
これは、鳴き声だけでなく耳元やしっぽの根元の筋肉の動き、
体温や心拍数・・・
あらゆる情報を読み取り、
しかも文字では無く「声」で犬、猫の思いを「翻訳」してくれるという、夢のようなマシン。
さてところが、いざ動物たちが本音を語り始めると・・・。
いかに人は犬猫の気持ちを勝手に都合よく解釈しているのか、ということが解ります。
確かにそうかもね・・・と、本気で納得しちゃいました。
犬猫の本音なんて、解らない方が幸いのようです・・・。

「正直メール」
さて、この「ワンニャンボイス」で大失敗をした同じ会社で、
今度は「フィンガレスホン」という携帯電話を開発するんですね。
これは声だけでメールを入力したり、送信の操作ができるというもの。
うーん、こんなことはもう既にできそうですけどね。
しかし、ここで開発された商品は、どうにも機能が未熟といいますか・・・。

「うざいな、ったく。もうメールしてくんなよ」
とつぶやいた言葉が、そのままメールとなって相手に届いてしまったり、
「御社からの受注にシステム的なトラブルがあったようです。」
という文にしたつもりが
「怨社からの呪虫に死すて無敵な虎武勇があった妖です。」
になってしまったり・・・。
笑えます。
本当に言いたいことは手間を惜しまず、きちんと自分で書きましょう。
そしてメールでなく、本人ときちんと話しましょう。


しょうもないことに情熱を傾ける人々のさまを、ユーモアたっぷりに描きます。
けれど、どれも自分にもありそうな話。
胸に手を当てつつ、考えてみれば
やはり私も「ちょい」な人・・・

「ちょいな人々」荻原浩 文春文庫
満足度★★★★☆