暴力の応酬と赦し
* * * * * * * *
この作品は、ずっしりと重いテーマをストレートに私たちに投げかけてきます。
「好き勝手に解釈してね」とでもいうような思わせぶりもなく、
説教臭さもなく、
登場人物たちの悩みが、そのまま私たちの心に何かを訴えかけてきます。
しっかりとした手応えのある作品でした。
舞台はデンマーク。
登場するのは、二人の少年とその家族。
まずはエリアス少年。
彼の父は医師でアフリカの難民キャンプで働いています。
普段は母と暮らしていますが、実はこの父母は離婚しているのです。
そしてまたエリアスは、学校ではいじめに遭っています。
そこへ転校してきたのが、母を病で亡くしたばかりのクリスチャン。
彼は母の死は父に責任があると思っており、父親には心を閉ざしています。
さてクリスチャンは、エリアスと同じクラスになり、親しくなります。
そしてエリアスのいじめの相手に暴力を加えるという方法で、いじめを解決しました。
だんだん核心に近づいてきます。
暴力には暴力で対抗するしかない。
クリスチャンはそのことを疑っていませんが、本当にそうなのでしょうか。
エリアスの父、アントンは言います。
すぐに暴力をふるうようなヤツは馬鹿者だ。
そいつに暴力で返したら、こちらもバカということになってしまう。
アントン医師は、アフリカの民族間の争いで、
暴力の応酬や憎しみの連鎖で、更にふくれあがる悲劇をイヤというほど見ているのです。
だから、暴力で仕返ししてはいけない、そんなことには何の意味もない、
とクリスチャンにいいたかったのでしょう。
でもクリスチャンは、殴られて殴り返さないのは弱虫、
そういう思いから、まだ抜け出せません。
さて、アントン医師が仕事をしている難民キャンプに、ある男が担ぎ込まれます。
それはこのあたりで残虐な行為を繰り返している問題の男。
アントンは医師としての勤めを果たすまで・・・と、
努めて平常心で治療に当たりますが・・・。
理性と感情は別物・・・。
いかにもインテリの倫理観は、押さえることができずに爆発してしまうのです。
そのこと自体にまた、深く傷つき自分を嫌悪してしまうアントン医師。
一方、デンマークではまた、クリスチャンの正義感がまた新たな暴力を呼ぼうとしている・・・。
父親と息子、双方が「暴力の応酬と赦し」の狭間で傷つき、苦しんでいます。
彼らのとった行動がよいか悪いか、という問題ではないのですね。
現実にこのような問題は、
個人間の小さなことから、国同士の大きな問題まで、身の回りに満ちている。
私たちはその都度考え、選択していくしかないのでしょう。
そうして、もし過ちを犯したとしても、
私たちはお互いに理解し許し合うことができる。
重く、答えのない問いを投げかける作品ではありますが、
ラストで幾ばくかの希望を感じるのは、
そうした互いの赦しが見られるからなんですね。
未来を生きる子供たちには、そうした暴力の悩みのない世界を作って欲しい。
それは見果てぬ夢に違いありませんが、
せめてほんのひととき、夢を見たい気がします。
クリスチャンが港の高い倉庫の屋上から地上を見下ろすシーンに、
本当にひやひやさせられました。
高所恐怖症気味なので・・・。
でも、クリスチャンのいささか過剰までの正義心と不安定な心を表すのに、
非常に効果的な舞台でした。
未来を生きる君たちへ
2010年/デンマーク・スウェーデン/118分
監督:スサンネ・ビア
出演:ミカエル・パーシュブラント、トリーネ・ディアホルム、ウルリッヒ・トムセン
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この作品は、ずっしりと重いテーマをストレートに私たちに投げかけてきます。
「好き勝手に解釈してね」とでもいうような思わせぶりもなく、
説教臭さもなく、
登場人物たちの悩みが、そのまま私たちの心に何かを訴えかけてきます。
しっかりとした手応えのある作品でした。
舞台はデンマーク。
登場するのは、二人の少年とその家族。
まずはエリアス少年。
彼の父は医師でアフリカの難民キャンプで働いています。
普段は母と暮らしていますが、実はこの父母は離婚しているのです。
そしてまたエリアスは、学校ではいじめに遭っています。
そこへ転校してきたのが、母を病で亡くしたばかりのクリスチャン。
彼は母の死は父に責任があると思っており、父親には心を閉ざしています。
さてクリスチャンは、エリアスと同じクラスになり、親しくなります。
そしてエリアスのいじめの相手に暴力を加えるという方法で、いじめを解決しました。
だんだん核心に近づいてきます。
暴力には暴力で対抗するしかない。
クリスチャンはそのことを疑っていませんが、本当にそうなのでしょうか。
エリアスの父、アントンは言います。
すぐに暴力をふるうようなヤツは馬鹿者だ。
そいつに暴力で返したら、こちらもバカということになってしまう。
アントン医師は、アフリカの民族間の争いで、
暴力の応酬や憎しみの連鎖で、更にふくれあがる悲劇をイヤというほど見ているのです。
だから、暴力で仕返ししてはいけない、そんなことには何の意味もない、
とクリスチャンにいいたかったのでしょう。
でもクリスチャンは、殴られて殴り返さないのは弱虫、
そういう思いから、まだ抜け出せません。
さて、アントン医師が仕事をしている難民キャンプに、ある男が担ぎ込まれます。
それはこのあたりで残虐な行為を繰り返している問題の男。
アントンは医師としての勤めを果たすまで・・・と、
努めて平常心で治療に当たりますが・・・。
理性と感情は別物・・・。
いかにもインテリの倫理観は、押さえることができずに爆発してしまうのです。
そのこと自体にまた、深く傷つき自分を嫌悪してしまうアントン医師。
一方、デンマークではまた、クリスチャンの正義感がまた新たな暴力を呼ぼうとしている・・・。
父親と息子、双方が「暴力の応酬と赦し」の狭間で傷つき、苦しんでいます。
彼らのとった行動がよいか悪いか、という問題ではないのですね。
現実にこのような問題は、
個人間の小さなことから、国同士の大きな問題まで、身の回りに満ちている。
私たちはその都度考え、選択していくしかないのでしょう。
そうして、もし過ちを犯したとしても、
私たちはお互いに理解し許し合うことができる。
重く、答えのない問いを投げかける作品ではありますが、
ラストで幾ばくかの希望を感じるのは、
そうした互いの赦しが見られるからなんですね。
未来を生きる子供たちには、そうした暴力の悩みのない世界を作って欲しい。
それは見果てぬ夢に違いありませんが、
せめてほんのひととき、夢を見たい気がします。
クリスチャンが港の高い倉庫の屋上から地上を見下ろすシーンに、
本当にひやひやさせられました。
高所恐怖症気味なので・・・。
でも、クリスチャンのいささか過剰までの正義心と不安定な心を表すのに、
非常に効果的な舞台でした。
未来を生きる君たちへ
2010年/デンマーク・スウェーデン/118分
監督:スサンネ・ビア
出演:ミカエル・パーシュブラント、トリーネ・ディアホルム、ウルリッヒ・トムセン