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「球道恋恋」木内昇

2018年04月09日 | 本(その他)

日本の野球創世記

球道恋々
木内昇
新潮社

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金なし、地位なし、才能なし―なのに、幸せな男の物語。
時は明治39年。
業界紙編集長を務める宮本銀平に、母校・一高野球部から突然コーチの依頼が舞い込んだ。
万年補欠の俺に何故?と訝しむのもつかの間、
後輩を指導するうちに野球熱が再燃し、
周囲の渋面と嘲笑をよそに野球狂の作家・押川春浪のティームに所属。
そこへ大新聞が「野球害毒論」を唱えだし、銀平たちは憤然と立ち上がる―。
明治球児の熱気と人生の喜びを描く痛快作。

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日本の野球創世記
本作中に、野球が日本にはじめて入ったのは明治初年、とありました。
アメリカとの交易の開始と同時に日本に伝わっていたわけで・・・。
で、野球は徐々に広がっていったようで、明治39年から、この物語は始まります。


銀平はかつて一高の野球部に入っていたのですが、3年間ずっと補欠。
あれほど情熱を燃やし練習にも励んだのに・・・という思いは残っていました。
ところが今になって母校からコーチの依頼が来ます。
どうも、一番ヒマそうだったからのようではありますが・・・。
後輩たちを指導するうちに、銀平の中の野球熱が再燃してきます。
そしてなりゆきで、とある野球チームに所属してしまったりもする・・・。

そんな中である新聞社が「野球害毒論」を唱えます。
野球に夢中になる子どもたちは勉学も疎かになるし、野蛮でガラも悪くなる・・・。
体の特定の部分だけを使うので体に良くないとかなんとか・・・。
ほとんど言いがかりなのですが、野球好きの面々が黙っていられるわけがない。
勢い込んで反撃を開始します。


本作はフィクションなのですが、この事件は実際にあったことのようです。
しかしまあごぞんじのとおり、これで野球が消えたりはしない。
見るだけでも面白いですもんね!


そして面白いのはこの「害毒論」の言い出しっぺの新聞社が
後に「全国高校野球大会」を立ち上げるわけなのですよ。
野球の歴史としてみるのも面白い。


始め一高生たちは
「ブント(バント)など、卑怯な手は絶対に使わない。武士道に反する!」
などと息巻くのですが、バントは反則ではないのだし、
他の学校がどんどん取り入れて試合を有利に運んでいるので、
無視できなくなってしまうのです。
こんなふうに、銀平がコーチとして野球に関わってからも、
いろいろな野球の技術や用具がどんどん新しく取り入れられていく。
まさに創世記。


さて、でも本作はそんな野球の歴史ばかりの話ではありません。
一応業界紙の編集という仕事を持っている銀平が、どんどん野球にもめり込んでいく。
だからといって仕事を疎かにしているわけではありません。
でも、人からは言われてしまう。
「お金にもならないのに、何でそんなことをいつまでも続けているんだ」。
今でこそ趣味は趣味としてそこまで言う人もいなかろうと思いますが、
当時のことなので・・・。
特に、銀平の父は表具職人で、銀平を跡継ぎにしたかったのですが
銀平があまりにも不器用で、それは叶わなかった・・・。
その彼が野球なんぞにうつつを抜かしているというのがなんとも面白くない。
銀平自身も、特別才能があるわけでもないのに、どうして野球を続けているのだろう・・・と考えてしまう。
自らの魂が求める何かがそこにあるのだろうと、私は思ったりするわけですが。
楽しい作品でした。

図書館蔵書にて
「球道恋恋」木内昇 新潮社
満足度★★★★☆