ハルキスト必読の書
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みみずくは黄昏に飛びたつ―川上未映子訊く/村上春樹語る― |
川上未映子,村上春樹 | |
新潮社 |
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芥川賞作家にして、少女時代からの熱心な愛読者が、村上春樹のすべてを訊き尽くす。
騎士団長とイデアの関係は?
比喩はどうやって思いつく?
新作が何十万人に読まれる気分は?
見返したい批評家はいる?
誰もが知りたくて訊けなかったこと、その意外な素顔を、鮮烈な言葉で引き出す。
11時間、25万字の金字塔的インタビュー。
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作家川上未映子さんが村上春樹さんにインタビューした内容を収録してあります。
本作は特に「騎士団長殺し」に触れています。
川上未映子さん、よほど村上春樹ファンと見えて読み込み方がタダモノではありません。
「あの話で、あの人があんなことを言ったのですが・・・」
と切り出しても、村上氏は
「え?そうなの? 覚えてないなあ・・・」
なんてことも多くあります。
村上氏は原稿を仕上げる間はもう、何度も何度も読み直して手直しをしていくといいますが、
本が出来上がってしまってからはほとんど読み返すことはないそうなのです。
それで、記憶に残らないというのはなんだか納得できるのですよ。
以前、「忘れたいのに忘れられないことを忘れてしまう方法」
について書いた本を読んだことがあって、
つまりその内容を詳細に書き記せばいい、ということ。
そこまで何度も何度もじっくり心ゆくまで推敲を重ねれば、
その後は何の心の憂いもない。
ということで記憶に残らないというメカニズム。
ほんと、わかります。
そんなわけで、なんだかこのインタビューは川上未映子さんの突っ込みまくりなのがとても面白い。
それもまあ、多くを読み込んでいればこそ。
通り一遍に読んだだけではとてもこんなインタビューは出来ません。
さて、そんな中でも読者が最も知りたいことについて、もちろん聞いていただいています。
私など一番気になる地下2階のこと。
通常の小説などで出てくる「意識下」というのが地下1階で、
村上作品に出てくる井戸の底のようなことは地下2階、というのですね。
また、村上作品は表層上では意味不明なことがたくさん起こりますが、
私達読者はついいろいろと「解釈」しようとする。
その解釈を評論として本まで出してしまう人もいますよね。
でも村上氏はあっけらかんと、特に意味などないとおっしゃいます。
何を思うかは人それぞれで、正解なんかない。
著者自らは何も意図していない、と。
それを何か特別な意味をもたせようとしたら、
それはもう小説として失敗、ということのようです。
つまりは、どこが気になって、どのような解釈を巡らせるか、
それこそが読む者個人の井戸なのでしょう。
ということであれば、少し私も気が軽くなったような・・・。
この本の表題「みみずく」については、
「騎士団長殺し」の中で屋根裏にいたみみずく、なんですね。
それについて、川上未映子さんはおっしゃっています。
「時制や論理を超える物語には、いわゆる神の視点とは異なる、
何にも関与しない超越的な存在が物語内に必要で、
みみずくはまさにそれそのものです。」
当の村上氏は「いたかな、みみずく。みみずくは見た(笑)」
なんて言っている。
深く鋭い川上未映子さんのツッコミをひたすら風に受け流しつつ、
自らの小説スタイルをしっかりと解く・・・という体の本なのでした。
ハルキストと称する方なら必読の書。
図書館蔵書にて
「みみずくは黄昏に飛びたつ」川上未映子&村上春樹 新潮社
満足度★★★★.5