映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

窓辺にて

2022年11月09日 | 映画(ま行)

何かをあきらめるとき

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フリーライターの市川(稲垣吾郎)。
編集者である妻・紗衣(中村ゆり)が、担当している若手人気作家と
浮気していることに気づいていましたが、それを妻に言うことができません。
また、その浮気を知ったときに、自分の中に怒りの感情がわかないことに戸惑っていました。
そんな頃、ある文学賞の授賞式で、
高校生作家・久保留亜(玉城ティナ)と出会った市川。
彼女の受賞作「ラ・フランス」の内容に惹かれ、
その小説にモデルがいるのなら会ってみたいと話します。

何か(それは自分がそれまで大切にしてきた仕事や、
恋愛、結婚生活などいろいろなことに当てはめることができるのですが)を
あきらめるとき、それは自分のためでなく、相手のため・・・。
そんな言葉が胸に残りました。

今のままの状態では、自分も苦しいけれど、相手はもっと悩み苦しむのではないか・・・。
そんな思いが、裏には必ずあるような気がします。

市川は昔小説を書いていて、たった一冊本を出しています。
けれどその後すぐに、もう本は書かないと宣言して、止めてしまいました。
その時の編集者が妻・紗衣。
その過去のたった一冊には、市川のいなくなってしまった恋人のことが書かれていました。
紗衣は、自分と結婚しても、自分のことを何も書こうとしない市川に
ちょっぴり傷ついていたようなのです。
結婚していても、直接は言えないこと、聞けないことも多いですね。

「どうして、たった一作で書くことを止めてしまったのか」
そのことを紗衣は聞けなかったのです。

実はその答えはラストの方にあって、結局市川はもう一冊本を書いたらしい。
それこそが紗衣との結婚生活の結末の答えでもある・・・という、
あまりにもストンと落ちる気がするエンディング、
何やら深い感慨に浸ってしまいました。

自分は妻が浮気しても怒りも感じない、感情の薄い冷たい人間なのだと市川は言う。
でも、なんだかそういうこともあるような気がするのです。
少なくとも私はそれで市川が冷たい人だとは思わない。

この人は、口で色々と表現することは苦手なのだけれど、
きっと「小説」という枠組みのなかで
自分の感情をうまく昇華させることができるのだろうと思います。

この茫洋として感情の起伏が少なそうに見える市川のイメージ、
稲垣吾郎さんにピッタリでした。
今泉力哉監督とのよい出会いであったと思います。

それと、高校生にして文学賞受賞、大人びてみずみずしい感性の持ち主、留亜。
そのカレシというのが金髪の少年。
しかし意外にもこの二人は、純情で純愛の仲であったらしい。
というのがなんとも興味深いです。
若い人は皆ませていて進んでいる・・・というわけではないですよね。

私の推しの若葉竜也さんも出演していますし、
要所要所で深いところの感情が刺激される
私にとっては宝物のような作品でした。

 

<シネマフロンティアにて>

「窓辺にて」

2022年/日本/143分

監督・脚本:今泉力哉

出演:稲垣吾郎、中村ゆり、玉城ティナ、若葉竜也、志田未来、倉悠貴

 

大人の恋愛度★★★★☆

満足度★★★★★