湿地にたった一人で生き抜く少女
* * * * * * * * * * * *
全世界でヒットしたディーリア・オーエンズの同名ミステリ小説の映画化。
私もぜひ読みたかったのですが、読まないうちに映画を見ることになってしまいました。
でも、本作はやはりストーリーを知らずに見るのが正解。
むしろ読まずにいてよかった。
ノースカロライナ州の湿地帯。
将来有望な資産家の青年が変死体となって発見されます。
犯人として疑われたのは付近で「湿地の娘」と呼ばれている少女カイア。
彼女は6歳の時に両親に捨てられ、学校へも通わず、
湿地の自然から生きる術を学び、たった一人で生き抜いてきたのです。
人々は町の人と交わろうともしないそんな彼女を、薄気味悪く思い、
実の名を知ろうともせずに、ただ「湿地の娘」とだけ言って、
忌まわしいものとしてウワサをするだけ・・・。
この度も、ろくな証拠もないままに、
人々のあの子が怪しいというウワサだけで、逮捕に至りました。
さてそんな中、カイアの半生が語られて行きます。
町から離れた湿地帯にある一軒家。
父親がひどいDV男。
耐えきれずにまず母が出ていき、姉たちが出ていきます。
そして最も親しかった兄も出て行ってしまい、
カイアは恐ろしい父親と二人きりに。
ところが次にはその父自身が出て行ってしまった。
幼い少女はそれでもできうる限りのことをして、一人で生き抜いていきます。
湿地で採れたムール貝を雑貨屋さんに持って行って、他の必要なものと交換。
ここの雑貨屋の夫婦だけが彼女をそっと見守ります。
やがてカイアはこの湿地によく来るテイトという少年と親しくなり、字を教わったりします。
本が読めるようになった彼女の世界が広がります。
しかしやがてテイトは大学に入り、この地を去ってしまう。
約束した日に戻っても来ず、手紙も来ない・・・。
そんな失意の彼女の心につけ込んだのが、金持ちのボンボン、チェイス。
彼の口車に乗せられて、カイアはすっかり彼の虜になってしまうのですが、
実は彼には婚約者がいて・・・。
そう、このいい加減な男、チェイスこそが冒頭に死体で発見された男であります。
そんなわけで、カイアには殺人の動機がないわけでもないのですが・・・。
さてさて、どうなりますやら。
・・・ということでストーリーが抜群に面白いのですが、本作の魅力はそれだけではありません。
舞台背景となった湿地の光景がなんとも魅力的です。
実はワニが住んでいたりもして危険もあるのでしょうけれど、
様々な虫や鳥が息づき、それらと共に生きる野性的な少女の姿を魅力的に形作ります。
そして、カイアという「個」の輝きがなんといっても素晴らしい。
この孤独な生活で、誰でもいいからそばにいてほしいと思う
弱さを見せることもあるのが、またいいのです。
生きるために大人の思考力や知識を身につけながらも、
実はまだ人恋しくうぶな娘であるというアンバランスさが魅力になっているのです。
そしてもちろん、ここまでたった一人で生きてきたというたくましさも。
こんなカイアだからこそ、私はラストにもさほどの驚きは持ちません。
なんとも、シビれてしまう作品。
<シネマフロンティアにて>
「ザリガニの鳴くところ」
2022年/アメリカ/125分
監督:オリビア・ニューマン
原作:ディーリア・オーエンズ
出演:デイジー・エドガー=ジョーンズ、テイラー・ジョン・スミス、ハリス・ディキンソン、
マイケル・ハイアット、スターリング・メイサー・Jr. デビッド・ストラザーン
湿地の魅力度★★★★☆
意外な展開度★★★★☆
満足度★★★★★