余命10年は、長いのか短いのか
* * * * * * * * * * * *
病気のオンナノコの話は嫌いです・・・、といつも言っているのに、やはり見てしまう。
本作は、見逃してしまうにはあまりにも惜しい、豪華キャストなもので・・・。
20歳の大学生・茉利(まつり)(小松菜奈)。
数万人に一人という不治の病に犯され、余命10年を宣告されます。
療養のための入院は2年にも渡り、大学卒業はそこであきらめなければなりませんでした。
退院後も病気が完治したわけではなく、残りの命を数えて生きるような、苦しい日々・・・。
茉利は生きることに執着しないように、恋はしないと心に決めています。
ですがそんなある日、同窓会で和人(坂口健太郎)と出会い、恋に落ちてしまいます。
予定とは大きく変わる彼女の10年。
けれど、茉利は自分の病が不治の病であること、
余命わずかであることを和人に伝えられないのです・・・。
和人の登場の仕方がちょっと意外でした。
彼は仕事をクビになって、生きる意味を見失い自殺を試みてしまうのです。
ですが、失敗に終わります。
そんなところへ見舞いに来た茉利は、「ずるい」と言い捨てて帰ってしまう。
生きたくても生きられない人がいるのに、なぜ自分の命を粗末にするのか・・・
茉利はそういう気持ちがあふれ出てしまったのですね。
和人にはその言葉が胸に刺さって忘れられず、茉利と付き合うようになるわけです。
確かに、元気ではつらつとして自信満々の男性とは、
茉利は付き合う気にならなかったでしょう。
和人の弱さ・やさしさは、逆に病気の自分でも励ますことができる。
ただ“かわいそう”な存在にはなりたくない。
それが自分の病気を打ち明けられない理由でもあるわけですね。
余命10年というのは、長いのか、短いのか、ちょっと微妙
という表現が作中にあり、実際私も本作の題名を見たときにそう思ってしまいました。
でもこれは、例えばよくある「高校生くらいの女の子が、残り1~2年の命を生きる」
のとは少し意味が違ってくると思うのです。
20歳からの10年間。
恋愛関係の人がいるとすれば、当然結婚も視野に入ります。
でも自分はその結婚生活の途中でいなくなることが分かっている。
とすれば、相手にとって結婚することがよいのか、悪いのか・・・。
相手に負担ばかりを負わせることが分かっていて、結婚はできないとも思う。
「青春」ではなく「人生」がかかった決断をしなければならないということで、
大変重いですね・・・。
本作は「フィクション」ではあるけれど、
著者・小坂流加さん自身のことがかなり反映されています。
小坂流加さんは、「余命10年」文庫版の編集が終わった直後、
病状が悪化し、2017年2月に38歳で逝去されたそうです。
小松菜奈さんと坂口健太郎さんが、見事にこの二人を演じてくれました。
感涙。
<WOWOW視聴にて>
「余命10年」
2022年/日本/125分
監督:藤井道人
原作:小坂流加
脚本:岡田惠和、渡邊真子
出演:小松菜奈、坂口健太郎、山田裕貴、奈緒、黒木華、
田中哲司、原日出子、松重豊、リリー・フランキー
満足度★★★★★