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「幻の声 髪結い伊三次捕物余話」 宇江佐真理

2015年12月08日 | 本(その他)
宝の山発掘

幻の声―髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫)
宇江佐 真理
文藝春秋


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髪結いを本業とする傍ら、北町奉行の定廻り同心・不破友之進のお手先をつとめる伊三次。
芸者のお文に心を残しながら、銭にならない岡っ引き仕事で今日も江戸の町を東奔西走する。
呉服屋の一人娘を誘拐した下手人として名乗り出た元芸者の駒吉は、
どうやら男の罪を被っているらしく……(表題作より)。
伊三次とお文のしっとりとした交情、法では裁けぬ浮世のしがらみ。
人情味溢れる五編を収録。
選考委員満場一致でオール讀物新人賞を受賞した渾身のデビュー作!


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何やら申し訳ない気持ちでいっぱいですが、
宇江佐真理さんの「髪結い伊三次シリーズ」、遅ればせながらやっと読み始めました。
シリーズの分量がかなりになっていたことと、
「伊三次」というのが勝手な想像ながら、年輩のオジサンかと思っていたので、
手を付けていなかったのですが、
あらら、そうではありませんでした。
伊三次はなんと25歳。
だから、私が勝手に想像していた「懐の広い親分肌のオヤジさん」ではなくて、
まだ血気盛んな若者です。
まだ店を持たない通いの髪結いで、同心・不破友之進の髪結いに通ううちに、
ちょっとした調査などを頼まれるようになったということなんですね。
そしてこれは「捕物帳」とか「捕物控」ではなくて、「余話」というのがミソ。
確かに何かしら不審な出来事はあるのですが、
その謎というよりも、そんなことになってしまった人の心情を中心に描いています。
人の心は江戸の世も今も同じ。
いえ、いまのように「人権」だの「自由」という概念がない江戸を舞台としたほうが、
よりくっきりとそのしがらみや人情が浮かび上がります。
だからこそ、時代小説のジャンルは廃れず、人気を保ち続けているわけですね。


伊三次のいいひと、お文さんは芸者で、
互いにいつかは一緒になりたいと思っているのですが、
伊三次はまずきちんと独立した店を持ちたいと思っている。
互いに意地っ張りで素直な気持ちを口にできなかったり、
ちょっと気の揉める仲なのも読者としてはスリリングです。
本巻最後の「星の降る夜」では、
伊三次がようやくためた大金がなんと盗まれてしまうという事件が発生。
きっちり下手人を突き止めた伊三次は、男を死罪にまで追い込もうとするのですが、
事情をくんだ不破同心からそれを諌められるシーンも。
いかにもまだ若い伊三次らしさが伺えるし、
決して優等生ではない、というところがまた魅力的です。
そしてまた、伊三次とお文がそう簡単に一緒にはなれない
という展開もまた、あとを引きます。
長くシリーズが続いたのにも納得。
宝の山を見つけた気分です。
この先もたっぷり味わいながら読ませてもらおうと思います。
私にとっての宇江佐真里さん追悼です。

「幻の声 髪結い伊三次捕物余話」 宇江佐真理 文春文庫
満足度★★★★★


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