映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「シーソーモンスター」伊坂幸太郎

2023年01月14日 | 本(その他)

対立する海族と山族の壮大な歴史の中で

 

 

* * * * * * * * * * * *

バブルに沸く昭和後期。
一見、平凡な家庭の北山家では、元情報員の妻宮子が姑セツと熾烈な争いを繰り広げていた。
(「シーソーモンスター」)

アナログに回帰した近未来。
配達人の水戸は、一通の手紙をきっかけに、ある事件に巻き込まれ、
因縁の相手檜山に追われる。(「スピンモンスター」)

時空を超えて繋がる二つの物語。
「運命」は、変えることができるのか――。

* * * * * * * * * * * *

本作はなかなかユニークな成り立ちをしています。
伊坂幸太郎さんが提案したようなのですが、
8人の作家で、数千年の時を超える物語を書きつなごう、と。
テーマは対立。
名付けて「螺旋プロジェクト」。
そのルールは、

・「海族」vs.「山族」の対立を描くこと

・共通のキャラクターを登場させること

・共通シーンや象徴モチーフを出すこと

 

ということで、
朝井リョウ、天野純希、伊坂幸太郎、乾ルカ、
大森兄弟、澤田瞳子、薬丸岳、吉田篤弘
の8名が、原始から未来に至る壮大な物語の各パーツを担うことになったわけです。

とは言え、その一つ一つは独立した物語でもあって、
どこから読んでも読まなくてもOKということのようなので、
私はまずその言い出しっぺ、伊坂幸太郎さんの一冊を手に取りました。

 

本巻は昭和後期を描く「シーソーモンスター」と、
近未来を描く「スピンモンスター」が収められています。

「シーソーモンスター」では、対立する海族と山族の血を引くと思われる二人が
なんと嫁と姑の関係になってしまい、
ただでさえ剣呑な関係なりそうなところが、ただならないことになってしまう。
しかもその嫁は元スパイというのがいかにも伊坂幸太郎さん。
だから単なる家庭内騒動の話にはなりません。

 

そして、時は過ぎて「スピンモンスター」では、
AIが世の中を支配しつつある近未来が描かれます。
ここで対立関係となるのは、2人の男性。
双方子どもの頃に同じ交通事故で家族を皆亡くして、孤児となって生きてきた。
双方が加害者遺族であり被害者遺族でもあるという微妙な関係。
特に親しく話したこともないけれど、
なぜかお互い対面すると異常な緊張感や敵愾心を抱いてしまうという・・・。

そしてこの物語には前作の元スパイである「嫁」が老女となって登場します。
時の流れは地続きなんですね。

結構楽しめました。
他の関連作品、全部とは言いませんが
いくつか、また機会があれば読んでみたいと思います。

 

「シーソーモンスター」伊坂幸太郎 中公文庫

満足度★★★★☆

 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿