ゴッホと日本
* * * * * * * * * * * *
19世紀後半、栄華を極めるパリの美術界。
画商・林忠正は助手の重吉と共に流暢な仏語で浮世絵を売り込んでいた。
野心溢れる彼らの前に現れたのは日本に憧れる無名画家ゴッホと、
兄を献身的に支える画商のテオ。
その奇跡の出会いが“世界を変える一枚”を生んだ。
読み始めたら止まらない、
孤高の男たちの矜持と愛が深く胸を打つアート・フィクション。
* * * * * * * * * * * *
原田マハさんによるゴッホとその弟テオの物語。
実在の画商、日本人の林忠正と、その助手・架空の人物・重吉を絡めて描かれています。
実在の人物と架空の人物との融合。
この手法は先に「リーチ先生」にもあった通り、
私たちが親しみやすい架空の人物を「観察者」に仕立てて、
著名な人物の近辺に配置し、
より身近な存在として描き出すことに成功しているのです。
ゴッホについては、近年いくつかの映画でも見ていて、少しわかった気になっていました。
でも本作、さすが日本人の手によるもので、
いかに日本の浮世絵などが当時のヨーロッパの美術に衝撃と影響を与えたかということが
しっかり描かれていて、嬉しく読みました。
しかるに当時、当の日本では浮世絵はほとんど新聞紙のような扱いで、
茶碗の包み紙に使われていた・・・ということで、
この時代に多くの価値ある日本の美術品が海外に流出してしまった
というのも仕方のないことかもしれません。
ともあれ、ゴッホも又、日本の浮世絵には大きな影響を受け、
浮世絵を模した作品まであるくらいですものね。
そうしたことが描かれているのも、さすが原田マハさんならでは。
そして、私、弟テオが画商でありながら、どうして兄の作品を売ることができなかったのか
と疑問に思っていましたが、つ
まりテオは画廊の支配人とはいえ、オーナーは他にいて、雇われ支配人だったのですね。
だから当時貴族やお金持ちに好まれたアカデミックな絵画以外の
「ヘンテコな絵」は売るどころか、置くこともできなかったということなのです。
なるほど、納得。
今でこそ、ありとあらゆる種類の絵画があふれていますが、
当時は写実的で美しいものが「絵画」だったわけで、
そのときに初めて見た浮世絵がどんなに衝撃的だったのか、
想像するだけで、なんだかわくわくします。
表現は自由で、無限に広がっている。
そのような芸術の萌芽の時代。
興味は尽きません。
しかしその開花を見ないままに、亡くなってしまったゴッホと
その後を追うように逝ってしまったテオ。
この切なさが又、たまりません。
作品は残る。
それが救いです。
「たゆたえども沈まず」原田マハ 幻冬舎文庫
満足度★★★.5
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます