映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ヤコブへの手紙

2011年05月16日 | 映画(や行)
手紙の相談者を救っているのではなく・・・

            

            * * * * * * * *

フィンランド作品です。
恩赦を受けて、12年ぶりに刑務所を出所したレイラ。
彼女は、片田舎で暮らす年老いた盲目のヤコブ牧師の元に身を寄せることになりました。
そこでの彼女の仕事は、ヤコブ牧師へ届く様々な人々の悩みの手紙を朗読し、
その返事を代筆すること。
レイラはここの暮らしも仕事も全く乗り気ではなく、
なるべく早くここを出ていこうと思っていたのです。
こんな手紙など何の意味もないと思っていた・・・。
盲目で全く無防備な牧師と、
一癖ありそうな、ムショ帰りの女。
なにかありそうだ・・・と、私たちは知らず緊張してしまうのです。
嫌気がさした彼女は、手紙をこっそり捨ててしまったりも・・・。
ところが、あるときからぱったりと手紙が届かなくなります。
そうするとヤコブ牧師は生き甲斐をなくし、
どんどんと落ち込んでいく・・・。
「私は神にとって必要のない人間だったのか・・・」
これまでの長い牧師としての生活すらも否定するような、
こんな思いに囚われてしまうヤコブ。

レイラとヤコブ牧師の、行き場のない孤独な心が次第に浮かび上がってきます。
レイラもこんな牧師にあきれて、この家を飛び出そうと思うのですが、
彼女自身、どこにも行くところなどありません。
そんな彼女に、牧師は、「まだいてくれたのか」と優しく語りかける。
「これまで私は手紙の人々を助けていると思っていた。
けれども、私はこの手紙に助けられていたんだ・・・」
そのように気づくヤコブ牧師。

そうしてラストには、静かな感動が待ち受けています。
レイラがここへ来た意味。
ヤコブ牧師はどこまでも誠実で優しいですね。
結局は、この柔らかな心が、
ささくれ立ったレイラの心を癒していったのでしょう。
自分を省みない慈愛の精神。
そういう人は強いのかと言えば、やはり弱い一人の人間。
だから私たちは支え合って生きていくのでしょうね。


ところで、この作品のオフィシャルサイトに気になることが書いてありました。
本当に郵便配達人は善人なのか?というのです。
なぜ彼は家に忍び込んだのか。
彼の新しい自転車はどうして手に入れたのか。
なぜ急に手紙が来なくなったのか。
おっと、そういう話だったのでしょうか? 
深読みに過ぎる、
というか、あんまりそのように考えたくないというのが本音です。
その答えはもちろんありません。
そんな謎をのこして、私たちの心根が試されているような・・・。

「ヤコブへの手紙」
2009年/フィンランド/76分
監督:クラウス・ハロ
出演:カーリナ・ハザード、ヘイッキ・ノウシアイネン、ユッカ・ケイノネン


最新の画像もっと見る

コメントを投稿