映画と本の『たんぽぽ館』

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燃ゆる女の肖像

2021年08月31日 | 映画(ま行)

密かな営みだけが・・・

* * * * * * * * * * * *

18世紀フランス。

ブルターニュの貴婦人から娘・エロイーズ(アデル・エネル)の見合いのための肖像画を依頼され、
孤島の屋敷を訪れたマリアンヌ(ノエミ・メルラン)。
エロイーズは結婚を嫌がっていて、肖像画を描かれることを拒否しているため、
マリアンヌは正体を隠し、単なる散歩相手として接しながら、密かに肖像画を仕上げます。
しかしエロイーズは、完成したそれを見て「これは私じゃない」というのです。

マリアンヌはもう一度絵を描き直すことを決意。
美しい島を散歩し、音楽や文学について語り合い・・・、
エロイーズを深く知ることによって、本当の「肖像画」ができあがっていく・・・。
そして接近していく2人の心・・・。

マリアンヌは、エロイーズの姉が先に結婚することになっていたのだけれど、
崖から身を投げて死んでしまった、と聞かされます。
そしてやむなく繰り上げで、修道院にいた妹エロイーズが呼び戻されたのだと。

そのように聞いて、おそらくマリアンヌは地味で暗い顔をした娘を想像したのではないでしょうか。
少なくとも、私はそう思いました。
そして、初めて会ったエロイーズはフードをかぶってマリアンヌの前を駆け出します。
ようやく追いついたところで、エロイーズは初めて振り返り、顔を見せる。
すると意外にも、意志が強く聡明そうな顔。
ものすごく印象深いシーンでした。

2人はやがて秘密の関係へと進んでいくのですが、本作、18世紀。
舞台が現代なら単にレズビアンの愛情物語なのですが、
この時代が背景というのは当時の「女性の立場」を抜きに語ることはできません。

修道院は、歌や音楽があり、図書室があって良かったとエロイーズは言います。
しかるにここでは、生きるために、見知らぬ男と結婚しなければならない。
修道院の方がまだ自由ということか・・・。
そういう風に考えたことがなかったので、虚を突かれた感じです。
また、この屋敷のメイド・ソフィが妊娠しており、
マリアンヌとエロイーズが、子を堕ろす手助けをします。
おそらくは男に単にもてあそばれた結果であったのでしょう。
未婚で出産などと言うことは当時はとんでもない破廉恥な罪だったわけなので、
出産という選択肢はありません。
男の側の責任は一切問われず、
女ばかりが肉体的にも精神的にも打撃を受けることになる。

マリアンヌはかろうじて画家である父の後を継ぐということで、
自分の才覚で生きていける立場ですが、
逆にそれは結婚を諦めるということでもあるのです。
女であるが故の苦しさを、皆が抱えている。

そんな中で、2人の密かな営みだけが、自由に羽ばたける時なのです。

 

マリアンヌが絵を描くためにエロイーズを見つめる視線。
その時、エロイーズもまたマリアンヌを見つめることになるのです。
エロチックに交わされる視線。

 

オルフェウスとエウリュディケーの神話のエピソードが効果的に挿入されていました。
別れの後二度と合うことがないとわかっているから、
最後に一目見てその姿を胸に刻み込みたい・・・そんな思い。

だからエロイーズはその後マリアンヌと逢うチャンスがありながら、
決して顔を見ようともしなかった。
あの時が最後、そう胸に誓っていたからに違いありません。

映像の一つ一つがそれこそ絵画のように美しい作品でした。

 

「燃ゆる女の肖像」

2019年/フランス/122分

監督・脚本:セリーヌ・シアマ

出演:ノエミ・メルラン、アデル・エネル、ルアナ・バイラミ、バレリア・ゴリノ

 

感応度★★★☆☆

美しさ★★★★★

満足度★★★★☆

 



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