映画と本の『たんぽぽ館』

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「デトロイト美術館の奇跡」原田マハ

2018年04月24日 | 本(その他)

生活の中にある美術

デトロイト美術館の奇跡
原田 マハ
新潮社

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ゴッホ、セザンヌ、マティス。
綺羅星のようなコレクションを誇る美術館が、市の財政難から存続の危機にさらされる。
市民の暮らしと前時代の遺物、どちらを選ぶべきか?
全米を巻き込んだ論争は、ある男の切なる思いによって変わっていく―。
アメリカの美術館で本当に起こった感動の物語。
『楽園のカンヴァス』『暗幕のゲルニカ』の系譜を継ぐ珠玉のアート小説。

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原田マハさんは、やはりその経験を活かした
美術館キュレーター関係のストーリーで本領を発揮する気がします。
この「デトロイト美術館の奇跡」は、100ページあまりの可愛らしい本。
表紙に描かれているのはセザンヌの「画家の夫人」の絵です。
不機嫌な顔をした女性が、質素な服を着て腰掛けている・・・というちょっと地味な絵ですけれど、
作中で非常に重要な位置を占めている絵で、
この本を読んだ人なら、読後にこの表紙をきっとまたしげしげと眺めることになるはず。
実物を見てみたくなりますね。

2013年。
かつて自動車産業で栄に栄えたデトロイトの街は、
今や見る影なく廃れて、財政破綻。
市民の生活が脅かされるまでになっています。
そこで目をつけられたのは「デトロイト美術館」の莫大な価値のある美術品。
これを売却すれば相当の金額になる・・・。
けれども、これを売却すればこの街の誇る美術品は散り散りばらばらになって、
もう二度と買い戻すこともかなわないだろう。
歴史ある美術館も閉じなければならない・・・。


本作で、この美術館に通い、数々の絵画屋美術品を眺めることを至福の時間としている市民の代表として、
名もなき一庶民を取り上げているのが、すごくいい。
それは、自動車会社に40年務めた挙げ句、人員整理で解雇されたアフリカン・アメリカンの男性。
それまで美術などに興味もなく、美術館に行ったこともなかったのですが、
退職後妻に勧められて美術館に一度足を運んでからは、
すっかりこの美術館が大好きになって、ちょくちょく足を運ぶようになったのです。
その妻があっけなく亡くなってしまった後も。
彼は、市の財政破綻のために美術品を売却することになりそうだという新聞記事にショックを受けて、
ある行動を起こすのですが・・・。


金持ちの趣味ではなく、慎ましい生活を送る庶民の生活の中にある美術・・・。
そうした視点が素晴らしくて、ちょっぴり泣きたくなってしまう作品なのでした。

中編なので他の作品と抱き合わせで本になる可能性もあったと思うのですが、
このようにかわいい一冊にまとめたことは正解だと思います。


図書館蔵書にて
「デトロイト美術館の奇跡」原田マハ 新潮社 1200円
満足度★★★★★



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