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「坊っちゃん忍者幕末見聞録」奥泉光

2017年06月06日 | 本(その他)
幕末の京都見聞録

坊っちゃん忍者幕末見聞録 (河出文庫)
奥泉 光
河出書房新社


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「坊っちゃん」、幕末に現る!
庄内藩で霞流忍術を修行中の松吉は、
尊王攘夷思想にかぶれたお調子者の悪友・寅太郎に巻き込まれ、
風雲急を告げる幕末の京への旅に。
坂本龍馬や新撰組ら志士たちと出会い、
いつのまにか倒幕の争いに巻き込まれ…!?
奥泉流夏目漱石『坊っちゃん』トリビュート小説にして、歴史ファンタジーの傑作。

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奥泉光さんの時代物? 
つい興味を惹かれます。


主人公、松吉は忍術の修行中。
しかし、時は幕末、すでに実際に忍術を使う場もないし、
その技術も何代も伝承するうちに怪しくなっているのです。
そこで彼の師匠は、薬草を摘んだりして、
医者もどきのことをして生活を立てている。
松吉はそれを習い覚えるうちに、なんとなく医者になってみてもいいかな・・・?
くらいに思い始めます。
決して立派な志として、希望に燃えたりはしないのですが。
たまたま悪友の寅太郎が尊皇攘夷思想にかぶれ、江戸へ行くというので、
お供についていくことになります。
行く先は江戸のはずだった。
しかし、その前に物見遊山で京都にも行こうと・・・京都へ。
幕末の京都は物騒でスリリングですよ~。
しかし二人はここに居着いてしまいます。
松吉はちょうどよく医師の師匠が見つかったので、
そこに住み込んで修行することに。


さて、ところでなんでこれが「坊っちゃん」なのか。
松吉は庄内藩のお国言葉丸出し。
江戸っ子ではないし、行先も四国ではない。
でも、シニカルに周囲の人達のドタバタを見つめる視線と文体が、
それと言えばそれらしい。
巻末の万城目学氏による解説では、
「坊っちゃん性」とは
「新たな土地にやってきた主人公が、正直を貫いた結果、破れ、元の土地へこと」
とあります。
なるほど、そういうことなら納得。


そして、私達にはおなじみの新撰組や坂本龍馬が登場するのには嬉しくなってしまいます。
私は特に沖田総司がイメージ通りの爽やかな好青年として登場するので、最高! 
この松吉がまた、真っ直ぐで勤勉なんですよ。
医師の修行と言ったって、殆どは下働きなのですが、
全然それを厭わないし、夜毎にテキストの写本に励んだりする。
友の頼みは断りたいけど断れないし、
新しい思想にすぐに飛びついたりもしない冷静なところも。
(単に深く考えないタチなだけか?)
なんか好きですねえ、この感じ。
意外といい医者になると思うけど。


さてところで、こういう話ながら、
やっぱり奥泉光だ!!と思う部分があるのです。
幕末の京都が、時折現代の京都と滲んで混じりこんでいる。
河原で武士たちが今にも斬り合いを始めようとするところを、
橋の上から見物しているのは、現代の観光客たち。
カメラを構えて、早く始めろと野次を飛ばしている・・・。
彼らは映画の撮影か何かと思っているようですけれど・・・。
時間軸が何処かで歪んでつながってしまっているというか・・・。
このあたりがさすがの奥泉マジック。
痛快な物語でした。

「坊っちゃん忍者幕末見聞録」奥泉光 河出文庫
満足度★★★★☆


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