映画と本の『たんぽぽ館』

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「童の神」今村翔吾

2022年04月17日 | 本(その他)

辺境の、差別される一族

 

 

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「世を、人の心を変えるのだ」「人をあきらめない。それが我々の戦いだ」
――平安時代「童」と呼ばれる者たちがいた。
彼らは鬼、土蜘蛛……などの恐ろしげな名で呼ばれ、京人から蔑まれていた。
一方、安倍晴明が空前絶後の凶事と断じた日食の最中に、
越後で生まれた桜暁丸は、父と故郷を奪った京人に復讐を誓っていた。
そして遂に桜暁丸は、童たちと共に朝廷軍に決死の戦いを挑むが――。
差別なき世を熱望し、散っていった者たちへの、祈りの詩。

第10回角川春樹小説賞(選考委員 北方謙三、今野敏、角川春樹 大激賞)受賞作にして、
第160回直木賞候補作。

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今村翔吾さんは「塞王の楯」で第166回直木賞を受賞していますが、
本作はそれ以前の作品です。

平安時代。
ここで言う「童」とは。
元からその地に住まう者、あるいは貧しい者。
京の人々が驕り、蔑みの対象とした人々。
夷(えびす)、滝夜叉、土蜘蛛、鬼、犬神、夜雀など、
侮辱した呼び名で呼ばれている者たち。
そんな中の1人、桜暁丸(おうぎまる)は、父親も故郷も京人に奪われ、復讐を誓っていました。
力をつけ、各地の「童」たちと手を結び、攻撃してくる朝廷の軍と戦う。
その闘いは、一度や二度ではなく、各地で散発的に数十年にも及びます。

やがて、桜暁丸は人々から酒呑童子と呼ばれるようになる。
対する朝廷軍の面々として、源頼光、渡辺綱、坂田金時など・・・。
歴史伝承などに疎い私はそこでようやく気づいたのです。
つまりこれは、源頼光が鬼を退治したという、
あの伝説を「鬼」側から描いたものがたりだったのか、と。
鈍すぎて、ゴメンナサイ!ですね。

それにしても、「鬼」というのが、
京の人々から辺境の野蛮な一族と蔑まれていた人々を指している
という設定が秀逸な物語です。

本作中の桜暁丸は、どうやら母が、どこから流れ着いたのか金髪碧眼の美女だったらしく、
彼自身も茶髪で緑がかった目をしていて、人々から忌み嫌われていたようなのです。
今ならイケメンでモテまくりだと思いますが。

同じ人間なのに、どうして差別され、忌み嫌われるのか。
せめて皆が等しく暮らせる世の中ならいいのに・・・というのが彼の望み。

そして戦で何度も顔を合わせることになる坂田金時やその息子、渡辺綱なども
実に勇猛果敢に描かれていて、双方に不思議な連帯感のようなものも芽生えていきます。
ただし、互いの立場は動かすことができないので、敵同士というのは変わらないのですが。

もしかして、こんな風に都の「権威」と闘い敗れて、
歴史に埋もれてきた者たちが多くいたのかも知れない・・・。
そんな風に思いを巡らしてしまう一作です。

 

図書館蔵書(単行本)にて

「童の神」今村翔吾 角川春樹事務所

満足度★★★★☆

 



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