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「生きるぼくら」 原田マハ 

2015年11月29日 | 本(その他)
稲とともに成長する青年の物語

生きるぼくら (徳間文庫)
原田 マハ
徳間書店


* * * * * * * * * *

いじめから、ひきこもりとなった二十四歳の麻生人生。
頼りだった母が突然いなくなった。
残されていたのは、年賀状の束。
その中に一枚だけ記憶にある名前があった。
「もう一度会えますように。私の命が、あるうちに」マーサばあちゃんから? 
人生は四年ぶりに外へ!
祖母のいる蓼科へ向かうと、予想を覆す状況が待っていた―。
人の温もりにふれ、米づくりから、大きく人生が変わっていく。


* * * * * * * * * *

本作の出だしはなかなか悲惨です。
24歳人生(人生)は、ひきこもり。
その原因はいじめ・・・ということで、
またいじめか・・・と私は少しがっかり。
(その訳は・・・→「東京すみっこごはん」)
でもまあ、そこからどうやって立ち上がるのかというのが「ドラマ」になるわけなので、
この題材が多く用いられるのは仕方ないのかなあ・・・などと思いつつ。


ここでは、人生の母がある日突然、
わずかな現金を置いたきり家出(?)をしてしまうのです。
とにかく外へ出なければ食料も買えないし、
何かをして稼がなければ、お金もすぐに尽きてしまう。
やむなく彼は母が残した年賀状の文面を頼りに、
子供の頃よく訪れて楽しかった思い出のある、蓼科の祖母を訪ねてみることにしました。


しかしそこにいたのは、認知症で人生のことを孫と認識できないマーサばあちゃんと、
つぼみという若い女性。
人生はここで3人で共同生活を送ることにします。
マーサばあちゃんは、以前からここで自然農法による米作りをしていたのです。
それは有機農法とか無農薬農法とも違い、そもそも畑起こしもしない。
もともとある稲の力を信じ、
害虫などの駆除は、自然の生態系サイクルに任せるのです。
そして田植えや稲刈り、脱穀なども
機械は一切用いないので、全て人力。
雑草取りも夏の暑い盛りなどは一日も油断できない重労働。
でも村の人達がそれぞれ忙しいのに手伝ってくれます。
マーサばあちゃんの田んぼは、
村の人達が呆れながらも、古来の稲作の文化を残すことに共感を持ってくれている
大切な田んぼなのです。
人生は、認知症のばあちゃんだけど、
いつかばあちゃんが握ってくれた美味しいおにぎりをまた食べるために、
この米作りを引き継ぐことを決意!!


ひきこもりだった人生はそれでもネット上で友人がいて、
人とはつながっていると思っていました。
けれど、実際に共に暮らす"家族"や、彼らを気遣い手伝ってくれる村の人達の中で、
本当の人と人との繋がりを実感していきます。
そんな中で自分は生かされているのだと。
稲とともに成長する青年の物語。
楽しくて、一気読みです。


ただ、あまりにも周りの人々がいい人だし、
お米作りも労力としての大変さは描写がありますが、
実は病害虫とか気候とか、もっと大変なことは山ほどあるはず・・・と思うと、
すべてがうまく行きすぎているという感じを拭いようがありません。
特に、彼らのことを何かと面倒を見てくれる志乃さん、
私も大好きではありますが、あまりにもできた人物過ぎです。
田舎にいるのはいい人ばかり、というのは幻想なのでは。
ちょっとリアリティに欠ける・・・、
つまりこれはファンタジーなのだと思えばいいのかな?
と~ってもいいお話なのだけれど、
素直に浸りきれない私なのでした。

「生きるぼくら」 原田マハ 徳間文庫
満足度★★★.5


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