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「ピータ-・パンとウェンディ」J・M・バリー

2024年01月19日 | 福音館古典童話シリーズ

女子の位置づけを考えると、ちょっと複雑

 

 

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福音館古典童話シリーズ 第5巻。

ある夜、ウェンディたちは「ネヴァーランド」へ飛び立ちます。
妖精、海賊、人魚、それに人食いワニ
――大人にならない少年ピーターと一緒に、わくわくする冒険が始まります。

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ピーター・パンは知らない人がいないくらいの、世界中で親しまれている物語。
元々は舞台劇で「ピーター・パン 大人にならない少年」がロンドンで初演されたのが1904年。
それが色々と形を変えながら、上演されたり、出版されたりして、
本作「ピーターとウェンディ」が出版されたのが1911年ということです。

 

著者、ジェームズ・マシュー・バリーのこの物語にヒントとなったのは、
ケンジントン公園散歩でよく出会うデイヴィズ一家の子どもたち。
バリーは子どもたちと妖精の国を冒険するという遊びをしていたのだとか。
その体験がこの物語の原点なのでしょう。

いつまでも大人にならずに、少年の心のままでいたい・・・、
最も強くそう思っていたのはバリー自身に違いありません。

でも子どもの世界は、自由であるばかりではありません。
そこにはいじわるな妖精がいたり、人食いワニがいたり、
命を付け狙う海賊たちがいたりします。

ピーターは、「こども」そのもので、気ままでわがままで、そして自由。
ちょっぴり残酷でもあり、そして孤独でもある。
さらにはマザコンである・・・。
そんな彼ではありますが、結局彼は彼の国を捨てて「親」の庇護を受けることを選ばず、
100年以上を経た今でも、どこかで自由気ままに、
時には危険な冒険をも楽しんでいることでしょう・・・。
というところには、やはりロマンがありますね。

また、作中の海賊フックは、ただ尊大で残酷なだけではなく、
思った以上に複雑な思考の持ち主でありました・・・。

 

そして、この時代のことなので仕方なくはあるのですが、
つまり本作の「こども」はすべて男の子であって、女子ではないのです。
ウェンディはピーターの国へ行ってさえも「母親」の役をしなければなりません。
子どもたちを寝かしつけたり、靴下の穴を繕ったり・・・。
女であれば誰でも始めから、家事も育児も大好き。
そういうものだとなんの疑問もなく決めつけられているのが、
私にはつらく感じられました。

我が児童文学のセンセイはおっしゃいます。
「女性には人権はなかった。
 ようやく女性に人権が認められるようになったのはつい最近のこと。」
確かに、欧米でも女性に選挙権ができたのはせいぜいが100年前くらいのこと。

本作を読むと、そういうことがにわかに身近に感じられます・・・。

 

ということで振り返ってみると、「ふしぎの国のアリス」のアリスは女の子でありながら、
なんと自由であったでしょう!! 
本作よりも以前に描かれたものであるのに! 
これには喝采を送りたい。

 

図書館蔵書にて

「ピータ-・パンとウェンディ」J・M・バリー 石井桃子訳 福音館書店

満足度★★★☆☆

 



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