物語の迷宮
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汝にかかわりなきことを語るなかれ――。
そんな謎めいた警句から始まる一冊の本『熱帯』。
この本に惹かれ、探し求める作家の森見登美彦氏はある日、
奇妙な催し「沈黙読書会」でこの本の秘密を知る女性と出会う。
そこで彼女が口にしたセリフ「この本を最後まで読んだ人間はいないんです」、
この言葉の真意とは?
秘密を解き明かすべく集結した「学団」メンバーに神出鬼没の古本屋台「暴夜書房」、
鍵を握る飴色のカードボックスと「部屋の中の部屋」……
幻の本をめぐる冒険はいつしか妄想の大海原を駆けめぐり、謎の源流へ!
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本作は「熱帯」という一冊の謎の本にまつわる物語。
誰もこの本を最後まで読んだ人がいないというのです。
続きを読みたくても、どこの書店に古本屋にも、ネットの情報にも引っかからない。
この本を読んだことがあるという人々はいつしか集まり、
その内容について覚えていることを話し合うようになります。
しかし始めの方は皆なんとか思い出せるのですが、
途中からは誰も思い出すことができない。
そもそも誰も最後まで読んでいない。
読もうとしてもある日突然本が消え去っていた・・・?
次第に私たちは物語の中に引き込まれ、
そして、自分のいる物語上の位置を見失っていく。
誰が語り手の場面なのか。
どの話とつながっているのか。
過去、未来、現在、そして己の立つ位置があやふやになり、幻惑されていきます。
本は単なる文字の連なりに過ぎないけれど、
いつしか自分自身が「本を読んでいる自分」から離れて、
どこか遠くの異界にワープしているような・・・
そんな気になることが確かにありますね。
私がいちばんそんな風に感じたのは、栗本薫さんの「グインサーガ」でした。
よく心がノスフェラスの砂漠をさまよったりしたものです・・・。
そんな感覚を、森見登美彦さんが物語に仕立て上げた本なのであります。
この本は多分、しっかりと起承転結として完結していないと納得できない人には、
満足しにくいのではないかと思います。
なんだかよくわからないけれど、幻想的な雰囲気が好き、と思える人なら、マル。
私はどちらかというと前者なので、
正直、すごく面白かったとは思えなかったのですが・・・。
図書館蔵書にて
「熱帯」森見登美彦 文藝春秋
満足度★★★☆☆
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