密かに人間たちを見続ける存在
* * * * * * * * * * * *
人間そっくりのロボット「カゲロボ」が
学校や会社、家庭に入り込み、いじめや虐待を監視している
――そんな都市伝説に沸く教室で、カゲロボと噂される女子がいた。
彼女に話しかけた冬は、ある秘密を打ち明けられ……(「はだ」)。
成長の遅い娘のことを「はずれ」と言い、「交換」を頼む母の電話を聞いてしまったミカ。
突然、離婚した父のもとに預けられることになり、
そこでもう一人の「ミカ」の存在を知る……(「かお」)。
何者でもない自分の人生を、誰かが見守ってくれているのだとしたら。
共に怒ってくれるとしたら。
押し潰されそうな心に、刺さって抜けない感動が寄り添う、連作短編集。
* * * * * * * * * * * *
人間そっくりのロボットが私たちの社会の中に紛れ込んでいて、
私たちを監視している・・・
そんな都市伝説がウワサされる世の中。
木皿泉さんの連作短編集です。
カゲロボは私たちの生活、特に学校生活ではいじめの場面などをじっと見つめながら、
しかし特に何もしない。
弱い者を助けたりしないし、強者を罰することもない。
いじめる側がひどい目にあうとすれば、
それは自らが撒いたタネでそうなってしまう・・・。
このようなストーリーを見るうちに、
私はカゲロボとはすなわち“神”であるように思えてきました。
それぞれの短編には特につながりがないように見えて、
しかし終盤、先の話に繋がる物語が描かれます。
中でも本作中最も印象深い、ネコの足を切断するシーン。
いじめを受けている少年が、加害者に「ネコの足を切れば許してやる」と言われ、
(そもそも、許してやるってなんだ?!)
切羽詰まってやむを得ず実行してしまうのです。
そのネコが、終盤にまた登場。
実はカゲロボらしかったそのネコ。
いや、まさに“神”でしょう・・・。
決して恐い存在ではない。
実はいて欲しいカゲロボなのでした。
「カゲロボ」木皿泉 新潮文庫
満足度★★★★☆
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます