映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「我が家のヒミツ」奥田英朗

2018年07月31日 | 本(その他)

家族の「常識」なんかない。

 

我が家のヒミツ (集英社文庫)
奥田 英朗
集英社

* * * * * * * * * *


結婚して数年。
自分たちには子どもができないようだと気づいた歯科受付の敦美。
ある日、勤務先に憧れの人が来院し…(「虫歯とピアニスト」)。
ずっと競い合っていた同期のライバル。
53歳で彼との昇進レースに敗れ、人生を見つめ直し…(「正雄の秋」)。
16歳の誕生日を機に、アンナは実の父親に会いに行くが…(「アンナの十二月」)。
など、全6編を収録。
読後に心が晴れわたる家族小説。

* * * * * * * * * *


奥田英朗さんの「家族」の小説、短編集。
同様に家族を題材にした著者の短編集は「家族日和」、「我が家の問題」とありまして・・・
あ、調べてみたら私はちゃんと読んでいましたね。
どちらもお気に入りの本。
そして本巻も、またお気に入りの本となりました。

★「正雄の秋」では、53歳で同期のライバルとの昇進レースにやぶれた正雄の心境を描きます。
もはや出向する他なく、すっかり意欲をなくしてしまった彼を、妻は責めたりしない。
むしろこれまでが忙しすぎたのだから、少しのんびりできていいじゃない・・・と。
彼女の慰め方も押し付けがましくなく、さりげない配慮と愛情が伺われていいのですよねえ・・・。
出世に失敗したっていいじゃないですか。
こんな奥さんをもらえたことこそが人生の勝利ですよね。

★「手紙に乗せて」は、53歳の妻を亡くした夫の様子が、
社会人2年目の息子・亨の視点で描かれます。
父親の落ち込みようがあまりにもひどく、
ろくに食事もろくにノドを通らない様子なのが心配になってしまう亨。
でも実は彼自身も母を亡くし大きな喪失感の中にいます。
そんな時彼は気づく。
周りの人は葬儀の時にはお悔やみを述べ、気遣いをしてくれるけれど、
同じ年くらいの若い人たちは何日か経てばもうすっかり忘れたように普段どおりの態度になる。
けれど、家族を亡くすという同様の体験をしたある程度年配の人ほど
時間が経っても気遣いを見せる。
それは「家族を失う」という体験の有無の差で、
そうした経験がない人にはその辛さを想像できないのだ、ということ・・・。
確かにそうだなあ・・・と、私も今の歳になって思い知るのであります。
それにしても、亡くなってここまで家族を落ち込ませるなんて、
なんてステキな妻であり母であったことでありましょう・・・。
そんなことも偲ばれます。

★「妻と選挙」
作家の妻が突然、市会議員選挙に出馬することになるというお話。
あれ?と思ったのですが、以前作家の妻がランニングに夢中になる話があったのでは?(「我が家の問題」)
もしかして続きの話でしょうか。
この本はすでに手元にないと思うので、確認できません・・・。
が、いづれにしても妻の「生きがい」を作家も認めていくという方向性がなんともウレシイのですよ。
作家自身は次第に本も売れなくなっていて落ち目・・・という状況で
逆に妻を応援しようとするあたりが特に。
これまでの一般的な「小説」なら、絶対に反対することになりそうな気がするのですが。
古い「常識」にとらわれず新たな「家族」のあり方を展開していくところが、
このシリーズの良さなのだと思います。
そしてまた、どうやらこの本は「家族」とともに生きる
自分自身の教科書のようなものに思えてきてしまいましたよ・・・。
どれも幸せな読後感。
オススメです。

「我が家のヒミツ」奥田英朗 集英社文庫

満足度★★★★★



最新の画像もっと見る

コメントを投稿