映画と本の『たんぽぽ館』

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カルテット! 人生のオペラハウス

2013年05月03日 | 映画(か行)
音楽の原点に帰り、そして自分自身に帰る



            * * * * * * * * *

ダスティン・ホフマン初監督による映画作品。
引退した音楽家たちが暮らす「ビーチャム・ハウス」。
最近資金繰りが苦しく、
今度のコンサートが成功しなければハウスの存続があやしいという状況に追い込まれています。
そこに、かつてのスター、ジーン(マギー・スミス)が新たに入居してきます。
ところが、そこの住人レジー(トム・コートネイ)は、浮かない顔。
というのも、ジーンはかつてレジーの妻だった。
二人は結婚してまもなく破局。
カルテットを組んだ仲間でもありながら、
未だに顔も見たくないほど嫌っている(?)らしいのです・・・。
でも、次のコンサートの成功のために、
是非ジーンも加わってもらい伝説のカルテットを復活する必要が・・・。



ジーンは実力はNO.1ながら、かなり野心丸出しで自己中。
周りの人を傷つけることも多かったようなのです。
そんな彼女と組むのはゴメンだとレジーは思うのですが、
それ以上に、ジーン自身がイエスと言いません。
彼女は、老いて最高の状態で歌うことができないことを自覚しています。
そしてそのまま歌を続けることを自分で許せない。
だから、彼女はきっぱりと歌うことをやめていたのです。
彼女は歌うことを自分の楽しみと感じてはいなかったのでしょう。
確かに、プロというのはそういうものかもしれません。
それでお金を稼ぐ以上、
一定のレベルを保つことが義務であり、時には苦しみでもある。


けれども、私はこのハウスに暮らす人々の、
生活とともにある音楽の数々のシーンがとても素敵に感じられました。
プロではなく、自分のために、自然発生的に生まれる音楽の楽しみ。
今作は、ジーンが音楽の楽しさという原点に還っていく物語なのだと思います。
そして、自分の本当の心を取り戻していく物語。



このハウスは老人ばかりが寄り集まっているわけではありません。
時には学生たちが音楽の講義を受けに来たり、
子どもたちがピアノを習いに来たり。
こうした年齢を超えたふれあいがあるのもいいし、
いつもそこここで歌ったり、アンサンブルを楽しんだり、
時にはダンスをしたり・・・
こんな環境、ステキだなあと憧れてしまいました。
私自身は、音楽は何もできないので、
何かの職員として紛れ込みたいと思ったりして・・・。


出演しているハウスの住人たちは、実際の著名な音楽家。
エンドロールでは、彼らの若いころの写真とともに、人物紹介がなされています。
どれもとびきり若々しく魅力的。
どんなにみずみずしく素敵な人も、
やがては年老いて動作も鈍くなり、しわに覆われて行く。
あたりまえのことなのですが、
それを受け入れられるのは、ほんとうに自分が年老いたときなのだなあ・・・と、この頃感じます。
若い人は自分がシワだらけの年寄りになるなんてこと、想像もしないものです・・・。
けれど、年老いていくと、体が不自由になる代わりに、
なんだか気持ちが自由になっていく気がするんですよね。
最高のレベルでなくてもいい。
自分と周りの人がほんのひと時でも楽しめればそれでいい。
自分が「何者か」になどならなくてもいい。
そういうありのままの充足を感じられるようになるのかも。
・・・というか、そうなりたいものだと思います。



「カルテット! 人生のオペラハウス」
2012年/イギリス/98分
監督:ダスティン・ホフマン
出演:マギー・スミス、トム・コートネイ、ビリー・コノリー、ポーリーン・コリンズ、マイケル・ガンボン
音楽の楽しさ★★★★★
老いを考える★★★★☆
満足度★★★★☆



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