薄気味悪いほどの善意
* * * * * * * * * *
「私は殺人鬼を解き放ってしまったのか?」
元裁判官・梶間勲の隣家に、
二年前に無罪判決を下した男・竹内真伍が越してきた。
愛嬌ある笑顔、気の利いた贈り物、老人介護の手伝い・・・。
竹内は溢れんばかりの善意で梶間家の人々の心を掴む。
しかし梶間家の周辺で次々と不可解な事件が起こり・・・。
最後まで読者の予想を裏切り続ける驚愕の犯罪小説!
* * * * * * * * * *
本作、怖いというか、うす気味の悪い話でした。
文庫にしては割りとボリュームがあるのですが、
この梶間家の行く末が心配で心配で、
一気読みに近く、読みふけってしまいました。
紹介文にある通り、もと裁判官の梶間の隣家に、竹内という男が越してきてから、
梶間家の中がぐちゃぐちゃになっていきます。
過剰なほどのおせっかいで、いい人と思われる竹内ですが、
何か人の家を覗うようなところがある。
この家の家族構成は、一家の主、元裁判官の勲と
その妻・尋恵。
勲の母(寝たきり)。
長男俊郎とその嫁・雪見。
長男夫婦の幼い娘・まどか。
尋恵は家事と義母の介護に疲れ果てています。
けれど嫁姑の仲は比較的良くて、まあ、うまく行っている家庭でした。
隣に竹内が越してくるまでは。
まず竹内はおばあさんの介護を手伝いましょう・・・ということで、
この家に入り込んできます。
義母は嫁が介護するのは当然と思っており、
感謝の言葉一つ口にしたことがありません。
そのくせ、自分の娘(つまり勲の姉)が来れば大げさに喜び、ありがたがる。
全くこれではたまりませんよね。
尋恵はこの小姑にも気を使わなければならず、
ストレスのあまり倒れるところまで行ってしまいます。
そんな心の弱ったところに竹内はつけ込んできたわけですね。
いえ、それは実際"善意"なのです。
けれど、その押し付けがましいほどの善意が
次第に気味悪く感じられてくる。
それにしてもこの介護の件で、
私は勲の無関心度に実はかなり頭にきました。
なぜ妻にばかり全てを押し付けるのか・・・。
今は介護サービスだってあるのに。
彼は母ばかりか孫の面倒すら見ずに、ふんぞり返っているだけ。
尋恵はそのことに愚痴もこぼさず、実によくやっています。
う~ん、これが普通の日本の家庭像?
ちょっとひどすぎますね。
・・・しかし、本作、後の方で、勲の家族への無関心の問題を突くシーンもちゃんとあるのです。
よしよし、そうでなくっちゃね。
いやいや、はじめから竹内を無罪にしてしまったことと
勲の心のありようは別ものではないということで・・・。
小説として、実にうまくできています。
それから、長男の俊郎も、全くニブイというかしょうもない奴です。
最後の最後まで竹内のことをいい人と思っている。
そこへ行くと嫁の雪見は、サバサバとしていて好きです。
彼女にも悩みはありつつ、感がいいですよね。
この家はこの女たちで成り立っているようなものです。
嫁と姑の陰湿なバトルにならないところがまたいい。
著者は男性ですよね?どうしてこんなにきちんとした女性心理を描けるのか、
不思議なくらいです。
ともあれ、こうして、じわじわと武内への疑惑が積もっていきながら、
終盤のサスペンスへと一気に盛り上がっていくところもスゴイ。
結局は病的といえるほどの異常性癖を持つ男の話・・・ですが、
もし身の回りにこんな人がいたら・・・と思うと怖いですねえ。
そうして、こちら側の家族の結束とか人間性をも問われそうなところが
またオソロシイ・・・。
まさに衝撃の一作でした。
「火の粉」雫井脩介 幻冬舎文庫
満足度★★★★★
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「私は殺人鬼を解き放ってしまったのか?」
元裁判官・梶間勲の隣家に、
二年前に無罪判決を下した男・竹内真伍が越してきた。
愛嬌ある笑顔、気の利いた贈り物、老人介護の手伝い・・・。
竹内は溢れんばかりの善意で梶間家の人々の心を掴む。
しかし梶間家の周辺で次々と不可解な事件が起こり・・・。
最後まで読者の予想を裏切り続ける驚愕の犯罪小説!
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本作、怖いというか、うす気味の悪い話でした。
文庫にしては割りとボリュームがあるのですが、
この梶間家の行く末が心配で心配で、
一気読みに近く、読みふけってしまいました。
紹介文にある通り、もと裁判官の梶間の隣家に、竹内という男が越してきてから、
梶間家の中がぐちゃぐちゃになっていきます。
過剰なほどのおせっかいで、いい人と思われる竹内ですが、
何か人の家を覗うようなところがある。
この家の家族構成は、一家の主、元裁判官の勲と
その妻・尋恵。
勲の母(寝たきり)。
長男俊郎とその嫁・雪見。
長男夫婦の幼い娘・まどか。
尋恵は家事と義母の介護に疲れ果てています。
けれど嫁姑の仲は比較的良くて、まあ、うまく行っている家庭でした。
隣に竹内が越してくるまでは。
まず竹内はおばあさんの介護を手伝いましょう・・・ということで、
この家に入り込んできます。
義母は嫁が介護するのは当然と思っており、
感謝の言葉一つ口にしたことがありません。
そのくせ、自分の娘(つまり勲の姉)が来れば大げさに喜び、ありがたがる。
全くこれではたまりませんよね。
尋恵はこの小姑にも気を使わなければならず、
ストレスのあまり倒れるところまで行ってしまいます。
そんな心の弱ったところに竹内はつけ込んできたわけですね。
いえ、それは実際"善意"なのです。
けれど、その押し付けがましいほどの善意が
次第に気味悪く感じられてくる。
それにしてもこの介護の件で、
私は勲の無関心度に実はかなり頭にきました。
なぜ妻にばかり全てを押し付けるのか・・・。
今は介護サービスだってあるのに。
彼は母ばかりか孫の面倒すら見ずに、ふんぞり返っているだけ。
尋恵はそのことに愚痴もこぼさず、実によくやっています。
う~ん、これが普通の日本の家庭像?
ちょっとひどすぎますね。
・・・しかし、本作、後の方で、勲の家族への無関心の問題を突くシーンもちゃんとあるのです。
よしよし、そうでなくっちゃね。
いやいや、はじめから竹内を無罪にしてしまったことと
勲の心のありようは別ものではないということで・・・。
小説として、実にうまくできています。
それから、長男の俊郎も、全くニブイというかしょうもない奴です。
最後の最後まで竹内のことをいい人と思っている。
そこへ行くと嫁の雪見は、サバサバとしていて好きです。
彼女にも悩みはありつつ、感がいいですよね。
この家はこの女たちで成り立っているようなものです。
嫁と姑の陰湿なバトルにならないところがまたいい。
著者は男性ですよね?どうしてこんなにきちんとした女性心理を描けるのか、
不思議なくらいです。
ともあれ、こうして、じわじわと武内への疑惑が積もっていきながら、
終盤のサスペンスへと一気に盛り上がっていくところもスゴイ。
結局は病的といえるほどの異常性癖を持つ男の話・・・ですが、
もし身の回りにこんな人がいたら・・・と思うと怖いですねえ。
そうして、こちら側の家族の結束とか人間性をも問われそうなところが
またオソロシイ・・・。
まさに衝撃の一作でした。
火の粉 (幻冬舎文庫) | |
雫井 脩介 | |
幻冬舎 |
「火の粉」雫井脩介 幻冬舎文庫
満足度★★★★★
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