Iターン誘致の顛末
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山あいの小さな集落、簑石。
六年前に滅びたこの場所に人を呼び戻すため、
Iターン支援プロジェクトが実施されることになった。
業務にあたるのは簑石地区を擁する、南はかま市「甦り課」の三人。
人当たりがよく、さばけた新人、観山遊香(かんざん・ゆか)。
出世が望み。公務員らしい公務員、万願寺邦和(まんがんじ・くにかず)。
とにかく定時に退社。やる気の薄い課長、西野秀嗣(にしの・ひでつぐ)。
彼らが向き合うことになったのは、
一癖ある「移住者」たちと、彼らの間で次々と発生する「謎」だった-–。
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米澤穂信さんにしては珍しい舞台設定。
とある地方都市で、限界集落がまさに限界を迎えて
誰も住む者がいなくなった「箕石」という集落に、
人を呼び戻そうとするIターン支援プロジェクトが立ち上がります。
業務に当たるのは南はかま市「甦り課」の3人。
本作はその中の若手職員・万願寺の視点で描かれています。
そもそもこんな場所への移住希望者などいるのか?
という危惧があったものの、意外と人は集まって10世帯程度が居住することになります。
基本的には不動産業者と個人の契約ではありますが、
プロジェクトとして人を集めた以上、
担当課としては人々の相談に乗らないわけにはいきません。
つまりこの課は、移住者たちの苦情処理係のようなもので・・・。
そして、実際次々といろいろな苦情がきたり事件が発生したり。
こんな出来事をなんとか解決しようと、その原因を突き止めていく・・・
という、日常の謎のミステリとなっています。
とりあえず、殺人事件は起こりません。
しかし問題の解決はできても、人の心をつなぎ止めることができない。
1人、また1人と居住権を放棄して、出て行ってしまう・・・。
本作、この万願寺がただ1人奮闘しているように見えるのです。
課長の西野は少しもやる気がないようで、いつも定時には帰宅してしまう。
新人の観山は、いつまでも学生気分が抜けないようで、どうにも公務員らしくない。
ところが時に頭の鋭さも垣間見える2人・・・。
なんだか怪しい・・・、と思ったら、
最後の最後に、そのことの種明かしもあります。
「え~!!」と言いたくなります。
公共事業は予算との闘いである。
そういうリアルが潜んでいます。
幾重にも折り重なった謎を、お楽しみください。
<図書館蔵書にて>
「Iの悲劇」米澤穂信 文藝春秋
満足度★★★★☆
この本私も読みました。
幾重にも折り重なった謎
確かに!!
面白かったです。
コメントありがとうございます。
本作は、いくつも折りたたまれた謎が心地よい、たくらみいっぱいの作品でした。
だから米澤穂信さんはやめられませんね。