女もいろいろ・・・
* * * * * * * * * * * *
いつの世も同じ──。
幕末の志士たちも人を愛し、愛された。
新選組の沖田総司や土方歳三、吉田松陰門下生の高杉晋作や吉田稔麿、
西郷隆盛らとともに戊辰戦争へと突き進む中村半次郎……。
幕末の京を駆け抜けた志士たちも喜び、哀しみ、そして誰かを愛し、愛された。
激動の歴史の陰にひっそりと咲く"かけがえのない一瞬"を
鮮やかに描き出す全6編を収録した短編集。
読み終えて、あなたはきっとこう思う
──いつの世もやっぱり人は同じなのだ、と。
* * * * * * * * * * * *
幕末。
おのれの信じる道を突き進んだ男たち。
本作は、そんな人々と関わる女たちの物語です。
時代劇では、主役男性に連れ添う女性といえば、
影ながら男性を支える愛情深く芯の強い女・・・と言うのが紋切り型のイメージ。
けれどここに登場する女たちは、そうではありません。
そもそも、「妻」でも「愛人」でもなかったりする。
沖田総司の登場する「呑龍」では、
病で診療所に通う総司がよく待合室で顔を合わせる老女のことが描かれます。
武家の女性らしき布来(ふき)。
痩せ細って、もうかなり病状が進んでいそうながら、
総司に対しては上から目線であけすけな物言いをする。
総司は決してそれが不快ではない。
やがて布来は総司よりも先に逝ってしまいますが、
そうしてようやく総司は布来の、真の素性を知ります。
それは思いもよらず哀しい人生・・・。
苦界に身を落とした女の、孤独で苦しい人生が浮かび上がります。
沖田総司編で恋人めいた女性を出さなかったのは正解。
私はそういう話はちょっと読みたくない・・・と言うミーハー根性。
置屋の芸子・君尾(きみお)が、高杉晋作と出会うのは「春疾風」。
高杉晋作の、人より一歩、二歩、いえ10歩くらい先のことを考えている
独創的な考えや言動に魅入られてしまいます。
いつか、この人と対等に話ができるようになりたい。
君尾はその一心で、尊皇攘夷や社会の様々なことを貪欲に学んでいきます。
けれど高杉の恋人にはならない。
他の男と懇ろになったりする。
どちらかと言えば醜男なのだけれど、彼女を相手に藩情や、時勢の話をしてくれるから・・・。
この時代に自分の考えを貫いて生きようとする女性像。
イカします。
一方、坂本竜馬が登場するのは「徒花」
ここに登場するタカは、薬売商の家の娘。
坂本竜馬の護衛役となった岡本健三郎がこの家に長く寄宿することになります。
タカは健三郎とともに坂本竜馬とも知り合うのですが、
いかにも人好きがして大器を感じさせる竜馬ではなく、健三郎の方を選びます。
タカは世の中のことなど少しも興味がなくて、
自分とその結婚相手としての男のことしか考えない。
健三郎の方が真面目で堅実で、夫としてはめがねにかなうと思ったのです。
坂本が死した後に健三郎は思う。
「自分はこんな女にしか選ばれない・・・」。
けなげで良くできた女性ばかりが登場するわけではないという本作、
ある意味、スリリングでもありますね。
図書館蔵書にて
「火影に咲く」
満足度★★★☆☆
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます