映画と本の『たんぽぽ館』

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「プリンセス・トヨトミ」 万城目学

2011年05月21日 | 本(SF・ファンタジー)
大阪で引き継がれていた“歴史”

プリンセス・トヨトミ (文春文庫)
万城目 学
文藝春秋


             * * * * * * * *

大阪に隠された壮大な秘密とは!?
こんなキャッチコピーにそそられて、読んでみました。
冒頭いきなり、会計検査院の3人が登場するのにびっくり。
少なくとも、会計検査院のお役人が登場する小説なんて、
初めてお目にかかります。
私も公務員の端くれですから、この名前くらいは存じておりますよ。
公務員にとっては"泣く子も黙る"ってくらいの
怖いというか煙たい存在なんで・・・。


この3人、

ちょっと強面、いつも眉間にタテジワの切れ者、松平。(ただしアイスには目がない。)

背が低くて太っちょ。
仕事はドジが多いけれど、時々驚くほどの勘の良さをみせる鳥居。

すらりと背が高く、すれ違う人が思わず振り返る美女。
ハーフの旭。

この取り合わせが実に楽しいのですが、
まあ、会計検査院の役人だけでは肩が凝りますわね。
ご安心を。
真の主人公は中学生。

お好み屋の息子、真田大輔。

そして、彼の幼なじみ橋場茶子。

真田大輔くんは、生まれてこの方、
男に生まれたのが悔やまれてならず、
女の子のセーラー服にあこがれている。
小学校のうちはまだ良かったけれど、
中学に上がり詰め襟の制服を着るようになってからは、
「男」として過ごすのが辛くてならない。
彼はある日思い切ってセーラー服を着て登校するのですが・・・。

今や、オネエキャラはあふれていますから、
そんな子がいても、さほど奇異ではないかも・・・という気もします。
しかしまあ、異分子を排除したがるヤカラも中にはいるわけで、
大輔はいじめに遭ってしまう。
そんな彼を守ろうとするのは、男勝りの茶子。
こんな状況が実に活き活きと描かれているのですが、
実はこのストーリーのメインはそこではない。

実はこの茶子には、自分でも知らない大きな秘密が・・・。
それは大阪の男性だけに連綿と語り継がれた、壮大な秘密・・・。


この著者はきっと大阪生まれか大阪育ちで、
自分の故郷が大好きなんだろうなあ・・・というのが、うかがわれます。
巻末のエッセイ「なんだ坂、こんな坂、ときどき大阪」を読むと、
正にその通りでした。
著者の通った小学校は、正に大阪城を見上げる位置にあり、
昇降口のそばにあった地下への階段は、
これは豊臣秀頼が大阪城から逃げてくるときの抜け穴につながっている、
とささやかれていたという・・・。
なるほど、そんな記憶がこのストーリーに発展したわけなのですね。
非常に愉快痛快な物語ですが、
これだけの秘密が全く外にもれないというのにはやはり少し難があるかなあ
・・・と思えます。
そうだといいなあ、という物語ではあります。

しかし、男だけに語り継がれる秘密という部分には、
これってセクハラ?と思わなくもなかったのですが、
大丈夫、ちゃんとなるほどというオチが付いていました。


登場人物の名前を見ると、その立ち位置の見当が付くのも面白いですね。
茶子はハシバなので、そのものですし、
真田ダイスケは正に真田幸村の息子。
蜂須賀、石田、長宗我部、
見知った名前を探すのも楽しいのです。
奇想天外、万城目ワールド全開。


さて、ところでの作品、映画化され、まもなく公開です。
キャストを見てちょっと驚きました。
松平が堤真一というのは納得。
でも、
鳥居が綾瀬はるかで
旭が岡田将生・・・!!
なるほど、男女を入れ替えたのですね。
確かに鳥居さんは、太っちょのおじさんよりも綾瀬はるかにした方が、
ビジュアル的にもいいし、
天然ボケだけどミラクルというイメージに近いものがあります。
そうすると、旭はクールな美女というよりも
クールなハンサムを持ってきたい・・・ということか。
実に映画向けに考えてありますね。
何だか興味をそそられます。


「プリンセス・トヨトミ」万城目学  文春文庫
満足度★★★★☆



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2 コメント

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ホラ話 (たんぽぽ)
2011-05-22 18:42:12
昨年、真田幸村にはまっていたので、このストーリーにはとても入りやすかったのです。判官贔屓というか、滅びた方に味方したくなってしまうところはありますよね。
ホラ話、そう、万城目ワールドはすなわちホラ話ですよね。そこが楽しい。英語でいうフィッシュストーリーというヤツか。時にはこういう話で憂さ晴らし・・・。
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Unknown (パール)
2011-05-21 21:37:47
万城目さんの作品は、映像化されるだろうなと思えますね。
>登場人物の名前を見ると、その立ち位置の見当が付く
のが、ツボにはまってしましました。
大阪人ではありませんが、戦国時代もの では、徳川よりも豊臣方に惹かれてしまうのは、なぜでしょうか。子供のころ読んだ、真田十勇士や忍法物の刷り込みでしょうか。

読み終えた後、周囲に、大きなホラ話を飄々と話すおじいちゃん とかいなくなってしまったなあなんて思いました。
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