映画と本の『たんぽぽ館』

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キャプテン・フィリップス

2013年12月15日 | 映画(か行)
極めて現実的なヒーロー像



* * * * * * * * * *


2009年ソマリア海域で起こった海賊船による貨物船人質事件を元にしています。


米国の貨物船マークス・アラバマ号の任務についた、
53歳ベテランのフィリップス船長(トム・ハンクス)。
彼の船がソマリア海域を航海中に、海賊が襲撃します。
船長は20人の乗組員を開放することと引き換えに、
海賊たちとともに小さな救命艇に乗り込み、たった一人で海賊たちと命がけの駆け引きをします。
米海軍の特殊部隊に救出されるまでの緊迫の4日間を描きます。



この船を襲撃する海賊にも、彼らの事情というものがある。
ここでは彼らを単なる悪党やギャングとは描かず、
彼らの切羽詰まった状況をも映し出します。
けれどもいかにも粗野で苛立っていて、乱暴だ。
その存在だけでも怖いのですけれど・・・。



実のところ、このまま人質としてソマリアに上陸し、
身代金を支払えば事は簡単だったようなのです。
その身代金は保険会社が払う。
けれども、事態を余計収集つかなくしたのは、アメリカの意地。
このまま海賊の言いなりになどなったらアメリカの沽券に関わる。
そうした米国国家の威信をかけるといったような意気込みが
余計事態を悪化させる。
うーん、まあ、もちろん正義は貫かねばなりませんが、
ソマリアがこんな風になってしまったことの責も、
突き詰めればアメリカを始めとするほんの一握りの
リッチな国々にあるのではないかと思ったりして・・・。
国家間に歴然としてある貧富の格差・・・。

まあ、それはそれとして、真剣に考えるべきことではありますが、
実際に海賊に襲われる身としてはそれどころではありません。
フィリップス船長は、ひたすらに船長としての責務を果たすべく、
他の乗組員をかばい、自分のできうる最善の行動をとった。
尊敬すべき人物です。
でも、決して、タフなヒーローでもないのです。
最後に、ようやく救出され、海軍の船に乗り込んだ時の彼。
決して、安堵の表情ではありません。
その彼の姿に、どんなにか彼がこれまで気持ちを張り詰めていたのか、
そして、最後の最後、目の前で起きた悲劇的な結末、
そのことの怖さが、リアルに私達に伝わってきます。
そうなのです。
こんな目にあったら、普通の人なら絶対にこうなるに違いない。
そこがドラマではない、現実として私達の胸に迫ります。
トム・ハンクスの代表作が又一つ増えたと思います。
スゴイ作品でした・・・。



「キャプテン・フィリップス」

2013年/アメリカ/134分
監督:ポール・グリーングラス
出演:トム・ハンクス、キャサリン・キーナー、バーカッド・アブディ、バーカッド・アブディラマン、ファイサル・アメッド

緊迫度★★★★★
満足度★★★★★


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ハラハラ ドキドキ (iina)
2013-12-24 09:57:33
「貧すれば鈍する」ことになるものです。だからといって、海賊が許されるはずはありません。

ソマリアに上陸し、身代金を支払えば(保険会社が填補)事は簡単だったとはいえません。海賊の親分子分の
虫の居所が悪かったら殺されるかも分かりません。
第一、目の前に拉致されたキャプテンが居れば船員たちは政府に救助を願うのが道理です。

ちっばけな救命ボートにとてつもなくでかい駆逐艦の対比が面白かったです。勝負はついているもののどのように
救出するか腕の見せ所でしたから、緊張感は高まりました。淡々と事件に対処するのも極端との対比になってました。

タフなヒーローでもないキャプテンの恐怖を身を以て体験したかのようにくたびれ果てました。
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4日間 (たんぽぽ)
2013-12-24 20:27:07
>iinaさま
>ソマリアに上陸し、身代金を支払えば(保険会社が填補)事は簡単だったとはいえません。
そうですね。考えが甘かった。
通常の誘拐ドラマなどでは、犯人の顔を見たということで小さい子供でない限り殺すのが普通(?)ですよね・・・。
映画なら2時間だけれど、4日間こんな状況で死と隣り合わせの恐怖・・・というのはやはりスゴイことです。
それにあのボート、すご~く揺れてましたねえ。見ているだけで酔いそう・・・。
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