映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

アムステルダム

2022年11月12日 | 映画(あ行)

ナチズムに狙われるアメリカ

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第一次世界大戦の激戦地で知り合い、終戦後アムステルダムで共に時を過ごし、
親友となったバート(クリスチャン・ベール)、ハロルド(ジョン・デビッド・ワシントン)、
ヴァレリー(マーゴット・ロビー)。
「何があってもお互いを守り合う」と誓い合います。

そして1933年、ニューヨーク。
バートとハロルドは、ひょんなことから殺人事件に巻き込まれ、容疑者にされてしまいます。
ぬれぎぬを着せられた彼らは、なんとか疑いを晴らそうとします。

そんな頃に、ヴァレリーと再会した2人。
そして、次第に自分たちが世界を揺るがす巨大な陰謀のただ中にいることに気づきます。
昔の誓いのもと、3人は協力し合って・・・。

その時代性こそが物語の主役。
ヨーロッパでは次第にドイツのナチズムが膨張してきています。
そんな思想が、このアメリカの地でも勢力を広げようとしていた
・・・というのが、実話を元にしているというところが
なんとも、寒気のするような・・・。

けれど本作は、そういう危うく重苦しい話を、
ブラックなユーモアを効かせて、
ノスタルジックを身にまとい現代的センスを光らせるという、アクロバットを見せつけます。
とにかく面白い。

この3人、男2人に女1人が意気投合し親友同士に。
その場では三角関係などかけらも見せないというのが、すごくイイ。
もっとも、その時すでにバートは妻帯者ではあったのですが。

20年近い後の再会でようやくハロルドとマーゴットが恋仲に。
しかしその時はまだ、白人と黒人の結婚は認められていなかったようです。
こんなユニークな人間関係というか男女関係が、なにやら嬉しく感じられます。
いつまでも既成概念にしがみついていてはいけません。

本作で戦争の英雄・ディレンベック将軍として登場するのは、ロバート・デニーロ。
彼は自分の身の危険も顧みず、ファシストの脅しをはねのけて
アメリカの誇りたるべく演説を繰り広げます。
やってくれます。
これぞアメリカって感じですよね。

 

<シネマフロンティアにて>

「アムステルダム」

2022年/アメリカ/134分

監督:デビッド・O・ラッセル

出演:クリスチャン・ベール、マーゴット・ロビー、ジョン・デビッド・ワシントン、
   クリス・ロック、ゾーイ・サルダナ、テイラー・スウィフト、ラミ・マレック、ロバート・デニーロ

 

歴史発掘度★★★★☆

ユニークな人物関係度★★★★☆

満足度★★★★★


ライフ・ウィズ・ミュージック

2022年11月11日 | 映画(ら行)

共に生きること

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ステージで素顔を見せない “顔なきポップスター”として注目を集める
シンガーソングライター、Sia(シーア)が、
自身の半生を投影させて描いた作品にして、初監督の作品。

アルコール依存症のリハビリプログラムを受けているズー(ケイト・ハドソン)。
祖母の死をきっかけに、自閉症の妹、ミュージック(マディ・ジーグラー)と暮らすことに。

ミュージックは感受性豊かですが、周囲の変化に敏感、
時にはパニックを起こすこともあります。
そんな妹との生活に戸惑うズーに、アパートの隣人エボ(レスリー・オドム・Jr)が、
優しく手を差し伸べます。
そんなここでの暮らしに居心地の良さを感じ始めたズーは、
自身の孤独や弱さに向き合いながら少しずつ変わろうとします。
一方エボも、実は大きな悩みを持っていたのでした。

 

ミュージックの心の中に広がる音楽が、カラフルでポップな映像とダンスで表現されます。
これらの楽曲はもちろんSiaの書き下ろし。
一体どれだけの才能をもってるんだ!っていう感じですね。

自閉症の少女。
言葉で自分の感情を人に伝えることは難しいけれど、
それでも自分自身の中にはみずみずしい感覚が満ちあふれている。
本作の音楽シーンは、そういうことの表現でもあると思いました。

実は2人の母はシングルマザーとして2人を産み、薬物依存症。
ズーもミュージックもほとんど母の愛情を知りません。
ズーは早くに家を飛び出してしまいました。
一方ミュージックは祖母に引き取られて、
祖母とご近所の人々の温かな見守りによって、
それなりに穏やかな日々を過ごしていたというわけです。

ところがその祖母の急死で、すっかり状況が変わってしまった。

ズーが呼び戻されて、2人暮らし。
そもそも自分1人生きていくことすら危ういズーが、
ミュージックを抱えてどのように生きていくのか・・・、
まあ、それだけで心配ですよね。
おまけに、ズーの収入を得る手段というのが、麻薬の売人。
これではいかにもまずい。
そして頼りのエボの悩みというのも、深刻なのです。

困難や苦難は、身近にいくつも転がっている。
そんな中でも前向きに生きていこうという気力を生み出すのは、
やはり身近な人の存在なのかも知れません。
ズーはいつしか、自分こそがミュージックに支えられているのだと気づいていく。

それにしても、このお祖母さんの家のご近所さんが、
じつにさりげなくミュージックを見守ってくれている様子が、すごくいい感じでした。
障害者に対して、こんな風に地域が見守ることができるといいですよね。

ミュージックに対してほとんど愛情?とも思える思いを持つ1人の青年が登場するのですが、
彼の運命というのがちょっと哀しい。
しかもミュージック達はそのことに気づいていない。
彼の存在はほとんど「神」です。

ちょっと、ユニークな後味を残しました。

 

<WOWOW視聴にて>

「ライフ・ウィズ・ミュージック」

2021年/アメリカ/107分

監督:シーア

出演:ケイト・ハドソン、レスリー・オドム・JR、マディ・ジーグラー、
   メアリー・ケイ・プレイス、ベト・カルビーヨ

 

音楽の楽しみ度★★★★☆

満足度★★★.5


「あんじゅう 三島屋変調百物語続」宮部みゆき

2022年11月10日 | 本(その他)

人見知りでさみしがり屋の・・・ 

 

 

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ある日おちかは、空き屋敷にまつわる不思議な話を聞く。
人を恋いながら、人のそばでは生きられない<くろすけ>とは……。
宮部みゆきの江戸怪奇譚連作集「三島屋変調百物語」第2弾。

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宮部みゆきさんの「三島屋変調百物語」シリーズの2巻目。

なぜ突如2巻目かと言いますと、このシリーズ、少しだけ読んだことがあるのですが、
この際きちんとぜんぶ読んでみようという気になりまして。

当ブログで調べてみれば、私は1巻目と3巻目だけ読んでいる模様。
従って、2巻と4巻以降をよめばいいというわけ。
まあ、内容もよくは覚えていないので、始めからぜんぶ読んでもいいのですけれど・・・。

 

とりあえず「続」の物語。

三島屋伊兵衛の姪・おちか一人が聞いては聞き捨てる変わり百物語。
本巻には四話が収められています。


一番印象に残るのは、やはり表題となっている「あんじゅう」。
漢字で書くと「暗獣」なんです。
「あんじゅう」なら、なんだかほっこりユーモラスな感じさえするのに、
漢字だとちょっと恐い。

ここに登場する「あんじゅう」は、古いお屋敷が魂を持つようになって、
それが凝り固まって形となったもの・・・とでも言いますか。
古い道具が魂を持つようになるなどというのと同様の考えで、
ある古いお屋敷に、その「あんじゅう」が姿を現すようになります。
まっくろけでぷにぷにしていて、明るいところが苦手。
幼児くらいの知能はあるようで、人見知りだけれどさみしがり屋でもある。
その家に住み始めた老夫婦は、怖がるどころが親しみを覚えて
「くろすけ」と名前をつけてかわいがるようになります。
ところが、次第に分かってきたことには、くろすけは人が好きにもかかわらず、
実は人に触られたりすると力を失い、弱っていくのです。
老夫婦はくろすけが縮んで弱っていくのに耐えきれず、泣く泣くこの家を出て行くことにします。
この家には誰も近寄らず、そっとしておくのが一番、と。

・・・と言うだけならば、単に奇妙な話。
ところが、この放置された家を舞台にして起こるのがややこしい人間模様。
恐ろしいのは、人知を越えた奇妙な現象ではなくて、やはり人の心に他なりません。

 

本巻では後の物語でもおなじみとなる女中のお勝さんや、
おちかがちょっと気になる手習い所の若先生・青野が初登場するので、そこも注目どころです。


<図書館蔵書にて>

「あんじゅう 三島屋変調百物語続」宮部みゆき 中央公論新社

満足度★★★★☆


窓辺にて

2022年11月09日 | 映画(ま行)

何かをあきらめるとき

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フリーライターの市川(稲垣吾郎)。
編集者である妻・紗衣(中村ゆり)が、担当している若手人気作家と
浮気していることに気づいていましたが、それを妻に言うことができません。
また、その浮気を知ったときに、自分の中に怒りの感情がわかないことに戸惑っていました。
そんな頃、ある文学賞の授賞式で、
高校生作家・久保留亜(玉城ティナ)と出会った市川。
彼女の受賞作「ラ・フランス」の内容に惹かれ、
その小説にモデルがいるのなら会ってみたいと話します。

何か(それは自分がそれまで大切にしてきた仕事や、
恋愛、結婚生活などいろいろなことに当てはめることができるのですが)を
あきらめるとき、それは自分のためでなく、相手のため・・・。
そんな言葉が胸に残りました。

今のままの状態では、自分も苦しいけれど、相手はもっと悩み苦しむのではないか・・・。
そんな思いが、裏には必ずあるような気がします。

市川は昔小説を書いていて、たった一冊本を出しています。
けれどその後すぐに、もう本は書かないと宣言して、止めてしまいました。
その時の編集者が妻・紗衣。
その過去のたった一冊には、市川のいなくなってしまった恋人のことが書かれていました。
紗衣は、自分と結婚しても、自分のことを何も書こうとしない市川に
ちょっぴり傷ついていたようなのです。
結婚していても、直接は言えないこと、聞けないことも多いですね。

「どうして、たった一作で書くことを止めてしまったのか」
そのことを紗衣は聞けなかったのです。

実はその答えはラストの方にあって、結局市川はもう一冊本を書いたらしい。
それこそが紗衣との結婚生活の結末の答えでもある・・・という、
あまりにもストンと落ちる気がするエンディング、
何やら深い感慨に浸ってしまいました。

自分は妻が浮気しても怒りも感じない、感情の薄い冷たい人間なのだと市川は言う。
でも、なんだかそういうこともあるような気がするのです。
少なくとも私はそれで市川が冷たい人だとは思わない。

この人は、口で色々と表現することは苦手なのだけれど、
きっと「小説」という枠組みのなかで
自分の感情をうまく昇華させることができるのだろうと思います。

この茫洋として感情の起伏が少なそうに見える市川のイメージ、
稲垣吾郎さんにピッタリでした。
今泉力哉監督とのよい出会いであったと思います。

それと、高校生にして文学賞受賞、大人びてみずみずしい感性の持ち主、留亜。
そのカレシというのが金髪の少年。
しかし意外にもこの二人は、純情で純愛の仲であったらしい。
というのがなんとも興味深いです。
若い人は皆ませていて進んでいる・・・というわけではないですよね。

私の推しの若葉竜也さんも出演していますし、
要所要所で深いところの感情が刺激される
私にとっては宝物のような作品でした。

 

<シネマフロンティアにて>

「窓辺にて」

2022年/日本/143分

監督・脚本:今泉力哉

出演:稲垣吾郎、中村ゆり、玉城ティナ、若葉竜也、志田未来、倉悠貴

 

大人の恋愛度★★★★☆

満足度★★★★★

 


ミュジコフィリア

2022年11月07日 | 映画(ま行)

現代音楽に親しむ

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さそうあきらさんの同名音楽漫画の実写映画化。

京都の芸術大学に入学した漆原朔(井ノ脇海)。
ひょんなことから現代音楽研究会に入会します。
彼は子どもの頃からピアノに親しんでいたのですが、
あることから、音楽から遠ざかっていたのです。
なりゆきから不承不承入会したものの、そこには朔が憧れる小夜がいました。
しかし、小夜は朔が音楽から遠ざかる原因となった
異母兄・貴志野大成(山崎育三郎)の恋人でもあるのです。
大成は天才作曲家として世間の注目を浴びる存在。
否応なく朔のコンプレックスが刺激されます。

そんな中、朔は現代音楽研究会の活動を通じて、
一時遠ざかっていた音楽の喜びを取り戻していきます。
朔は子どもの頃からものの形や色が音として頭の中で鳴っていました。
その能力が、現代音楽として表現できることに気づくのです。

 

本作、京都が舞台というのがステキなのです。
古都、京都と現代音楽。
相容れないようでいて、それは実に良く調和する。

冒頭、いきなり朔は現代音楽研究会の実験的試みに引っ張り込まれて、鴨川へ。
そこで川の上に弦を渡して、川面を響体として弦を共鳴させるのだという・・・。
風任せで自然が奏でる音。
彼らは各々そこに様々な音を重ねていく。

「現代音楽」といったら、なんだか前衛的でとんがったイメージがあって、
あまり親しみを感じる気がしなかったのですが、なるほど、こういうのもアリなのか。
一瞬にして私も、こうした「音楽」のファンになってしまいました。

コミックの原作ではなかなかこういうところまではイメージしにくいのではないかと思います。
映画はいいなあ。
そのまま音が伝わる。

天才として注目を浴びる大成も、
名作曲家といわれる亡き彼の父(石丸幹二)に押しつぶされそうになる
という彼なりの苦悩があります。
その同じ父の愛人の息子である朔にとっても、父は憎しみの対象。

現代音楽という背景の中で、彼らの関係性がどう変化していくのか、
そうしたところが見所です。

朔を見守る形になる凪(松本穂香)ガ、独自の立ち位置で
物語を引っ張っていくのもいい感じです。

原作の勝利ですね。

 

<WOWOW視聴にて>

「ミュジコフィリア」

2021年/日本/113分

監督:谷口正晃

原作:さそうあきら

出演:井ノ脇海、松本穂香、山崎育三郎、阿部進之介、石丸幹二、濱田マリ

現代音楽の魅力度★★★★☆

満足度★★★★☆


選ばなかったみち

2022年11月06日 | 映画(あ行)

心の旅

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サリー・ポッター監督が自身の弟を介護した経験を元にした作品とのこと。

 

ニューヨークのアパートで一人暮らしをしているメキシコ移民の作家レオ(ハビエル・バルデム)。
認知症を発症しています。
アメリカ人の妻とは別れていて、娘・モリー(エル・ファニング)が時々様子を見にやって来ます。
けれど今はもう、モリーやヘルパーとの意思疎通も困難な様子。
ある朝、モリーがレオを病院に連れて行くためにアパートを訪れます。

レオはモリーと行動を共にしながら、
初恋の女性と出会った故郷メキシコや、
作家生活に行き詰まって一人旅をしたギリシャへと、
心の旅を繰り広げています。
本作は、その認知症の父の抱く旅の幻想と、
その父を連れ歩く娘の現実が交互に描かれているのです。

ハビエル・バルデムとエル・ファニングが親子、
というのはどうも違和感があるのですが、
父がメキシコ移民ということで、ちょっと納得。
しかし、今はわびしい一人暮らしのレオ。
住んでいる部屋のすぐ脇を電車が通っていて、
かなり部屋代の安いところなのだろうと想像が付きます。
本当はもう故郷に帰りたいのかも知れない。
けれど今さら戻れない。
さみしさを訴えようにも、もうそれをきちんと伝えられるほどに頭脳が働かない・・・。
だから彼は、娘に引き回されながら一人白昼夢を見ているのです。

こんな風に夢を見ているかのように日々が過ぎるならば、
それも悪くはないのかも、などと思ってしまいます。
心がここにない相手の世話をするのは、やはり大変ですけれど。

父は小説を書くことばかりに熱心で、モリーはあまりかまってもらった記憶もないのだけれど、
それでもやっぱり父親が大好きなんですね。
認知症の父は思うように動いてくれないし、シモの始末までしなくてはならない。
こちらの言うことも分かっているのかどうなのか・・・。
結局その日一日が父のために潰れてしまい、大きな仕事のチャンスも逃してしまいます。
もう投げ出してしまいたくなりはするものの、それでもなお、
父を父として受け入れる、愛に満ちた度量の広さ。
父と娘の絆。

そしてまた、ギリシャをさまようレオは、観光に来ていた若い女性が気になって、
その娘の後を追い始めます。
現実ならストーカーじみて気味悪いですが、あくまでもレオの脳内風景。
つまりその若い娘はモリーなんですね。
理論が破綻したレオの中で、やはり自分の娘モリーを探し求めている。
まだ彼の中に、わが娘への愛情が残っているのです。
美しい作品だと思います。

レオの窓の外をひっきりなしに電車が通り過ぎます。
まるでその部屋自体が動いているように錯覚する瞬間があって、
レオの心の旅のことを表わしているようでもありました。

 

<WOWOW視聴にて>

「選ばなかったみち」

2020年/イギリス・アメリカ/86分

監督・脚本:サリー・ポッター

出演:ハビエル・バルデム、エル・ファニング、ローラ・リニー、サルマ・ハエック

 

父と娘の絆度★★★★☆

認知症表現度★★★★★

満足度★★★★☆

 


「黄金旅程」馳星周

2022年11月05日 | 本(その他)

孤高の荒馬が翔る

 

 

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北海道浦河で誕生した馬、エゴンウレア。
装蹄師、元騎手、獣医、その他馬を愛する多くの地元の人々の期待を背負い、
今、エゴンウレアは出走する。

孤高の荒馬、エゴンウレアに栄光は輝くか・・・?

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馳星周さんによる、北海道浦河の牧場で生まれた馬の物語です。

浦河は馳星周さんの出身地であり、毎年愛犬と共に訪れて夏を過ごす地でもあります。
だからこの物語が書かれたのは、必然。

 

本作主人公は、馬の装蹄師にして、浦河の牧場主でもある平野敬。
競馬を引退した馬のための養老牧場です。
ただし現在いるのはまだ一頭だけ。
この地で生まれ育った彼は、本当は騎手になりたかったのだけれど、
ある時から急に身長が伸びてしまって断念。

これまで、競馬を引退した馬は、よほど好成績を収めた馬以外は殺処分されてしまっていたのです。
それが昨今、馬が余生をのんびり過ごすための養老牧場の必要性の声が高まってきています。
敬も、将来はこの牧場をもっと大きくしたいと思っているのです。
そんな彼が注目しているのはエゴンウレアという馬。
日に透けるとたてがみが黄金色に輝く、美しい馬です。
しかし、すばらしい素質に恵まれていると思われるのに、なぜか勝てない。
ひどく気性が荒くて、プライドが高く、人間の言うことなんか聞くもんか・・・という感じ。

そんなエゴンウレアと心を合わせて、導いていくのが、
敬の幼馴染みにして親友の亮介であります。
ところが、この亮介というのが問題で・・・。
と、これ以上語るとすべてストーリー説明になってしまいますので、ここまで。

競馬のことはほとんど分からない私ですが、それでもすごく興味を持って読むことができたのは、
何も地元びいきだからというだけではないのです。
馳星周さんらしく、物語はハードボイルド味もまといつつ、どんどん目が離せなくなってきます。
そして、なんとも劇的なタイミングで起こる、大地震。
あの北海道全域がブラックアウトになってしまった地震です。

オマケにラブロマンスもアリ。
そして最後の最後にエゴンウレアの運命のレース!! 
さあ、どうなる!!

なんとも心を沸き立たせる物語でした。

 

ちなみに、エゴンウレアはバスク語。
英語で言えば、ステイゴールド。
黄金のようにいつまでも輝くように・・・という期待をこめた名前ですが、
この馬が中国でのレースに出場したときに付いた中国名が「黄金旅程」なんですね。
う~ん、ステキな名前。

お馬さんを見に行きたくなってしまった・・・。

 

「黄金旅程」馳星周 集英社

満足度★★★★★

 


グッド・ナース

2022年11月04日 | 映画(か行)

人を癒すべき病院で

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実話をもとにしています。

シングルマザーの看護師エイミー(ジェシカ・チャステイン)。
自身も心臓病を抱えながら、過酷な夜勤を続け、心身共に限界に近いのです。
そんな頃、新任のチャーリー(エディ・レッドメイン)が同僚となります。
彼は親切で個人的にも支えとなってくれて、
エイミーにとっては心強い友人となりました。

ところがその頃から、病院でインスリンの大量投与による患者の突然死が相次ぎます。
エイミーはチャーリーがこれまでいくつもの病院を転々とし、
それらの病院でも患者の不審死が続いていたというウワサを耳にします。
それを信じたくないエイミーではありますが、
警察のチャーリーの調査に協力するようになり・・・。

これが実話に基づいているというのがいかにも恐いですね。

チャーリーは点滴のバッグにインスリンなどの薬剤を混入させていたのです。
アリバイなど関係のない犯罪。
そして様々な犯罪を匂わせる物証はあるのですが、
決定的な証拠となりうるものがありません。
どうしても本人の自白が必要だというのです。
これがなかなか難しい。
そして、これまで彼のいた病院でもチャーリーの行動に疑いを持ってはいたものの、
ことを表沙汰にして病院の責任を問われることを避けたいがために、
厄介払いをしただけで、口をつぐんでいたのです。
だから、何度も同じことが繰り返された。

実在の犯人は無期懲役となっていますが、
いまだに犯行の理由を明かさないのだとか。

恐い、恐い・・・。

それにしてもこの不可解な異常心理をもつチャーリー役、エディ・レッドメインがよく演じています。
始めはいかにも相手思いの人のいい同僚だったのだけどなあ・・・。
だんだん不気味で恐くなっていく。



人を癒すべき病院で、こんなことが行われるとは・・・
人の心の闇は計り知れません。

<サツゲキにて>

「グッド・ナース」

2022年/アメリカ/121分

監督:トビアス・リンホルム

原作:チャールズ・グレーバー

出演:ジェシカ・チャステイン、エディ・レッドメイン、ンナムデイ・アサマア、キム・ディケンズ

 

真実の奇怪さ★★★★☆

満足度★★★★☆


シャドウ・イン・クラウド

2022年11月03日 | 映画(さ行)

空中で孤軍奮闘する女

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1943年。
ニュージーランドからサモアへ最高機密を運ぶ任務を受けた、
連合国女性大尉モード・ギャレット(クロエ・グレース・モレッツ)。
B17爆撃機フールズ・エンドラ号にのって、飛び立ちます。
モードは男性乗組員達からセクハラざんまいの言葉を浴びせかけられたあげく、
席がないとのことで、銃座に一人追いやられてしまいます。
狭苦しいその場所で、モードは自機の右翼にまとわりつく謎の生物を目撃。
その後も次々に想像を絶する試練に見舞われながら、
大切な荷物を守りつつ、決死の戦いを繰り広げるモードですが・・・。

機にまとわりついていた謎の生き物とは、グレムリンでした。
そのころ、パイロットの間で「飛行機を壊す悪魔」と呼ばれて、
その存在がウワサされていたのですが、実在するとは皆思っていなかった。

それで本作は、クロエ・グレース・モレッツ VS グレムリン VS 日本軍・ゼロ戦という、
いささかムチャクチャなアクション作品なのです。
でもしかし、こうなったら笑って楽しむ他ないじゃん、
という感じで、開き直って楽しみました。

この機の男達は、女性差別発言に長けている以外はあまり頼りになりません。
それで、モードはほとんど孤軍奮闘、グレムリンとゼロ戦を相手に戦い抜くのであります。
まるで、「エイリアン」のリプリーのように。
彼女には護るべきものがあるから。
それは任務である“最高機密”の入ったカバン。

始めモードが閉所恐怖症の発作が起きそうな狭苦しい銃座に閉じこもったときに、
彼女の座ったままのシーンが長く続きます。
機内の乗員とは無線通話だけ。
そして、そこから出ようとしてもハッチが壊れて出られなくなってしまう。
身動きできない場所で、通信会話のみで進行する斬新的なドラマなのか?と、
一瞬思ったのですが。
そういうのも、面白そうですけどね。

けれどそうはならず、やがての彼女の脱出方法に度肝を抜かれるのです。
なんと彼女は機体の外側を通って、再度機内へ潜り込む。
もちろん、飛行中ですよ!

最後には、地上でモードとグレムリンの肉弾戦。
モードがボコボコに殴りつけたグレムリンとは、
実は、女性を見下し差別する男達の象徴に他ならないのだろうと確信します。

 

まあ、とにかく痛快です。
こういうのも悪くない。

 

<WOWOW視聴にて>

「シャドウ・イン・クラウド」

2021年/ニュージーランド、アメリカ/83分

監督:ロザンヌ・リャン

出演:クロエ・グレース・モリッツ、ビューラ・コアレ、
   テイラー・ジョン・スミス、カラン・マルベイ、ニック・ロビンソン

 

アクション度★★★★☆

満足度★★★.5


夜明けまでバス停で

2022年11月01日 | 映画(や行)

コロナ禍でさらけ出される社会矛盾

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日中はアトリエで自作のアクセサリーを販売、
夜は居酒屋で住み込みのパートとして働く三知子(板谷由夏)。
ところが、コロナ禍となり、仕事も住む家も失ってしまいます。
新しい仕事は見つからず、ネットカフェなども閉まっている。
行き場をなくした彼女がたどり着いたのは、街灯の下にポツリとたたずむバス停。
誰にも弱みを見せられない彼女は、
そこで一夜を過ごすホームレスとなってしまったのです。

一方、三知子の働いていた居酒屋の店長・千春(大西礼芳)は、
コロナ禍の厳しい現実と従業員の間に板挟み。
また、マネージャーである恋人・大河原(三浦貴大)の、
パワハラ、セクハラにも悩んでいます。

やがて、三知子は公園のホームレス達とも顔なじみになり、
もと過激派の爆発犯(柄本明)とも知り合い・・・。

本作、2020年11月に東京幡ヶ谷のバス停で寝泊まりしていたホームレス女性が
暴漢に殴り殺されるという実際の事件に着想を得ています。

三知子は、別れた夫が三知子名義のカードを使って多大な借金を作ったものを、
「私のカードだから・・・」といって、律儀に借金を返し続けていたのです。
だから、住み込みの職に就きアクセサリーを売っても、いつも生活はギリギリ。
その上実家の母が施設に入るとのことで、兄から費用を援助してほしいと言われ、
なけなしの20万円を振り込んでしまっていました。
そんな風に真面目に、コツコツと生きてきたつもりなのに、
あげくにホームレスになってしまった三知子。
なんとも理不尽です。

私はコロナ禍の中、そのような人たちがいるというニュースは見ていたのですが、
こんな風にその実態を突きつけられると、
いかに何も見ていなかったのかと思い知らされます。
本当にあの頃、こんな風に窮地に陥った人がどれだけいたことでしょうか・・・。

ロシアとウクライナの戦争の心配は毎日のようにするのに、
こうした人々の心配はニュースを見たときだけなのか・・・。
弱者には冷淡な社会。
自分もその社会の一員なのだなあ・・・。

 

ここまで落ち込んだ人生を描きながら、
本作はラストでちょっとした意趣返しがあります。
こんな風に、破れかぶれなのも悪くない。

作中、したり顔のユーチューバー氏が「ホームレスは社会の恥、ゴミだ」などと主張するのですが、
その役を演じているのが柄本佑さん。
そしてホームレスの一人が柄本明さん、というところがなんとも洒落ていました。

 

<サツゲキにて>

「夜明けまでバス停で」

2022年/日本/91分

監督:高橋伴明

出演:板谷由夏、大西礼芳、三浦貴大、松浦祐也、柄本明、筒井真理子、柄本佑

 

コロナ禍の現実度★★★★★

社会の歪み度★★★★☆

満足度★★★★.5