今回最優秀、優秀に選ばれた上位4校のうち、青森中央、宮城第三女子、八戸聖ウルスラの三校の舞台は、誰がどう見ても、間違いなく素晴らしかった。残りの大館鳳鳴は、見ていないから、わからない。先の三本は、誰が見ても納得の作品だし、どれが最優秀になってもおかしくなかったね。
で、僕としては、宮城第三女子の『卵の勝利』に最優秀上げたいぃぃぃ!って、すべての上演終わった後、ずーっと念じてた。まっ、僕がいっくら念力込めたってしょうがないんだけど。でも、そう願いながらも、きっと青森中央の『ともことサマーキャンプ』が勝つだろうなって予測はしていた。その通りになった。
『ともことサマーキャンプ』(作:畑澤聖悟)は、いじめによる自殺を発端として、とことん白をきりとおそうとする加害者の女子高生たちと、我が子可愛さに証拠隠滅に走るその母親たちの姿をどこまでも妥協することなく描ききった作品だ。人間のえげつなさ、卑劣さ、醜さ、もう、これでもかってくらい見せつけてくれた。刻一刻と状況が変転し、その度に、深みにはまりこんでいく生徒たち、母親たち、畑澤さんの脚本は、揺れ動きながらも結局は自己保身へとはまりこんでいく様子を、実にスリリングに描がいていた。さらに、それをひるむことなくやり通した生徒たちの演技と気迫も凄いものだった。だから、最優秀だろうな、と半ば理解しつつも、『卵の勝利』(作:安保健)に勝たせたかったんだよぉぉぉ。
理由その一。まず、暗いでしょ、救いがないじゃなか。もう、どうしようもないよ、あそこまでやっちゃったら。そりゃたしかに、人間にはああいう面があるってことは認める。僕だって、もし、加害者やその保護者になってしまったら、もしかしたら、同じように自己保身に走るかもしれない。だけどね、だからって、それ舞台で突きつけられたくはないだよ。甘いと言われるかもしれないが、どこかに救いが欲しいんだ。去年の青森中央の『河童』には、それがあった、救いがね。河童に変身していく少女を慕って自ら河童になることを願う男の子がいたもの。彼の純愛は切なく愛おしかったと思う。
理由その二。これは生徒講評委員が勇気をふるって?発言したことだけど、ここに描かれたいじめと責任逃れの様子って、マスメディアが作り上げたイメージなんじゃないのって疑問。そう、僕も同じ感想をもったんだ。僕も高校教師だから、様々ないじめの現場に立ち会った。その経験を通して感じるのは、ここに描かれた世界とはかなり様子が違うんだ。加害者と被害者がこんなにくっきり区分けできなかったり、果たして被害って言えるのか?って場合も少なからずあった。こうやって、白黒つけちゃうとわかりやすいんだけど、どうも、現実から遠ざかってしまうような気がする。
じゃあ、『卵の勝利』は、ってなると、これはもう、まるで正反対、完全受容、とことん許しの世界だから。癒しの究極ってことだ。突き詰めてしまうと、いじめで不登校になった下級生と白血病で余命幾ばくもない先輩との交流ってことで、まっありきたりの題材を二つ重ねた作品ってことなんだけど、描き方が、これは、もうもう、本当に心穏やかでおおらかで上質のユーモアに溢れていた。「がんばれぇぇぇ」「いいと思うよぉぉぉ」突飛な行動を繰り返す下級生にかけるこの脱力系のおおらかなせりふは、今大会の流行語大賞に輝いたものね。誰が決めたんだそんなもの?観客全員!間違いなし!だったよね。
次々繰り出されるギャグも、知的で品が良くて、こういう笑いって多分高校演劇では初めてなんじゃないのかな?五体倒地とか、なんたらって言う回転宗教やら、こんなのギャグになるんだぁぁって目から鱗の連続だったもの。それと使ってた歌も良かったねぇぇぇ。井上陽水の『傘がない』をもだえ苦しみながら歌うシーなんて、もう、僕一人で笑ってた。つまり、他の観客は引いてた?『チャンチキおけさ』がホームレスの望郷の歌だなんてのも、強引ですっごく納得できた。そして、チャックベリーだよ!ロックンロールを脱力系で踊るって、これ凄いよ。見る者全員が心の底から癒された1時間だった。もちろん、三人の役者が演技力も高く個性的で、役にぴったりはまってたってこと、当たり前だよ、あの三人に当て書きしたに違いないもの、東京の春フェス、見に行こうか?ってついふらっと思ってしまったほど良い舞台だった。
最後に八戸聖ウルスラの『わがうちなるラピュタ』。もう、プロです。役者たち。昨年『どんがら山奇譚』のお婆ちゃん役で注目されたミドリが5人もそろったって感じ、こんなことってあるんだ。誰もが感じたことでこの舞台もお見事でした。
こんな素晴らしい作品がそろった東北大会、参加できたってこと、幸せの一語だね、まあ、願わくば、置農もベスト4に入れてたらもっとね。