ステージおきたま

無農薬百姓33年
舞台作り続けて22年
がむしゃら走り6年
コントとランとご飯パンにうつつを抜かす老いの輝き

まるでドラマだ!インドネシアの藤山一郎!!

2019-08-01 10:11:18 | 本と雑誌

 藤山一郎、知ってるかな?

 戦前から戦後にかけて活躍した歌手だ。ほら、戦前だと、古賀メロディの「酒は涙かため息か」とか「東京ラプソディ」、戦後には復興を後押しした「青い山脈」。なぁんて、言ったって、頷くのは団塊世代以上かもな。

 東京音楽学校、今の東京芸大で将来を嘱望されたバリトン歌手だった。が、父親の借財のために歌謡曲を歌い出し、いつの間にか、そちらで売れっ子になってしまった。当人は、どこまでもクラッシックの歌手で大成したいと思ってたようだが。芸名で歌っていたのがばれて、大学から退学を迫られた、って、昭和の始めてのも凄い時代だったんだ。

 思いもよらぬ歌謡曲歌手としてスタートし、その後、常に歌謡界の先端を走り抜けた藤山、狂奔する時代との並走ぶりを丹念に追った力作、「従軍歌謡慰問団」作・馬場マコト、白水社刊を読んだ。そう、11月菜の花座公演の資料としてね。

 あっ、藤山だけじゃない。この本が寄り添うのは、彼と同時代の巨人たち。歌手の東海林太郎、作詞の西条八十、作曲家の古賀政男、古関裕而だ。大正ロマンの華やぎ残る昭和の始めから、のめり込み、抜き差しならなくなる中国大陸での戦争の泥沼、太平洋戦争への突入、そして、敗戦、戦後。彼ら流行歌の王道を担った人たちの足跡を、かかわった歌の数々を丁寧に紹介しつつ跡付けている。今もなお、ああ、あの曲!と心に残る名曲たち、それらが生まれ出る背景を、時代と歌謡界の双方を巧みに行き来しつつ解き明かしてくれる。中でも、戦局の逼迫とともに、否応なく組み込まれ、率先して戦争賛歌をものしていくあたりの様子が大変ち密に書き上げられている。さらに、戦地への歌謡慰問団の足跡が丹念にたどられていく。

 ここに取り上げられた音楽家たちのどれもが興味深いのだが、中でも藤山一郎だ。始まりこそ、何人かのグループで慰問に赴いていたが、彼の熱意と歌唱力が海軍の認めるところとなり、ついには、特命将校に任ぜられ、戦地をへ巡るようになる。末期にはインドネシアが主たる活躍の場となるのだが、そこで、彼に託されたのは、日本兵の慰問とともに、インドネシア独立運動への協力だった。現地指揮官の判断から、インドネシアの独立運動を支援し、旧宗主国のオランダや英国への対抗勢力に育てようとの意図によるものだった。

 民族帰属意識の低い住民に、インドネシア人としての誇りを持たせるには、歌が一番だ。彼は、現地の住民たちの前に立ち歌った。「インドネシア・ラヤ」民族独立を鼓舞する歌、現インドネシア国歌。それと、人々に歌いつがれていた「ブンガワン・ソロ」だった。彼の歌唱指導が、人々の心に祖国意識を広げて行った。それは、終戦となっても続き、ただ一人、アコーディオン一つ抱え、現地に残り歌い続けた。独立への意識を高めた人々は、植民地支配を続けようとするオランダへの抵抗運動を根強く繰り広げ、ついに、独立を勝ち得ることになった。藤山に協力を依頼した軍人も、囚われの場から姿を消し、インドネシア独立軍に加わり自己の信念に殉じた。

 捕虜となった藤山は、収容所においても、歌い手としての力を存分に発揮する。帰還を待つ日本兵への慰撫ばかりか、遠く祖国を離れて従軍している英国軍の兵士たちにも、「庭の千草」や「ダニーボーイ」を歌って慰めた。

 戦地を駆け巡り、歌い続けた藤山一郎。その明るく端正な歌声が、敵も味方もなく、戦火に苦しむ人たちの大いなるやすらぎとなったのだ。

 そして、内地帰還。彼の歌は、人々を慰めもしたが、戦争に駆り立てもした。その忸怩たる思いを抱えつつも、新しい時代の応援歌が彼の再起を待っていた。

 「青い山脈」

    若く明るい 歌声に

    雪崩は消える 花は咲く

    青い山脈 雪割桜

    空のはて きょうもわれらの夢を呼ぶ

  

    古い上着よ さようなら

    さみしい夢よ さようなら

    青い山脈 バラ色雲へ

    あこがれの 旅の乙女に 鳥もなく

 同じく、戦争への協力を全力で果たした西条八十が、過ぎし過去との決別を読み込んだ「青い山脈」。雪崩は消える・・・・古い上着よさようなら・・・さみしい夢よさようなら・・・

 その転身の軽やかさに一抹の違和を感じつつも、歌は常にその時代を生きる人とともにあるものだと、深く納得するのだ。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 朝仕事なんて柄じゃないんだ... | トップ | 待ちわびたぜ、出穂! »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

本と雑誌」カテゴリの最新記事