ウクライナの人たち、どうしてなんだ、あの交戦意欲の高さは?ほぼ国上げて戦ってる。男は避難させない、銃を持て、なんて、めちゃくちゃな強圧じゃないか。なのに、異議申し立てどころか、女性まで銃を持ってロシア軍に立ち向かっている。まるで、独ソ戦争時の愛国的熱狂じゃないか。そうだった、あのドイツの侵略に対する祖国防衛戦争でも、女性たちは前線戦いの一翼を担った。ウクライナの人たちも。たしかに、今回のロシア軍の有無を言わさぬ進撃は、ヒトラーのロシア進出によく似ている。それにしても、あれから80年、世界も人々の意識も大きく変わったはずなのに。
その秘密をはっきりと示してくれる映画に出会った。『ウィンター・オン・ファイヤー』Netflix、キエフで激しく行われた抗議行動・政権交代要求運動の様子を描いたドキュメンター映画だ。
当時の大統領はヤヌコビッチ、公約のEU加盟を反故にしてロシアと手を結ぼうしたことが発端だった。この変節に怒った学生たち数百人の抗議行動がまたたくまに多くの市民の共感を得て、一大政治行動へと発展していく。警備に当たった特別警察の暴力的取締りが市民の怒りをさらに燃え立たせ、戦いは激しさを増して行く。武装警官やならずもの集団の圧倒的な暴力対しても非暴力主体に身を挺して戦い抜く市民たち。勢いを増す反対派に恐れを感じた当局側はとうとう実弾での射撃さえ行うようになり、死者、負傷者が激発していく。対抗する側からも火炎瓶などが飛び交い市街戦の様相さえただようまでなる。
2013年の11月から翌年2月にかけて粘り強く戦われた直接行動は、ぎりぎりのところで、ヤヌコビッチのロシアへの逃亡により大統領権限の消滅、選挙の実施を勝ち取って終結する。
戸外の広場にテントを張り、バリケードを築き、食料補給や救護体制を整えて頑張り続けた人たち。ヘルメット着用禁止のデモ禁圧の緊急立法に対して、鍋や釜を被ってデモを続ける人たち。
負傷した仲間を、狙撃の恐怖にもひるまず救い出す人たち。その戦いの様子、刻々と変化する情勢。カメラは抗議者の中に立ってこれまたひるむことなく回り続ける。
「自由と尊厳」これが抗議派の目指すものだった。若者や子どもたちの未来を奪うな、の強烈な意志に支えられて、厳冬期数か月間の街頭闘争を戦い抜いて、彼らはヨーロッパの一員としてのウクライナを手にしたのだった。死者・行方不明者200名近く、負傷者2000人弱。
こんな犠牲と艱難辛苦の賜物、そりゃ無碍にロシアに手渡してなるもんか!って固く誓って戦いに向かうよな。圧倒的なプーチンロシアの軍事力にも、諦めたり、悲観したりすることなく、とことん立ち向かって行く、その心情が初めて理解できた。それは、ヤヌコビッチの武装弾圧にも逃げたり退いたりしなかったことの再来なんだから。わずか、10年前のことだし、この経験は過去なんかじゃない。戦いは今に続いているってことだから。
映画作品についちゃ、たしかに一方的な描き方で、陣営内についても市民派で一括りしていて、実際はどうなの?とか、議会政党の立場はどうなってんだ?とか、知りたいことも多い。キエフ以外の地域の人たちや親ロシア派の動きについてはまったく触れられていないしな。当然、プーチンがこの政変をクーデタと見做していたことにも言及がない。
ウィキペディアなんか見てみると、このユーロマイダンの項目はやたら煩雑でまるで実態が伝わってこない。さまざまな立場からの書き込みが熾烈に戦われている証拠なんだろうな。
でも、この戦いは間違いなくあったし、ここにウクライナの不屈の闘争心の根っこがあるのは確実だ。テレビその他じゃ俄か評論家が、あれこれと言い募っているが、まずは、このドキュメンタリーを熟視してからだぜ、って言いたいな。
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