友達からチケットをいただき「新・近松心中物語」でどっぷり蜷川ワールドの舞台に浸ってきました。
近松の「冥土の飛脚」の梅川・忠兵衛の心中物語を縦糸に、もう一つの近松作品「ひじりめん卯月の紅葉」のお亀・与兵衛の物語をからませて作られた秋元松代脚本、蜷川幸男演出の舞台です。
寺島しのぶの梅川は、美しく、狂おしく、情熱的で、緋色の着物がよく似合う遊女のはまり役でした。以前テレビドラマの出演を見たことはあったけど、いつの間にこんなに演技力をつけたのかと驚きました。よく通る質のいい声もあわせて、さすがDNAは争えないものだと実感しました。阿部寛も熱演!でもモデルを経たというだけあって、ちょっとその長身をもてあまし気味?でした。
気弱で臆病な与兵衛役の田辺誠一は、婿養子の若旦那役を軽くコミカルに好演し、今までの殻を破ったような気がしました。舞台前に水を張った川がしつらえてあり、そこに与兵衛が飛び込む迫力と面白みが観客を引き込んでしまいました。1月で寒かったでしょうが、実にうまく演じていました。水しぶきが飛ぶために、客席5列目までは前もってビニールのシートが配られており、与兵衛がふんどし姿になったら、すぐにシートを頭からかぶるよう指示が出ていました。
クライマックスは吹雪の中の幻想的な心中シーン。舞台と客席前方の天井から紙吹雪が数十分降り続き、照明と風力で静かに降る雪、木枯らしに舞う吹雪とまるで本物!!終わったときには舞台にはうずたかく雪が積もり、観客も白い雪をかぶっていました。観客までいつしか心中場面に立ち会ったかのような錯覚に陥り臨場感たっぷり!緋色の腰紐で首を絞められた梅川の体を後ろに弓なりにした死の瞬間、忠兵衛が自分で首を切り、真っ赤な血しぶきが飛ぶシーンは芸術的でさえあり、さすがこれが蜷川ワールドなんだと実感しました。緋色の着物、腰紐、彼岸花は命の色、雪の白は死を表しているのかと思いました。死してもなお、彼岸花だけが吹雪の中で咲き続けているのが象徴的で、とても印象に残りました。
冒頭から流れた森山良子の主題歌「それは恋」がまたすばらしくて、時代物の舞台にもぜんぜん違和感がなく、むしろ梅川の辛い恋が切に迫ってきました。作曲は宇崎竜童です。