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「赤シャツは必ずしも正しくない」
というのは夏目漱石の小説「坊ちゃん」のことではない。
タイの首都バンコクで、政府に対してデモを展開し、ついに死者を出したタクシン元首相を支持する紅いTシャツ軍団のことだ。

今回のデモでは、ついに日本人ジャーナリストが流れ弾に当たって死亡するという悲劇が起きたため、日本国内の報道でも俄に大きく扱われることになった。
これはちょうど2年前、ミャンマーの旧都ヤンゴンで発生した事件ににている。
僧侶達のデモを撮影していた日本人報道カメラマンがミャンマー国軍兵士に射殺されてしまった、という事件だ。
ただし今回は数万社の日本企業が進出し10万人の邦人が住んでいるバンコクのこと。
かなり事情が違う。
そしてさらに、今回ばかりは報道も一方的にタイ政府を非難できないのもミャンマーのケースとまったく異なっているのだ。

構図はミャンマーのケースと良くにている。
ミャンマーは軍事政権であることはご存知の通り。
タイも現政権は軍事政権だ。
ミャンマーの民主化を叫ぶ人たちも一部は政治的追放者であるオン・サン・スーチー女史の支持者であるわけだし、タイの赤シャツ軍団も政治的に追放されたタクシン元首相の支持者たちだ。

同じ軍事政権でどうしてこうも扱いが異なっているのか。
それはタイが基本的に民主国家であって、ミャンマーが特殊社会主義国家であるからに他ならない。
つまり世界は料理やムエタイで有名なタイは好きだけどミャンマーはよく分からないから嫌いだ、という図式なのだ。

報道を見ているとクーデターで追放された元首相を支持している赤シャツ軍団は民主的だし海外からも支持されて不思議はない。
それに大部分が乏しい農村の出だというから民主主義大好きなひとにはたまらない。

ところがこの赤シャツ軍団、気の毒なことに一方的に支持されることがない。
政府がミャンマー政府のように極悪非道にならないのだ。
むしろ海外の目から見ると「経済活動を阻害する迷惑な連中」という印象さえ漂っているのだ。

それはなぜか?

タクシン元首相は己が権力を利用して一族が経営する通信会社などで不当な利益を稼いだ。
タイ人が汗水流して働いて稼いだ金を吸い上げて、元首相はなんとシンガポールに蓄財していたのだ。
国民の金を搾取して自己資産として海外にためこむとは言語道断。
許されるものではない。

そもそもタクシン元首相は華僑なのだ。
華僑、中国人のことをタイではコンチンと呼ぶが、「コンチン」は嫌われ者である。
なぜなら経済を牛耳り私服を肥やすからだ。
中国人と地元民との軋轢はタイのことだけではなく、ベトナムもインドネシアもミャンマーもマレーシアもみんな同じ。
1980年代、ベトナムのボートピープルは華僑がほとんどだった。

商才に長けた華僑であるタクシン元首相は商売のため行きすぎた行動が目立っていた。
ついには国王に「もういい加減にしておきなさい」とお叱りを受けたにも関わらず、その守銭奴的政治姿勢を改めなかった。

ちなみにタイでは国王は絶対である。
タイの現国王は自らが指導し、絶対君主制国家から立憲君主制国家へと変貌させた。
その基本は「君臨すれども統治せず」。
日本と同じスタイルなのだ。
この王自ら率いる半世紀もの改革がタイ国民をして国王を国父と呼ばせるまでに尊敬を集めている。

その「国のお父さん」である国王が叱っても態度を改めなかったダメ息子タクシン。
そんなタクシンに金を貰って「生活が改善した」と言っているのは国を中国に売り渡しているのと等しいものがある。
そう言っているのが赤シャツ軍団なのだ。

ということで、赤シャツ軍団は必ずしも正しくないことに注意しながらテレビを見たいところだ。

なお、タイ好きの私もここ二年ほど忙しくて訪泰してません。
上記の分析がおおむね合っていても詳細には正確でない可能性もありますのでご注意ください。
はい。

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