<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
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バンコクを走るスカイトレイン・シーロム線の一方の終着駅「国立競技場」を下車すると東急百貨店バンコク店があり、マーブンクロン・ショッピングセンターという大型ショッピングモールが棟続きに建っている。
私はバンコクを訪問すると、このマーブンクロンショッピングセンターでちょくちょく買い物をする。
ある日、買い物を済ませてホテルに戻ろうかと東急百貨店1階にあるマクドナルドで遅い昼食を食べていたら、

「どちらからいらしたんですか?」

と隣のテーブルで新聞を読んでいた年の頃30前後のサーファー風の男が英語で声をかけてきた。

「韓国からです」
とか、
「中国からです」

というふうに、デタラメで答えればよかったのだが、何を思ったのか、私は正直に、

「大阪からです。」

と答えてしまったのだ。

「日本の大阪ですか?」
「(他に大阪ってあるんかい)そうですけど」
「私の友達が大阪に行ったことがあります」

みたいなことを話しだしたのだ。
なかなか流暢な英語で話すものだから、ついつい話込んでしまったのは迂闊であった。
なんでも彼はカオサンでサーファー向けのお店を営んでいるということで、一度私に遊びにこないか、と誘ってくる。
カオサンは世界的に有名なバックパッカーの集まる通りの名前で、周囲には1泊100円から宿泊できる安宿が密集している場所だ。
私はあまり好みではない地域なので、そこへ宿泊したことはまったくないのだが、男はカオサンの名前を出すと安心するとでも思ったのか、話を続けた。

要はこの男。
詐欺師なのであった。
街のカフェやレストランで金を持っていそうな外国人観光客に声をかけては、イカサマトランプ詐欺に引き込もうという詐欺師グループのいわば「呼び込み」なのであった。
結果的に私は被害に遭わなかったが、危うく金銭をだまし取られる可能性があったわけで、こわばらこわばら、と言ったところだ。

タイのバンコクではこういった詐欺は盛んで、例えば王宮前の歩道では、
「宝石のバーゲンをやっている。日本へ持って帰ると、買った金額の10倍で売れる」
といった宝石詐欺のオッサンオバハンが屯している。
またシーロム通りやスリウォン通りの外れには、ちょっとした料理で50USドルも100USドルも巻き上げるぼったくりレストランもあったりすので注意が必要だ。

とはいえ、タイは日本企業2万社以上が進出。
在留邦人は10万人を超え、観光等も含めて渡航する日本人に至っては100万人を越える日本との繋がりが最も太い国でもあるので「危ない」というところではなく、常識を守ってさえすれば、犯罪に巻き込まれることはほとんどない。
それでも、街中に日本のコンビニがわんさかあり、居酒屋、ラーメン屋、イオンモール、ツタヤ、ミスドなど日本の景色とも見まがうところがあるのも確かで、そういうところで犯罪被害にあう日本人は少なくない。

このタイの警察に日本人の警察官がいて、タイ国家警察に大きな影響を与えるほど活躍していたことを私はちっとも知らなかった。
「タイに渡った鑑識捜査官 妻がくれた第二の人生」戸島国雄著(並木書房)は、著者自身がタイ国家警察で指導官として勤務した経験が綴られている。
この経験のひとつひとつが興味深い。
著者が経験豊富な警察官だけに、紀行作家やサブカル作家の著すタイの生活記とは一線を画す面白さがあり、感動がある。
タイ国家警察の階級社会の面白さ。
国軍との関係。
若い警察官たちの活き活きとした生活風景。
タイ人社会に入らないと分からない食生活。
などなどなど。
実にユニークなのだ。

もっとも感心するのは、著者が勇気と責任溢れる警察官であることだった。
最近は警察について不祥事ばかりが取り上げられて、その威信が大きく揺らいでいる。
警察官の飲酒検問捏造。
ひき逃げ。
風俗店で拘束。
などなど。
ところが著者の体を張ったタイでの活躍は失敗談も沢山織り交ぜているだけに、読んでいて、
「っq,こんな警察官が、まだまだいるんだ」:
と思うと嬉しくもあり頼もしくもあった。

表紙は週刊現代のヤクザ検挙特集みたいな写真のノンフィクションで、購入するのは少しばかり躊躇ってしまう一冊だが、みかけによらず大いに感動させてくれるノンフィクションエッセイなのであった。

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