年も押し迫ったその日。
珍しいことに午前中に殆どの仕事がおわり私は午後の時間が自由になった。
「おーい、奈良でも行けへんか?」
とたまたまアルバイトのシフトが休日になっていたカミさんに声を掛けた。
私たちは奈良国立博物館で開催された今年の正倉院展を見逃していたこともあり、かねてから奈良でのんびりしたいと思っていた。
そんあところに「奈良へ行かへんか」と私が提案したものだからカミさんは喜んだのだ。
「わ、ガチャポンができる!」
と。
ええ年をこいてカミさんは奈良でガチャポンにハマっている。
カミさんは仏像の小さなレプリカが入ったカプセル玩具の収集に1年ばかり情熱を燃やしているのだ。
三条通り商店街の角で。
あるいは奈良町の街角で。
あるいは世界遺産元興寺の門前で。
アマゾンで検索するとセットで販売しているから、一気に買うこともできるのだが。
そういう買い方は認めないのだ。
「これは大阪でもネットでも買えるけど、こういうのは奈良で買うから値打ちあるねん。」
わけがわからん、変なカミさんなのである。
「でも今日は奈良は奈良でも五條へ行くで」
「五条? 弁慶と義経か?」
「それは京都!今日行こうと思ってるのは奈良の五條。ほら柿を買いに行ったときに通ったとこ。」
「?」
「奈良市内へ行くよりこっちのほうが近いし高速料金も要らん。初めてのところのほうが発見もあるかもしれんやん。」
「初めてのところ」と自分で言いながら本当に見てみたいと思うあの交差点からちらっと見えた光景を思い出していたのだ。
早速準備を整え自宅から車を出し、国道170号線・外環状線を東へ向かう。
やがて「泉大津ー粉河」という看板がでてきた。
国道480号線との交差点でここを右折。
ここには地元野菜の直売所などがあるのでたまに買い物に来ることはあるが今回はパス。
そのままルートを和歌山県へ方向へとった。
いくつかの短いトンネルを通過。
アップダウンを繰り返し2つの長いトンネルを抜けた。
ここがつい数年前までは自動車が1台やっと通れるほどの峠道を通らなければならないところだった。
それが今では立派な2車線道路である。
トンネルを出てきいて暫く走ると串柿の里という道の駅のあるエリアへ出てきた。
両側に山が迫る。
このあたりは室町時代の頃から干し柿作りが盛んなところだそうだ。
一昨年、試しに国道を逸れて山道へ入ってみたことがあるが干し柿の台が道路沿いにズラッと並んでいる景観は圧巻であった。
しかし道は極めて狭く、そして険しかった。
さらに片方が断崖絶壁になっていてビビったことがある。
ガードレールはない。
その断崖絶壁側に一干し柿の台が並んでいてそれがガードレールの役目も果たしていたのだ。
紀の川が見えてきて集落も出てくるとやがて国道は京奈和道と交差。
京奈和道は高速道路なのだが一部が完成していないため今は無料で走ることができる。
ここからは京奈和道を東に向かって走る。
紀州の陽光は冬なのになぜか暖かなのであった。
つづく