first time 暁の記憶

第80話 端月act.6-another,side story「陽はまた昇る」
桜の下で逢ったんだ、桜の精だと思って…ひとめぼれだよ?
そんなふう父は話してくれた。
気恥ずかしげで幸せな笑顔は忘れられない、だって聴いている自分が幸せだった。
けれど母は今なんて言ったのだろう?不思議で解からなくて周太は箸を止め尋ねた。
「お母さん、自慢できないってどうして?桜の下でひとめぼれってお父さんに聴いたけど、素敵だって僕は思うけど…違うの?」
桜の下ひとめぼれした、それがなぜ自慢できないのだろう。
とても素敵に想えるのに?そんな想いと見つめた先、黒目がちの瞳が困ったよう微笑んだ。
「桜の下でひとめぼれしたのは本当よ?でもね、ちょっと周にも叔母さまにも話すのは恥ずかしいことがあったの、」
そんなに恥ずかしがるって何だろう?
不思議で、解らなくて首傾げこんだ祝膳に大叔母が笑ってくれた。
「お正月の無礼講しましょうか、私も恥ずかしい暴露話があるのよ?」
この上品な大叔母にもそんなことあるの?
意外で、華やかな迎春の膳越し問いかけた。
「おばあさまにも恥ずかしい話があるんですか?」
「あるわよ、76年も生きてますからね、」
切長い瞳が涼やかに笑って祝酒くちづける。
ほっと息吐いて、白皙端整な老婦人は華やかに笑った。
「私ね、許婚がいるのに他の方が初恋なのよ?これは当時の感覚だと悪人です、」
悪人、だなんて検事の妻に不似合だ?
こんな発言は驚かされてしまう、でも納得もしてしまう。
だってあの英二の祖母だ?そんな上品で美しい笑顔は口開いた。
「斗貴子さんは喘息があって梅雨時と夏は発作が起きやすかったの、その時期は軽井沢に滞在されるから行ったのよ、そこで初恋と同時に失恋しました、」
失恋は、恋が終わってしまったこと。
その相手とは結ばれていない?そう気がついて訊いてしまった。
「あの、英二のお祖父さまは初恋相手じゃないってことですか?検事をされてたっていう、」
「そうよ、總司さんは許婚だけど初恋は違うの、残念ながらね?」
華やかに笑った唇が盃またくちづける。
その上品な仕草は孫息子と似ていて、すこし気恥ずかしく酌すると笑ってくれた。
「ありがとう、こんな可愛い男の子にお酌いただくと呑み過ぎそうよ?」
そんなこと言われると答えに困るけど?
また気恥ずかしくて首すじ熱くなる、これは酔いもあるだろうか?
ほんの盃一杯だけ、それでも頬熱い隣で朗らかに母が笑った。
「周のお酌は私の幸せなんです、おかげで呑兵衛が治りません、」
「その気持ち解かるわ、英二もこれくらい可愛らしいと良いのに、」
華やかなトーン笑ってくれる、その言葉に首すじ逆上せてしまう。
今その名前だされることは一番困るのに?ただ気恥ずかしくて話を逸らした。
「あの、おばあさまの初恋相手ってどんなひとなんですか?」
話ひき戻して自分で照れたくなる。
だって恋愛話なんて慣れていない、また頬熱くなる前で大叔母は笑った。
「周太くんのお祖父さまよ?私の初恋は晉さんなの、ひとめぼれ15分後に失恋しました、」
これってすごい暴露話だ?
今なんて訊いたらいいのだろう、だって自分は大叔母の失恋相手の孫だ?
こんな関係に途惑って箸からり落とした隣、ことん、盃を置いて母も瞬いた。
「まあ…それはどういうことですか?」
「ようするに、斗貴子さんと晉さんの逢引きを私がお邪魔して結果、キューピッドになったの、」
涼やかな瞳きれいに笑って栗きんとん箸つける。
ふくんだ唇ほころばせ大叔母は可笑しそうに笑った。
「私はね、高校を卒業したら許婚の總司さんと結婚することになっていました。でも嫌で、高校3年の夏休みに斗貴子さんの別荘へ家出したの。親戚の別荘なんて家出とも言えないけど十八の私には大冒険の気分だったわ、そこに晉さんが斗貴子さんのお見舞いにいらしたの、斗貴子さんが大学2年生の夏よ?」
大叔母の十八歳、それは六十年ほど昔のことだ。
当時は女子高生が従姉の別荘へ「家出」など大冒険、そんな感覚は今と昔でずいぶん違う。
それほど時を経たのに涼やかな声は瑞々しいまま教えてくれた。
「お庭で斗貴子さんと読書をしている時に晉さんがいらしてね、素敵な紳士に私すっかりトキメイテしまって。それで十八の無鉄砲な小娘はすぐ交際を申し込んだのよ、もちろん直ぐにフラれてしまったわ。で、そのまま晉さんは斗貴子さんへプロポーズしました、私のトンデモナイ告白に巻きこまれちゃったのね?」
そんなことがあったなんて?
あんまり予想外で驚いて、そのまま尋ねてしまった。
「あの、お祖父さんはお祖母さんの先生だったんですよね…教授が学生にプロポーズってふつうだったんですか?」
卒業してから結婚話になったと思っていた、だって先生と生徒なのに?
戸籍でも齢は十五も違う、祖母が二十歳の大学2年生ならば祖父は35歳でまだ若い教授の時だ。
それなのに恋愛してプロポーズだなんて大学で問題にならなかったろうか?驚いて不安にすらなって、けれど大叔母は笑った。
「女性の大学生が珍しい時代だから、教授と学生の恋愛自体がレアケースでしょうね?でも斗貴子さんも二十歳で大人の女性でしたからね、二十歳で独身というほうが珍しい時代だもの、晉さんのプロポーズは斗貴子さんのご両親も本当に喜ばれたわ。それからすぐ婚約されて大学卒業を待って結婚したのよ、」
今は二十歳で結婚なんて珍しい、けれど六十年ほど前は普通だった。
こんな時の流れに考えこまされる隣、母が幸せそうに微笑んだ。
「こういうお話が聴けるの本当に嬉しいです、馨さんは何も話してくれなくて。ありがとうございます、」
「こんなお話でよければ幾らでもするわよ、聴きたいこと訊いて?」
アルト低めの声やわらかに笑ってくれる。
その笑顔へ黒目がちの瞳いたずらっ子に母が笑った。
「家出までするほど結婚が嫌だったのに、なぜ叔母さまは叔父さまと結婚されたんですか?」
あ、それ訊いちゃうんだ?
こんな母の大胆すこし驚かされる、こういう貌は知らなかった。
けれど初めて見る顔は楽しげで嬉しくなる、この明るい座敷で大叔母が微笑んだ。
「失恋した私を迎えに来てくれたの、そのとき久しぶりに会った總司さんがとっても素敵になっててね、晉さんにフラれて正解なんて想っちゃったわ、」
久しぶりに会った、
そう言われて六十年前がすこし解かる気がする。
今の自分と似ているかもしれない?そんなふう想えて訊いてみた。
「あの、おばあさまが結婚が嫌になっていたのは英二のお祖父さまが忙しかったからですか?逢えなくて寂しかったとか、」
「そうね、それもあったと思うわ、」
切長い瞳ふわり笑って頷いてくれる。
その眼差し懐かしむよう教えてくれた。
「總司さんはご近所で小さい頃から知ってたの、五つ年上は大人に見えたわ。いつも優しくて落着いた人だからお兄様ってカンジで、だから奥さんになるのが何か嫌だったの。まだ夫唱婦随の時代でしょう?ずっと甘やかしてくれた人に威張られるのも嫌で、それに小説みたいなロマンスも憧れる年頃だったしね?」
話してくれる「兄」きょうだいの感覚に不思議になる。
こんなふう想うこともあるんだな?考えながら訊くテーブル越し大叔母が笑った。
「でも、晉さんに失恋したおかげで恋愛のコツを掴んだみたいでね?迎えにきたスーツ姿の總司さんが素敵でのひとめぼれよ、だから結婚したの、」
ひとめぼれって旧知の人にも出来るんだ?
そんな言葉に自分を考えてしまう、最初の印象はどうだったろう?
―英二のこと大嫌いだったな僕、冷たくって…すごく哀しそうでほっとけなくて、
切長い瞳は凍えていた、笑顔が軽薄に見せかける分だけ瞳の冷度が怖くて、怖い分だけ底深い哀しみに惹かれた。
笑っているくせに世界を拒絶する、そんな眼差しは端整な顔になおさら酷薄で孤独が響く。
これは本質だと今なら解かる、それでも逢いたい俤に訊かれた。
「周太くん、関根さんの写真ってあるかしら?」
いきなりその話題なんだ?
たぶん英理のことだろう、その幸せな予想に尋ねた。
「もしかして関根、ご挨拶に来るんですか?」
「そうなのよ、先に写真だけでも会って心構えしようと思って。美幸さんは英理から何か聴いてるかしら?」
尋ねるトーン明るく笑っている。
きっと良い印象なのだろう、そんな笑顔に母はワイン注ぎながら答えた。
「おつきあいを始める前に相談に来てくれました、馨さんも警察官でしたから、ね?」
穏やかに応えてくれる笑顔に鼓動そっと軋む。
あのとき母が話したことは忘れられない、想いながら携帯電話を探して首傾げた。
「あ…ない?」
ポケットに入れたはず、けれど無い。
きっと落としたのはあそこだ?すぐ見当ついて申しでた。
「あの、関根の写真なら携帯に入ってるので持ってきます、」
「ごめんなさいね、ありがとう、」
微笑んでくれる切長い瞳は父と似て懐かしい。
この笑顔とすごせる元旦は幸せだ、そんな想いと仏間を出た。
―机にもぐりこんだとき落としたよね、きっと、
あのときポケットから零れたのだろう?
そう思案と階段を上がり自室に入ると勉強机の下もぐりこんだ。
「ほら?」
ほら、やっぱりここにあった。
拾いあげ出ようとして、くらりバランス崩し側板にぶつかった。
「あっ、」
こんっ、かさり、
ぶつかった同時、軽やかな木音の響きに小さな音まじる。
かすかな違和感の音に見つめた先、見慣れない封筒に首傾げた。
「え…?」
なんだろう?
見つめる机の下の床の上、確かに封筒ひとつ落ちている。
さっきは落ちていなかった、けれど今はある何かに周太は手を伸ばした。
(to be continued)
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第80話 端月act.6-another,side story「陽はまた昇る」
桜の下で逢ったんだ、桜の精だと思って…ひとめぼれだよ?
そんなふう父は話してくれた。
気恥ずかしげで幸せな笑顔は忘れられない、だって聴いている自分が幸せだった。
けれど母は今なんて言ったのだろう?不思議で解からなくて周太は箸を止め尋ねた。
「お母さん、自慢できないってどうして?桜の下でひとめぼれってお父さんに聴いたけど、素敵だって僕は思うけど…違うの?」
桜の下ひとめぼれした、それがなぜ自慢できないのだろう。
とても素敵に想えるのに?そんな想いと見つめた先、黒目がちの瞳が困ったよう微笑んだ。
「桜の下でひとめぼれしたのは本当よ?でもね、ちょっと周にも叔母さまにも話すのは恥ずかしいことがあったの、」
そんなに恥ずかしがるって何だろう?
不思議で、解らなくて首傾げこんだ祝膳に大叔母が笑ってくれた。
「お正月の無礼講しましょうか、私も恥ずかしい暴露話があるのよ?」
この上品な大叔母にもそんなことあるの?
意外で、華やかな迎春の膳越し問いかけた。
「おばあさまにも恥ずかしい話があるんですか?」
「あるわよ、76年も生きてますからね、」
切長い瞳が涼やかに笑って祝酒くちづける。
ほっと息吐いて、白皙端整な老婦人は華やかに笑った。
「私ね、許婚がいるのに他の方が初恋なのよ?これは当時の感覚だと悪人です、」
悪人、だなんて検事の妻に不似合だ?
こんな発言は驚かされてしまう、でも納得もしてしまう。
だってあの英二の祖母だ?そんな上品で美しい笑顔は口開いた。
「斗貴子さんは喘息があって梅雨時と夏は発作が起きやすかったの、その時期は軽井沢に滞在されるから行ったのよ、そこで初恋と同時に失恋しました、」
失恋は、恋が終わってしまったこと。
その相手とは結ばれていない?そう気がついて訊いてしまった。
「あの、英二のお祖父さまは初恋相手じゃないってことですか?検事をされてたっていう、」
「そうよ、總司さんは許婚だけど初恋は違うの、残念ながらね?」
華やかに笑った唇が盃またくちづける。
その上品な仕草は孫息子と似ていて、すこし気恥ずかしく酌すると笑ってくれた。
「ありがとう、こんな可愛い男の子にお酌いただくと呑み過ぎそうよ?」
そんなこと言われると答えに困るけど?
また気恥ずかしくて首すじ熱くなる、これは酔いもあるだろうか?
ほんの盃一杯だけ、それでも頬熱い隣で朗らかに母が笑った。
「周のお酌は私の幸せなんです、おかげで呑兵衛が治りません、」
「その気持ち解かるわ、英二もこれくらい可愛らしいと良いのに、」
華やかなトーン笑ってくれる、その言葉に首すじ逆上せてしまう。
今その名前だされることは一番困るのに?ただ気恥ずかしくて話を逸らした。
「あの、おばあさまの初恋相手ってどんなひとなんですか?」
話ひき戻して自分で照れたくなる。
だって恋愛話なんて慣れていない、また頬熱くなる前で大叔母は笑った。
「周太くんのお祖父さまよ?私の初恋は晉さんなの、ひとめぼれ15分後に失恋しました、」
これってすごい暴露話だ?
今なんて訊いたらいいのだろう、だって自分は大叔母の失恋相手の孫だ?
こんな関係に途惑って箸からり落とした隣、ことん、盃を置いて母も瞬いた。
「まあ…それはどういうことですか?」
「ようするに、斗貴子さんと晉さんの逢引きを私がお邪魔して結果、キューピッドになったの、」
涼やかな瞳きれいに笑って栗きんとん箸つける。
ふくんだ唇ほころばせ大叔母は可笑しそうに笑った。
「私はね、高校を卒業したら許婚の總司さんと結婚することになっていました。でも嫌で、高校3年の夏休みに斗貴子さんの別荘へ家出したの。親戚の別荘なんて家出とも言えないけど十八の私には大冒険の気分だったわ、そこに晉さんが斗貴子さんのお見舞いにいらしたの、斗貴子さんが大学2年生の夏よ?」
大叔母の十八歳、それは六十年ほど昔のことだ。
当時は女子高生が従姉の別荘へ「家出」など大冒険、そんな感覚は今と昔でずいぶん違う。
それほど時を経たのに涼やかな声は瑞々しいまま教えてくれた。
「お庭で斗貴子さんと読書をしている時に晉さんがいらしてね、素敵な紳士に私すっかりトキメイテしまって。それで十八の無鉄砲な小娘はすぐ交際を申し込んだのよ、もちろん直ぐにフラれてしまったわ。で、そのまま晉さんは斗貴子さんへプロポーズしました、私のトンデモナイ告白に巻きこまれちゃったのね?」
そんなことがあったなんて?
あんまり予想外で驚いて、そのまま尋ねてしまった。
「あの、お祖父さんはお祖母さんの先生だったんですよね…教授が学生にプロポーズってふつうだったんですか?」
卒業してから結婚話になったと思っていた、だって先生と生徒なのに?
戸籍でも齢は十五も違う、祖母が二十歳の大学2年生ならば祖父は35歳でまだ若い教授の時だ。
それなのに恋愛してプロポーズだなんて大学で問題にならなかったろうか?驚いて不安にすらなって、けれど大叔母は笑った。
「女性の大学生が珍しい時代だから、教授と学生の恋愛自体がレアケースでしょうね?でも斗貴子さんも二十歳で大人の女性でしたからね、二十歳で独身というほうが珍しい時代だもの、晉さんのプロポーズは斗貴子さんのご両親も本当に喜ばれたわ。それからすぐ婚約されて大学卒業を待って結婚したのよ、」
今は二十歳で結婚なんて珍しい、けれど六十年ほど前は普通だった。
こんな時の流れに考えこまされる隣、母が幸せそうに微笑んだ。
「こういうお話が聴けるの本当に嬉しいです、馨さんは何も話してくれなくて。ありがとうございます、」
「こんなお話でよければ幾らでもするわよ、聴きたいこと訊いて?」
アルト低めの声やわらかに笑ってくれる。
その笑顔へ黒目がちの瞳いたずらっ子に母が笑った。
「家出までするほど結婚が嫌だったのに、なぜ叔母さまは叔父さまと結婚されたんですか?」
あ、それ訊いちゃうんだ?
こんな母の大胆すこし驚かされる、こういう貌は知らなかった。
けれど初めて見る顔は楽しげで嬉しくなる、この明るい座敷で大叔母が微笑んだ。
「失恋した私を迎えに来てくれたの、そのとき久しぶりに会った總司さんがとっても素敵になっててね、晉さんにフラれて正解なんて想っちゃったわ、」
久しぶりに会った、
そう言われて六十年前がすこし解かる気がする。
今の自分と似ているかもしれない?そんなふう想えて訊いてみた。
「あの、おばあさまが結婚が嫌になっていたのは英二のお祖父さまが忙しかったからですか?逢えなくて寂しかったとか、」
「そうね、それもあったと思うわ、」
切長い瞳ふわり笑って頷いてくれる。
その眼差し懐かしむよう教えてくれた。
「總司さんはご近所で小さい頃から知ってたの、五つ年上は大人に見えたわ。いつも優しくて落着いた人だからお兄様ってカンジで、だから奥さんになるのが何か嫌だったの。まだ夫唱婦随の時代でしょう?ずっと甘やかしてくれた人に威張られるのも嫌で、それに小説みたいなロマンスも憧れる年頃だったしね?」
話してくれる「兄」きょうだいの感覚に不思議になる。
こんなふう想うこともあるんだな?考えながら訊くテーブル越し大叔母が笑った。
「でも、晉さんに失恋したおかげで恋愛のコツを掴んだみたいでね?迎えにきたスーツ姿の總司さんが素敵でのひとめぼれよ、だから結婚したの、」
ひとめぼれって旧知の人にも出来るんだ?
そんな言葉に自分を考えてしまう、最初の印象はどうだったろう?
―英二のこと大嫌いだったな僕、冷たくって…すごく哀しそうでほっとけなくて、
切長い瞳は凍えていた、笑顔が軽薄に見せかける分だけ瞳の冷度が怖くて、怖い分だけ底深い哀しみに惹かれた。
笑っているくせに世界を拒絶する、そんな眼差しは端整な顔になおさら酷薄で孤独が響く。
これは本質だと今なら解かる、それでも逢いたい俤に訊かれた。
「周太くん、関根さんの写真ってあるかしら?」
いきなりその話題なんだ?
たぶん英理のことだろう、その幸せな予想に尋ねた。
「もしかして関根、ご挨拶に来るんですか?」
「そうなのよ、先に写真だけでも会って心構えしようと思って。美幸さんは英理から何か聴いてるかしら?」
尋ねるトーン明るく笑っている。
きっと良い印象なのだろう、そんな笑顔に母はワイン注ぎながら答えた。
「おつきあいを始める前に相談に来てくれました、馨さんも警察官でしたから、ね?」
穏やかに応えてくれる笑顔に鼓動そっと軋む。
あのとき母が話したことは忘れられない、想いながら携帯電話を探して首傾げた。
「あ…ない?」
ポケットに入れたはず、けれど無い。
きっと落としたのはあそこだ?すぐ見当ついて申しでた。
「あの、関根の写真なら携帯に入ってるので持ってきます、」
「ごめんなさいね、ありがとう、」
微笑んでくれる切長い瞳は父と似て懐かしい。
この笑顔とすごせる元旦は幸せだ、そんな想いと仏間を出た。
―机にもぐりこんだとき落としたよね、きっと、
あのときポケットから零れたのだろう?
そう思案と階段を上がり自室に入ると勉強机の下もぐりこんだ。
「ほら?」
ほら、やっぱりここにあった。
拾いあげ出ようとして、くらりバランス崩し側板にぶつかった。
「あっ、」
こんっ、かさり、
ぶつかった同時、軽やかな木音の響きに小さな音まじる。
かすかな違和感の音に見つめた先、見慣れない封筒に首傾げた。
「え…?」
なんだろう?
見つめる机の下の床の上、確かに封筒ひとつ落ちている。
さっきは落ちていなかった、けれど今はある何かに周太は手を伸ばした。
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