The cataracts blow their trumpets from the steep 変化と幸福
第81話 凍歌 act.4-another,side story「陽はまた昇る」
花を抱いて歩く道は凩ずっと冷たい。
けれど花束ふたつ温かくて香から甘くて、そして自分に途惑ってしまう。
あの人にもこんな想い抱いたことが無くて、だけど幸せで周太は花そっと抱き直した。
―僕すごく今なんだか温かいな、すごく恥ずかしいのに…なんだろう、
恥ずかしい、けれど温かい。
この感覚なんだか解らなくて、けれど幸せなのだと想えてしまう。
まだ赤いだろう首すじにマフラーかき寄せる、それも幸せだと想えてしまう。
そんな想いごと駅のコンコース歩いて、ぽん、ダッフルコートの肩を軽やかに敲かれた。
「おい周太、通り過ぎるなってば?」
闊達な声にふり向いて眼鏡の瞳が笑ってくれる。
この笑顔に会うのも久しぶり、ただ嬉しい再会に笑いかけた。
「ごめんね賢弥、考えごとしてて…僕ちょっと遅刻したよね、ごめんね?」
「小嶌さんまだ来てないし大丈夫、今年もよろしくな?」
年明け最初の再会に右手さし出してくれる。
こんなふう握手してくれること嬉しくて、花束ふたつ左手に抱き右手で応えた。
「ん、今年もよろしくね、賢弥?」
「今年は大学院の受験もあるしホントよろしくな、過去問対策またやろ?」
聡明な瞳が笑って約束を思い出させる。
この約束は叶うのだろうか?そんな未来は解らなくて、けれど願いたくて頷いた。
「うん、また講義の日にしたいね…ほんとうに僕こそよろしくね?」
また公開講座の日に会う予定はある。
けれど本当に会えるのかなんて解らない、それでも願いたい相手は悪戯っ子に笑った。
「ところで周太、いま花屋のお姉さんに真っ赤だったけどさ、告白でもしたとか?」
ああ見られちゃっていたなんてどうしよう?
「…こくはくなんてしてないよ、まっかにはなったかもしれないけど、」
ありのまま答えて、けれど図星だったのかもしれない?
そんなこと気づかされる3分前が鼓動ひっくり返す。
『由希さんのお祈りってすごく効きそうです、女神さまみたいで、』
なんて言ったのは自分だ、あの台詞はある意味で「告白」だろうか?
―でも僕そんなつもりじゃないよ?だって女神さまみたいって本当だし、
ほら自問自答で言訳してる。
こんな自分が気恥ずかしくてマフラーそっと衿元よせて、でも頬まで赤いかもしれない。
こんなふう赤くなることも恥ずかしくて困らされる隣、朗らかな声が言った。
「そんなに照れるって周太、ホントは気があるんだろ?からかうツモリはないから気を悪くしないでくれな、」
気があるって、なんの?
「きがあるって賢弥それどういういみ?」
「だから恋愛で好きって意味だろ、他に無いだろこの場合?」
さらり笑って言い返されて首すじ一瞬前より熱い。
こんなに逆上せていたら倒れそう?そんな心配に闊達な笑顔が訊いてきた。
「きれいな花束だな、2つあるけどチューリップは小嶌さんだろ、こっちの水仙は?」
あ、その質問ちょっとまた困るのに?
―これ由希さんにもらったなんて言ったら変なこと言われるかも、
水仙の花束は彼女からもらった、それを今言ったら誤解ふくらみそう?
そんな心配に答えかた迷って困る、もう途方くれかけたとき懐かしい声が呼んだ。
「湯原くん、手塚くん、お待たせごめんね?」
あ、僕の救世主が来た。
「おつかれさま美代さん、待ってたよ?」
本当に待ってた、だって君がいたら誰より心強い。
そんな信頼よせる相手は紅桃色のマフラーから笑ってくれた。
「ごめんね、大学から駅まですごく混んじゃって。昨日も今日も大混雑よ?」
答えてくれる笑顔は明るく弾んでいる。
たぶん出来は悪くない、そんな楽しげな笑顔に友達も頷いた。
「ほんとセンターって混むんだよな、受験生みんな集中するから仕方ないんだけど、」
「うん、ふたりに聴いてたから覚悟してたんだけどね、でも田舎者にはびっくりです、」
朗らかに笑ってくれるベージュのコート姿が懐かしい。
このコートもマフラーも去年の冬と同じで、こんな2度目が嬉しいまま笑いかけた。
「大学まで迷わずに行けた?」
「湯原くんに教わった目印のお蔭でね?湯原くんの母校だなって嬉しくて緊張も少なかったよ、」
駅の雑踏に可愛らしい声がはずむ。
その言葉も笑顔も良い結果を想わせて嬉しくなる隣、賢弥が首傾げた。
「小嶌さん、周太の母校って神奈川県だろ?センターって普通は住所地の近くが受験会場に指定されるけど、奥多摩在住なのになんで神奈川?」
この疑問は当然のこと想うだろう?
そこにある事情に明るい綺麗な瞳は微笑んだ。
「私、家族には内緒で大学受験するの。だから湯原くんのご実家に住所変更させてもらったわけ、受験票の郵送で親にバレたら困るでしょ?」
往来するコンコースの片隅、実直な眼差しが可笑しそうに笑ってくれる。
けれど話した言葉は容易じゃない、そんな笑顔に眼鏡の瞳ゆっくり瞬いた。
「そっか、そういう事情あるのに受験って凄いな?やっぱ小嶌さんってカッコいいよ、」
「ありがとね、でもバレたら親に絶対すごく叱られると思う、」
ほんと困るよね?
そんな貌で笑ってくれる瞳は聡く明るい。
やっぱり試験は出来たのだろう、そんな空気に笑いかけた。
「美代さん、これどうぞ?必勝祈願のブーケなんだ、」
この花束は彼女が祈りこめてリボンをかけた。
あの優しい温もりごと差出して、受けとった笑顔いっぱい明るんだ。
「ありがとう湯原くん、必勝祈願なんて嬉しいな?チューリップすごく可愛い、」
綺麗な明るい目が笑って花束を見つめてくれる。
やっぱり喜んでもらえた、この見たかった笑顔に言伝を告げた。
「月桂樹は勝利の女神の冠でね、栄光とか勝利って意味なんだって。勿忘草は記憶力が良くなりそうって入れてくれたんだ、」
「あ、いつものお花屋さんが作ってくれたのね?花言葉のブーケなんてあのお姉さんらしいな、」
楽しげに笑ってくれる言葉に鼓動そっと敲かれる。
だってまた言われてしまうかも?つい心配して、その通りに友達が笑った。
「小嶌さん、周太はあの花屋さんとナンカあったっぽいんだけどさ、教えてくれないんだ、」
ああやっぱり誤解のまんま言ってくれちゃうんだね?
―ほんと賢弥ったら困るよこんなの、でも誤解ともいいきれないのかな?
こんな展開に困りながらも「誤解」かどうか考えさせられる。
だって「なんかあった」のも事実だ?また困惑するまま闊達な声が言った。
「まず飯に行こ?前と同じトコ予約してあるんだ、そのあと〆はあのラーメン屋が良いよな?」
ほら、やっぱり解ってくれているんだ?
こんな理解も嬉しくて素直に頷いた。
「あのラーメン屋さん嬉しいな、僕も久しぶりに行きたかったんだ、」
「私も行きたい、あそこ温かい感じで好きなの、」
紅桃色のマフラーも頷いて笑ってくれる。
その笑顔にも予想は明るくて、嬉しく歩きはじめた隣から訊かれた。
「その水仙の花束も素敵ね、あのお姉さんから湯原くんに御年賀?」
この訊かれ方はしっくりくるな?
そんなふう想えて嬉しいまま微笑んで口開いた。
「うん、常連さんにサービスですって…珍しい水仙がきたから大事にしてねってくれたんだ、」
「そういうプレゼントって素敵ね、湯原くんなら大事にしてくれるって正しいし、」
明るい可愛い声が花に微笑んでくれる。
こんなふう話すたび温かい、そんな想いの道で闊達な声が尋ねた。
「周太、その水仙は写真も撮るんだろ?パソコンからメール添付してもらっていい?」
きっと「考えている事」のために欲しいんだろうな?
それは自分も同じでいる、こんな共通点も嬉しく頷いた。
「うん、帰ったら送るね?」
「よろしくな、あと観察録つけたらまた見せて?」
嬉しそうにチタンフレームの瞳が笑う。
この眼差しと毎日を学びに費やせたらいい、そんな願いに夜の歌ふと響く。
―伊達さんの子守唄を聴いたからかな、お祖母さんの手紙と…今の僕の気持ち、
夜、漆黒の空港で低く透る声は子守唄を歌った。
そんな夜の後に祖母の手紙は響いて、だから花屋の笑顔も友達の言葉も共鳴する。
『私の名前は由希よ、由縁の由に希望の希って書くの。雪の朝に生まれたからって父が付けたのよ?』
『だから恋愛で好きって意味だろ、他に無いだろこの場合?』
澄んだアルトの声と朗らかな聡い声、あの言葉たちは祖母の手紙と似ている。
そして夜の子守唄から遥かな願いごと告げられるようで、だから泣きたくなる。
だって英二、僕はあなたと何を生めるだろう?名前ひとつ贈ることも知らないで。
(to be continued)
【引用詩文:William Wordsworth「Intimations of Immortality from Recollections of Early Childhood」】
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第81話 凍歌 act.4-another,side story「陽はまた昇る」
花を抱いて歩く道は凩ずっと冷たい。
けれど花束ふたつ温かくて香から甘くて、そして自分に途惑ってしまう。
あの人にもこんな想い抱いたことが無くて、だけど幸せで周太は花そっと抱き直した。
―僕すごく今なんだか温かいな、すごく恥ずかしいのに…なんだろう、
恥ずかしい、けれど温かい。
この感覚なんだか解らなくて、けれど幸せなのだと想えてしまう。
まだ赤いだろう首すじにマフラーかき寄せる、それも幸せだと想えてしまう。
そんな想いごと駅のコンコース歩いて、ぽん、ダッフルコートの肩を軽やかに敲かれた。
「おい周太、通り過ぎるなってば?」
闊達な声にふり向いて眼鏡の瞳が笑ってくれる。
この笑顔に会うのも久しぶり、ただ嬉しい再会に笑いかけた。
「ごめんね賢弥、考えごとしてて…僕ちょっと遅刻したよね、ごめんね?」
「小嶌さんまだ来てないし大丈夫、今年もよろしくな?」
年明け最初の再会に右手さし出してくれる。
こんなふう握手してくれること嬉しくて、花束ふたつ左手に抱き右手で応えた。
「ん、今年もよろしくね、賢弥?」
「今年は大学院の受験もあるしホントよろしくな、過去問対策またやろ?」
聡明な瞳が笑って約束を思い出させる。
この約束は叶うのだろうか?そんな未来は解らなくて、けれど願いたくて頷いた。
「うん、また講義の日にしたいね…ほんとうに僕こそよろしくね?」
また公開講座の日に会う予定はある。
けれど本当に会えるのかなんて解らない、それでも願いたい相手は悪戯っ子に笑った。
「ところで周太、いま花屋のお姉さんに真っ赤だったけどさ、告白でもしたとか?」
ああ見られちゃっていたなんてどうしよう?
「…こくはくなんてしてないよ、まっかにはなったかもしれないけど、」
ありのまま答えて、けれど図星だったのかもしれない?
そんなこと気づかされる3分前が鼓動ひっくり返す。
『由希さんのお祈りってすごく効きそうです、女神さまみたいで、』
なんて言ったのは自分だ、あの台詞はある意味で「告白」だろうか?
―でも僕そんなつもりじゃないよ?だって女神さまみたいって本当だし、
ほら自問自答で言訳してる。
こんな自分が気恥ずかしくてマフラーそっと衿元よせて、でも頬まで赤いかもしれない。
こんなふう赤くなることも恥ずかしくて困らされる隣、朗らかな声が言った。
「そんなに照れるって周太、ホントは気があるんだろ?からかうツモリはないから気を悪くしないでくれな、」
気があるって、なんの?
「きがあるって賢弥それどういういみ?」
「だから恋愛で好きって意味だろ、他に無いだろこの場合?」
さらり笑って言い返されて首すじ一瞬前より熱い。
こんなに逆上せていたら倒れそう?そんな心配に闊達な笑顔が訊いてきた。
「きれいな花束だな、2つあるけどチューリップは小嶌さんだろ、こっちの水仙は?」
あ、その質問ちょっとまた困るのに?
―これ由希さんにもらったなんて言ったら変なこと言われるかも、
水仙の花束は彼女からもらった、それを今言ったら誤解ふくらみそう?
そんな心配に答えかた迷って困る、もう途方くれかけたとき懐かしい声が呼んだ。
「湯原くん、手塚くん、お待たせごめんね?」
あ、僕の救世主が来た。
「おつかれさま美代さん、待ってたよ?」
本当に待ってた、だって君がいたら誰より心強い。
そんな信頼よせる相手は紅桃色のマフラーから笑ってくれた。
「ごめんね、大学から駅まですごく混んじゃって。昨日も今日も大混雑よ?」
答えてくれる笑顔は明るく弾んでいる。
たぶん出来は悪くない、そんな楽しげな笑顔に友達も頷いた。
「ほんとセンターって混むんだよな、受験生みんな集中するから仕方ないんだけど、」
「うん、ふたりに聴いてたから覚悟してたんだけどね、でも田舎者にはびっくりです、」
朗らかに笑ってくれるベージュのコート姿が懐かしい。
このコートもマフラーも去年の冬と同じで、こんな2度目が嬉しいまま笑いかけた。
「大学まで迷わずに行けた?」
「湯原くんに教わった目印のお蔭でね?湯原くんの母校だなって嬉しくて緊張も少なかったよ、」
駅の雑踏に可愛らしい声がはずむ。
その言葉も笑顔も良い結果を想わせて嬉しくなる隣、賢弥が首傾げた。
「小嶌さん、周太の母校って神奈川県だろ?センターって普通は住所地の近くが受験会場に指定されるけど、奥多摩在住なのになんで神奈川?」
この疑問は当然のこと想うだろう?
そこにある事情に明るい綺麗な瞳は微笑んだ。
「私、家族には内緒で大学受験するの。だから湯原くんのご実家に住所変更させてもらったわけ、受験票の郵送で親にバレたら困るでしょ?」
往来するコンコースの片隅、実直な眼差しが可笑しそうに笑ってくれる。
けれど話した言葉は容易じゃない、そんな笑顔に眼鏡の瞳ゆっくり瞬いた。
「そっか、そういう事情あるのに受験って凄いな?やっぱ小嶌さんってカッコいいよ、」
「ありがとね、でもバレたら親に絶対すごく叱られると思う、」
ほんと困るよね?
そんな貌で笑ってくれる瞳は聡く明るい。
やっぱり試験は出来たのだろう、そんな空気に笑いかけた。
「美代さん、これどうぞ?必勝祈願のブーケなんだ、」
この花束は彼女が祈りこめてリボンをかけた。
あの優しい温もりごと差出して、受けとった笑顔いっぱい明るんだ。
「ありがとう湯原くん、必勝祈願なんて嬉しいな?チューリップすごく可愛い、」
綺麗な明るい目が笑って花束を見つめてくれる。
やっぱり喜んでもらえた、この見たかった笑顔に言伝を告げた。
「月桂樹は勝利の女神の冠でね、栄光とか勝利って意味なんだって。勿忘草は記憶力が良くなりそうって入れてくれたんだ、」
「あ、いつものお花屋さんが作ってくれたのね?花言葉のブーケなんてあのお姉さんらしいな、」
楽しげに笑ってくれる言葉に鼓動そっと敲かれる。
だってまた言われてしまうかも?つい心配して、その通りに友達が笑った。
「小嶌さん、周太はあの花屋さんとナンカあったっぽいんだけどさ、教えてくれないんだ、」
ああやっぱり誤解のまんま言ってくれちゃうんだね?
―ほんと賢弥ったら困るよこんなの、でも誤解ともいいきれないのかな?
こんな展開に困りながらも「誤解」かどうか考えさせられる。
だって「なんかあった」のも事実だ?また困惑するまま闊達な声が言った。
「まず飯に行こ?前と同じトコ予約してあるんだ、そのあと〆はあのラーメン屋が良いよな?」
ほら、やっぱり解ってくれているんだ?
こんな理解も嬉しくて素直に頷いた。
「あのラーメン屋さん嬉しいな、僕も久しぶりに行きたかったんだ、」
「私も行きたい、あそこ温かい感じで好きなの、」
紅桃色のマフラーも頷いて笑ってくれる。
その笑顔にも予想は明るくて、嬉しく歩きはじめた隣から訊かれた。
「その水仙の花束も素敵ね、あのお姉さんから湯原くんに御年賀?」
この訊かれ方はしっくりくるな?
そんなふう想えて嬉しいまま微笑んで口開いた。
「うん、常連さんにサービスですって…珍しい水仙がきたから大事にしてねってくれたんだ、」
「そういうプレゼントって素敵ね、湯原くんなら大事にしてくれるって正しいし、」
明るい可愛い声が花に微笑んでくれる。
こんなふう話すたび温かい、そんな想いの道で闊達な声が尋ねた。
「周太、その水仙は写真も撮るんだろ?パソコンからメール添付してもらっていい?」
きっと「考えている事」のために欲しいんだろうな?
それは自分も同じでいる、こんな共通点も嬉しく頷いた。
「うん、帰ったら送るね?」
「よろしくな、あと観察録つけたらまた見せて?」
嬉しそうにチタンフレームの瞳が笑う。
この眼差しと毎日を学びに費やせたらいい、そんな願いに夜の歌ふと響く。
―伊達さんの子守唄を聴いたからかな、お祖母さんの手紙と…今の僕の気持ち、
夜、漆黒の空港で低く透る声は子守唄を歌った。
そんな夜の後に祖母の手紙は響いて、だから花屋の笑顔も友達の言葉も共鳴する。
『私の名前は由希よ、由縁の由に希望の希って書くの。雪の朝に生まれたからって父が付けたのよ?』
『だから恋愛で好きって意味だろ、他に無いだろこの場合?』
澄んだアルトの声と朗らかな聡い声、あの言葉たちは祖母の手紙と似ている。
そして夜の子守唄から遥かな願いごと告げられるようで、だから泣きたくなる。
だって英二、僕はあなたと何を生めるだろう?名前ひとつ贈ることも知らないで。
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【引用詩文:William Wordsworth「Intimations of Immortality from Recollections of Early Childhood」】
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