萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第82話 声紋 act.3-another,side story「陽はまた昇る」

2015-01-22 22:00:00 | 陽はまた昇るanother,side story
Trust of doubt  疑惑の信頼



第82話 声紋 act.3-another,side story「陽はまた昇る」

こんなことして、僕を籠絡する心算だろうか?

そんな疑い抱えながらも信じたい。
だって本音もう嫌えなくなっている、だから今ここに座っている。
この部屋の空気も住人も本当はもう好きなのだろう?そう想わせる瞳が周太に笑った。

「ほら湯原、この肉もう煮えてるぞ?葱ばっか食ってないで肉も食えよ、」

その指摘なんだかちょっと癪に障るな?
そんな想いついつっけんどんに言った。

「葱が好きだとなんか悪いですか?」

こんな言い返しかた小学生みたい。
そう自覚しながらも今なにか突っぱねたい、けれど先輩は笑った。

「悪くない、喉に葱は良いらしいからな?でも肉も食わないと筋肉つかないぞ、現場で保たない、」
「じゃあ伊達さんは肉いっぱい食べてるんでしょうね、」

またつい言い返して気恥ずかしくなる。
本当に今夜の自分は少し変だ、だって誰かさんと話しているみたい?

「肉は好きだぞ、男なら大概が好きだろ、」
「…僕が男の大概にはいっていないって言ってます?」

ほらこんな言い方まったく誰かさん対応だ?
こんな自分に自分で途惑いながら、それでもシャープなクセに穏やかな瞳が笑ってくれる。

「たしかに湯原って可愛いけど、でもすごい男だって俺は思ってるぞ?」

そんなこと言って籠絡するつもり?
また疑惑つい抱えこみながら声つっけんどんに出た。

「…こうえいです、伊達さんみたいなかっこいい男のひとに言われて、」

あ、なんだか似たような言い方したことあるな?
その相手また想いだして、そして1時間前の不安が軋みだす。

『山岳会のアルパインクライマーなら外壁を降りることも可能だ、出入りは非常用の侵入口で出来る。この日は午前に山岳警備隊全体の研修会があった、』

伊達が告げた事実関係は答もう示唆する。
本当はもう気づいたのだろう、警視庁の「外壁を降りる」人間がどこにいるのか?

『警視庁だけで合同訓練の打合せをしている、青梅署の後藤さんも蒔田部長も参加でな…後藤さんは警視庁山岳会の会長だ…この男に見憶えないか?』

この男に見憶えないか?

あんなふう自分に訊くなんて気付いているかもしれない。
あれだけ気づいているなら英二と自分が親しい事などすぐ解かってしまう。
そして辿り着くかもしれない、それくらい優秀だと5ヵ月で知っている男は笑った。

「光栄ですって、何だよそれ?」
「そのままです、」

つっけんどんに返して豆腐へ箸つける。
口に入れて、熱くて顔つい顰めた前で低い声が穏やかに言った。

「湯原、さっきのこと怒ってるのか?怖がらせて誤解させたなら謝る、ごめん、」

誤解って何を言いたいの?
そう視線で尋ねた相手は沈毅な瞳を向けた。

「俺は湯原を尋問したくてあの部屋に連れ込んだんじゃない、信頼して欲しいから連れて行ったって解らないか?」

解らないか?なんて訊き方ちょっとずるい。
そんな本音と箸動かしながら声つっけんどんに出た。

「…ほんとに信頼してなかったらごはん食べませんよ、変な薬とかはいってたら怖いし、」

今ここで伊達の手料理を食べている、それだって自分なりの意思表示だ。
そう告げた向かいシャープな瞳ふわり笑った。

「だよな、俺また変なこと言ってごめん、」
「…でも信頼しきってるわけでもありませんから、」

正直にまた告げて鶏団子そっと箸先に割る。
その中に銀杏ひとつ見つけてつい笑ってしまった。

「銀杏いれたりして、こんなのいつ作ってるんですか?」

毎日、訓練と業務の疲労で寮は寝る場所になっている。
それなのに鶏団子なんか作っている人が可笑しい、素直に笑った前で穏やかな瞳ほころんだ。

「休日に暇あったら作るんだよ、料理は俺にとってストレス解消法なんだ、」
「ふっ…伊達さんがそれって意外、」

笑ってしまいながら箸運んで、ほろり風味やわらかに美味しい。
いくらストレス解消法でもこんなに凝るなんて?なんだか楽しい相手は涼しい顔で言った。

「前も言ったろ、ずっと男所帯で俺が料理番だったんだ、子供の頃から慣れてる生活パターンは癒される。湯原だってそういうのあるだろ?」

そうだった、この人は母親がいないまま育っている。
こんなこと改めて言わせてしまった、その迂闊が申し訳なくて頷いた。

「はい、僕も本を読むとリラックスします…あの、いろいろすみません、」

謝って、そして気づかされる。
今どうして自分が苛ついているのか、その相手は目の前の人じゃない。

―僕ほんとうは英二に怒ってるんだ、監視カメラに映るなんて…きっとわざとだ、

伊達に連れられて見た画像、英二は父そっくりの貌に映っていた。
きっと父のフリして映ったのだろう、そう解ってしまう根拠なんてありすぎる。

―新宿署の時と同じだ、わざと監視カメラに映って関係者をおびき出そうとしてる、わざとお父さんそっくりの貌を見せて、

あんな危険なこともう止めて?

そう去年の冬にお願いした、けれど今もまたやっている。
これが父と自分のためだとしても嫌だ、だって大切な人を危険にさらしたいなど誰が想う?

「…ほんとばか、」

ぽつん、声こぼれて椀の人参を突いてしまう。
この野菜あの綺麗な口に押し込んでやりたい、この嘘吐きと罵って困らせたい。

『周太?そんなに怒らないでよ、周太ってば、機嫌直して?』

そう言って困った貌するのだろう、その困り顔だって綺麗でまた籠絡してくれる。
それが同じ男として本音から妬ましい、なぜ同じ齢であんなに差があるのだろう?

―ほんとに僕と英二って血が繋がってるのかな、こんなに違うなんて?

祖母が従姉妹同士、だから血縁さほど近くはない。
それでも4世代前は同じ一人の人間だった、それなのに違い過ぎる相手に言ってやりたい。

“嘘吐いて隠すのは僕を信じていないか、見下している証拠だよ?”

そう言ってやったら何て言うのだろう?
きっと困った貌するのだろう、それでも絶対に赦してやらないんだから?
つい想像しながら椀のなか口に運んで空になって、低い穏やかな声が微笑んだ。

「湯原、あの画像のヤツに怒ってるんだろ?」

ごとん、

肚底なにか落っこちる、脊髄ざらり冷たく奔る。
こんな図星いきなり言われて怖い、けれど呼吸ひとつ椀から顔上げた。

「伊達さん、なぜ僕が怒るんですか?」
「湯原の父親と似てたからだよ、あの画像の男、」

さらり答えて椀をとってくれる。
鍋から温かな湯気ごとよそって、また返してくれると穏やかな瞳で言った。

「似てると思ったから湯原に確かめてほしかったんだ、もし生き別れの兄さんとかいたら嬉しいだろうって思ってさ?おせっかいだけどな、」

そんな理由で見せてくれたの?
意外な想い見つめた真中で優しい笑顔は続けた。

「それで俺なりに可能性を考えて警視庁の山岳会だと思ったんだ、その男が復讐で動いてるなら湯原は止めたいだろうから見せたんだよ、誤解させてごめん、」

この言葉たち、真実ならどんなに嬉しいだろう?

―ほんとに好意なのかな、それとも罠…解からない、

味方、それとも罠、あなたの正体は何?
解らない、だからこそ問いかけた。

「伊達さんは、あの画像の人がなぜ蒔田さんの部屋に行ったと思いますか?」

味方でも罠でも優秀な男であることは変わらない。
その頭脳は信じられる、だから教えてほしい、あの人が何を考えているのか?

英二、あなたを止めるためなら何でも利用する。



(to be continued)

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short scene talk ふたり暮しact.81―Aesculapius act.94

2015-01-22 20:45:00 | short scene talk
雨の午後@縁側
Aesculapius第6章act.21-22幕裏



short scene talk ふたり暮しact.81―Aesculapius act.94

「後藤さん、今日ここに来た一番の理由は希くんですよね?もう起きたみたいですよ、(ふふっ植込みのところ青色見えてるよ光一にしては迂闊だな)」
「もう起きてるって、どうして解かるのかい?(雅樹くん勘が良いとこあるからなあやっぱり宮司さんってそんなもんなんだろうか)」
「もういるからですよ、出ておいで?(希くんも光一と一緒に楽しいんだろな今すごく)」
「…光一、見つかっちゃったよ?(立ち聞きばれちゃったお行儀悪いって想われるよね)」
「…だねっ、出るよ希?(やっぱバレタね雅樹さんさすがだねっ)」
「光一、希くん、かくれんぼで立ち聞きは楽しかった?(笑顔)(雨まだ少し降ってるのに可愛いなアレのごっこなんだろなでも心配だな風邪ひかないか)」
「楽しかったねっ、かくれんぼっていうか忍者ごっこだよ雅樹さん?(無邪気笑顔)(笑ってるけど雅樹さんちっと怒ってもいるかも心配性だから)」
「やっぱり忍者ごっこなんだね、早く家に入っておいで?ふたりシャワーで温まって着替えておいで、風邪ひいたら喘息の発作でるかもしれないからね?(笑顔)(言うこと素直に聴いてほしいな風邪とかホント大変だから気をつけてほしいんだけどな)」
「あの…すみません雅樹先生、僕のせいなんです…(どうしよう笑ってるけど雅樹先生きっと怒ってるよね僕のせいで光一も叱られちゃう)」
「うん?希くんが忍者ごっこしようって言ったの?(そんな発想するなんて意外だな面白いけどって笑いたくなる困るよ今はちゃんと叱らないと)」
「忍者ごっこは俺だね、希は話が気になるねって言っただけだよ?(俺が言いだしっぺだもんねっ)」
「でも話を気にしたの僕だよ?あの、後藤さんもすみません僕すごく気になっちゃって…すみません(お父さんのお友達に失礼なことしちゃったどうしよう)」
「希くん、謝らなくて良いぞ?忍者ごっこしてる希くんなんて俺も楽しいよ、(あの大人しい子が悪戯してくれるなんて嬉しいじゃないかさすが光ちゃんだよ笑)」
「…はい、照真赤(楽しいよって嬉しいけどでも恥ずかしいな僕どうしよう)」
「ほら、希くんも光一も早く着替えておいで?おしゃべりはその後にしようね(笑顔)(希くん良い子だなこの夏休み光一に良い経験になりそうだな)」
「はーい、希いくよ?先にシャワーして良いからねっ(希が風邪ひいたら大変だもんねっ)」


気分転換に会話短篇UPしました、Aesculapius「Dryad21-22」幕裏より車中の会話です、
第82話「声紋3」加筆まだします、明日はAesculapius続きUP予定です。

雑談ぽいやつ昨夜もUPしました、
小説・写真ほか面白かったらバナーorコメントお願いします、続き書こうって励みになるので、

取り急ぎ、



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雑談寓話:或るフィクション&ノンフィクション@御曹司譚319

2015-01-22 01:03:00 | 雑談寓話
From:御曹司クン
Re2:引越したってドコだよこれ?どうみても東京近郊じゃないよな、おまえ転職先って地方かよ?

って返信が来た7月の旅先、
トリアエズ眠いから寝て、翌朝から東北ぐるっとフィールドワークした。

「あんたどっから来たの?」

なんて質問から始まってオバちゃんたちの話を聴いて、
そこの美味しいモン食べて、調べたい事の現場に行ってカメラ使って、
夜は宿で調べて来たことノートにまとめながら晩酌して、ベッドで文庫本を広げて読みながら寝て、
そういう生活はいわゆる非日常で学生時代とちょっと似ていた、

でも来るメールは大学時代とは違う、

From:ハル
本文:写メールありがとう、むっちゃ綺麗なとこにおるんだなって羨ましくなります。
   こっちは都心で撮影だよ、ちょおっとワガママな被写体さんで困るけどマアぼちぼちやね、

Re :オツカレサン、帰ったら呑み一緒してくれる?ちょおっとワガママな被写体さんのことそのとき訊かせてよ?笑

Re2:愚痴っぽくなるかもしれんけど聴いてー、笑

From:花サン
本文:写メすごい綺麗、ありがとう(顔文字笑顔)
   なんか御曹司サンすごい落ちこんでるんだけど何か言ったの?

Re :引越したよって言っただけだよ?笑

From:歯医者
本文:なんか良いトコ行ってるみたいだね、東北だっけ?
   教えてもらった本読んでるとこだけど、送ってくれた写真がタイムリーだったよ。

Re :そのつもりで送ったから、笑

なんてヤリトリは行程中もあって、
こんなメール往還に現実たまに思いだしながら御曹司クンからも着ていた、

From:御曹司クン
本文:ほんと地方に引越したのかよ?っていうか転職先ってそっちじゃなかったよな??

この返信になんて返そうかな?
そんなこと考えながらも正直に返した、

Re :転職先とは違う場所だよ、笑

Re2:旅先だよな??

Re3:笑

Re4:いま俺のこと馬鹿にしたろ?なんだよもーーこの弩Sっ、

なんてカンジの往還は夜にして、
昼間はあちこち廻りながら旅程は終わり、実家に悪戯坊主を迎えに行った、

「夜になると玄関で待ってたのよ?ほんと不憫で可愛かったわー、」

なんて母に言われ、

「猫は人につくものだね、君のこと待ってたよ?」

と父にも言われながら夕飯ごちそうになって悪戯坊主を抱っこして、
新居に連れ帰ると新しい場所を探索している貌は「警戒警報」ってカンジが可愛くて、
それでもお気に入りのセーター抱っこして寛ぎ始めてくれた傍ら、風呂を済ませて寝転んだベッドに悪戯坊主もくっついて、

で、眠った翌日夜は花サンと待ち合わせだった、

「旅は楽しかったみたいだね、スッキリした顔してる、」
「お蔭さまでね、笑」

なんて会話から夕飯@木曜日は始まって、
そして言われた、

「御曹司サン、すごい凹んでるんだけど何したの?」

やっぱそれ訊かれるんだ?笑

第50回 過去記事で参加ブログトーナメント

眠いけど少し書いたんでUPします。
コレや小説ほか楽しんでもらえたらコメント&バナーお願いします、笑

取り急ぎ、



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