あかるく笑って 幸せで
嶺風、浚明 act.2―side story「陽はまた昇る」
周太を連れて駐在所へ入ると、国村が茶を配っている所だった。
入ってきた周太を見て、嬉しそうに秀介が立ちあがった。
「りんどうの、お兄ちゃんだよね」
「…ん、そう、なの?」
隣の首筋が赤くなってくる。
たぶん「りんどうの」と花の名前で呼ばれ、途惑うのだろう。
でも秀介の言う通り、似合うと思うけど。英二は笑った。
「秀介、このひとはね、『周太』っていう名前なんだ」
「しゅうた?…ぼくの名前と似ているね、ぼくは田中秀介っていうの」
周太を見あげて、秀介は微笑んだ。
周太も微笑んで、秀介の前に片膝をついた。
「俺はね、湯原周太です。よろしく秀介」
「うん。よろしくね、周太さん」
名乗られて、嬉しそうに秀介が周太の手をとる。
一緒に座ろうと秀介に促されて、周太も立ちあがった。
そこに奥から岩崎が現われ、微笑んだ。
「お、湯原くん、かな」
「はい、」
すっと周太は姿勢を正し、きれいに礼をした。
「新宿署の湯原です。宮田がいつも、お世話になっています」
「うん、世話しているかな」
言って、可笑しそうに岩崎が笑った。
周太も一緒に笑ってくれる。嬉しいと思いながら、英二は微笑んだ。
「ほんとに、世話になっているんだ。昨日も」
「…ん、」
黒目がちの瞳が、英二を見あげた。
少しだけ岩崎は事情を知っている、その事が周太に伝わったのだろう。
隣は折り目正しく、頭を下げた。
「ご迷惑を、すみませんでした」
「無事で良かったな。今日は遠くから、ようこそ」
温かく微笑んで岩崎は、周太に奥の休憩室を進めてくれる。
頭を下げた周太に、秀介が笑いかけて、2人で奥へ入って行った。
昨日、岩崎はミニパトカーの使用を、国村に許可してくれた。
「宮田の大切な同期が、事件に巻き込まれかけました。でも宮田が間に合って、無事でした」
戻った国村は岩崎に、こんなふうに要点だけを話している。
昨夕メールで英二と国村は連絡しあった、その時に教えてもらった。
国村は言葉や行動が、すっきりとして無駄が無い。
本当は国村は、高卒で警察官になったから先輩になる。けれど同年だからと、タメぐちで気さくに話す。
そして昨日は、軽く笑って、さらりと救けてくれた。この同年の先輩が、英二は好きだった。
国村が英二にも茶を渡してくれる。
「あのさ。コーヒーと茶の淹れ方、湯原くんに教わりなよ」
「あ、周太が淹れたの、飲んだ?」
「吉村先生の所でね。旨かったよ」
笑いながら国村は褒めてくれる。
こういうのは悪い気はしない、けれど自分も飲みたかった。
昨夜も周太はコーヒーを淹れてくれた。
その気持ちが嬉しくて。そんな周太はかわいくて、きれいだった。
そしてさっきは、自分の一番悲しかった事に気付いてくれた。
―ほんとうに酷いことを、俺…ごめんなさい。どうか、許して。そして隣にいさせて
あんな顔で、ああ言われたら。何でも許してしまう。
そう思っていると、国村が唇の端をあげた。
「宮田くん、顔エロくなってる」
「そう?まあ俺、エロいから」
あははと国村が笑った。
けれど、その向こうでは、周太の背中が怒っている。
―ばかみやたいいかげんにしてへんたいもうしらない
多分こんなふうに怒っているなと思いながら、英二は国村に訊いた。
「白妙橋だと、ザイル下降と登攀?」
「うん、3人だしさ、救助者背負って出来るだろ」
そうだなと言って、英二は続けた。
「来週木曜さ、国村さん予定入ってる?」
ああと国村は頷いて、言ってくれた。
「休み交替できるよ。多分いい頃なんじゃない?」
「あ、理由もう解るんだ」
まあねと言って、国村は唇の端をあげた。
「雲取山の電話が来てさ、休みの話だったら。それしかないだろ?」
晴れるといいなと笑って、国村は休憩室へと入って行った。
ほんとうに国村は察しが良い、そしていい奴だ。
こういうのは嬉しい、英二は微笑んだ。
交番表で岩崎と、登山計画書のチェックの続きをする。
一覧表への転記が終わると、英二はパソコンにデータ入力をざっと済ませた。
登山者の年齢・装備・ルート・入山時間を、データ管理する。
どういう条件が遭難事故につながりやすいか、統計を取っていた。
一通り終わって息をついた英二に、湯呑を渡しながら岩崎が微笑んだ。
「訓練、今日はどこでやるんだ」
「白妙橋です。ザイル下降と登攀を、救助者を背負って行います」
「ああ、3人なら調度いいな」
そんなふうに話していると、奥から楽しそうな秀介の声が聞こえて来た。
「じゃあさ、この問題はどうやって考えるの?」
「九九はもう知っているんだよな、じゃあこんな式でどう?」
「あ、なるほどね。周太さんのわかりやすい」
どうやら周太が、秀介の勉強を見ているらしい。
周太は聡明で、教え方も上手い。警察学校時代、英二自身が教わったから、良く知っている。
懐かしいなと思っていたら、国村の声が聞こえた。
「ふうん、確かに解りやすいね。湯原くんて、顔だけじゃなくて頭も良いんだ」
「…あの、そういうの、ちょっと困るから…」
嫌な感じがして、英二はさり気なく奥に目を遣った。
国村が涼しい顔で、にこにこ話している。
「なにが困るんだろ、秀介もそう思うよな」
「うん、こうちゃんの言う通りだよ。周太さん、きれいで頭も良いよ」
「…そう、……」
周太の背中が、困惑しきっていた。
あんなふうに秀介にまで言われて、周太は途惑うだろう。
ああ今、きっと困った顔しているのだろうな。
そう思っている英二の視線に、国村が気がついて、その唇の端があがる。
「湯原くんさ、訓練の後も時間あるだろ?俺とデートしよっか」
「……っ」
国村は冗談を言っている、英二には解る。
底抜けに明るい国村は、何でも可笑しがる所がある。
けれど周太には、そんな冗談は解らない。
純粋なままの周太では、国村の悪戯心には対応できず困っている。
それをまた国村は、可愛くて苛めているのだろう。
その気持ちは解るけれど、その権利は自分だけ。英二は口を開いた。
「岩崎さん。訓練の後は周太、ここに居させても構わないですか?」
「ああ、別に構わないよ。新宿署とは違うし、勉強になるだろう」
岩崎も、国村の性格を良く知っている。
英二の視線に気がついて、岩崎も奥の部屋を振返った。
「国村、あんまり若者をな、苛めるんじゃないよ」
「あれ、俺、苛めています?」
唇の端をあげたまま、細い目は可笑しそうに笑っていた。
国村は察しが良くて、才能あるクライマーで、本当にいい奴だ。
けれどやっぱり油断がならない。そして、そういう国村が英二は好きだ。
それでも、英二は国村に言った。
「国村さん、勝手に苛めないでよ。それ、俺だけの権利だから」
「……っみ、」
周太の首筋が赤くなった。
けれど黒目がちの瞳は、微笑んでくれている。
でも多分、あとで少し、怒られるかもしれない。
白妙橋へはミニパトカーで行った。
国村は私服の上から「警視庁」のウィンドブレーカーを着て運転した。
この男は大胆というか自由人だなと、英二はいつも可笑しい。
そんな英二を横目に、国村はいつも涼しい顔をしている。
後部座席で周太は、国村と内部構造とを、物珍しげに見ていた。
作業着を着て袖を捲った国村は、軍手で登攀してザイルを張った。
色白痩身の国村は、文学青年みたいな風貌でも、体力と技術を兼備している。
手際良く準備を済ませ、ザイル下降を始めた。息切れの気配は、国村には全くない。
「ほんと、すごいんだな」
身軽い国村の動きに、黒目がちの瞳は大きくなっている。
見上げながら周太は、国村に借りたグローブをはめた。
英二のグローブでは周太には大きすぎ、国村が貸してくれている。
さっさと国村は戻ると、周太に笑いかけた。
「天然岩場でのリードクライミングは、初めて?」
「あ、小さい頃に、ほんの少しだけ」
「じゃあ、なんとなく要領を覚えているかもね」
白妙橋はリードクライミングの一つ、ルートクライミングのエリアとして有名だった。
ルートクライミングは、開拓者によりボルトが打ち込まれているルートを対象とする。
白妙橋はコンパクトだが、手頃なグレードの揃った良い岩場と言われている。
「クリップ。ヌンチャクをボルトに掛け、ロープをセットすることね。
で、レスト。片腕を放して休ませる。そういう駆け引きをさ、少しずつ飲みこんでいけるから」
国村の説明を受けながら、周太の仕度を英二は整えて行った。
英二は周太に、ウェストハーネスに加えてチェストハーネスも装着させた。
それからヘルメットの顎を留めて、準備が整う。
「メインロープの過重は、ウエストハーネス側に掛かるように重点をおくんだ。
チェストは墜落時に頭からの「反り返り止め」だけ、あくまでサポートだから」
「ん、わかった」
白妙橋の岩場は、週末の今日は一般クライマーも多い。
けれど午後14時の今は、帰路に着く仕度を始めていた。
空いてくれるのは、ありがたい。
英二の勤務合間だから、短時間集中で登攀したかった。
国村は周太に付添いながら、登攀してくれる。
本当は英二が教えてあげたいけれど、国村の方が技術も経験もずっと上だった。
悔しいけれど今は任せる事が、周太の安全になる。
早く国村の技術を盗めたらいい。思いながら英二は、頂上に立った。
やはり周太は、思ったよりハイペースで登りきった。
聡明な周太らしく、見て要領を思いだしたのだろう。
警察学校でも周太は、知力体力とも抜群の首席だった。
「川がきれいだな」
碧の水が砕ける流れに、周太は微笑んだ。
その横顔が、きれいで明るくて、英二は見惚れた。
「周太、今、うれしい?」
「ん、うれしい」
楽しそうに英二に笑いかけてくれる。
連れてきて良かった。きれいに英二は笑った。
「仲良しのとこさ、邪魔してごめんね」
笑って国村が声をかけてくれた。
ザイルを背負い紐に組んで、英二にはいと渡す。
受取って英二は、周太の足許に片膝をついた。
「周太、足通して」
「え、」
黒目がちの瞳が大きくなる。
見上げて英二は微笑んだ。
「周太をな、背負って下降させて」
見下ろす周太の顔が、一瞬泣きそうに見えた。
きっと思いだすだろう、英二もそう思っている。
あの警察学校での山岳訓練、周太を初めて背負って崖を登った。
山岳経験それ自体が、英二には初めてだった。
それでも周太を、どうしても自分が助けたくて志願した。
あの時がきっと、今ここに立つスタートだった。
周太もきっと思いだしている。
英二は微笑んだ。
「もう俺、ちゃんと周太を背負えるから。安心して背負われてよ」
「…ん、背負って」
きれいに笑って、周太はザイルに足を入れてくれた。
国村が少しサポートして、周太を背負って英二は立ちあがった。
「じゃ、今から下降します」
「はい、了解。重心に気をつけてな。湯原くん、体が反らないよう注意して」
ザイルを掴んで、英二は岸壁へと降りはじめた。
背中の温もりが嬉しい。すこしだけ早い鼓動が伝わってくる。
肩のザイルは、もう食い込んで痛いことはない。
反動を使いながら、器用に英二は降りたった。
崖下から見上げると国村が、次は登攀とサインを送ってくれる。
英二は背中越しに、周太に笑いかけた。
「このままさ、今度は登っていい?」
「ん、わかった」
素直に頷いてくれる。
微笑んでくれる瞳が、明るくて嬉しい。
嬉しくて、きれいに英二は笑った。
「おっけ、じゃ行くよ」
あの山岳訓練の時と、同じように登攀をする。
けれど自分の技術も体力も、あの頃とは格段に違う。
あの時は、周太の体重すら重たかった。けれど今は、軽々と背負える。
岩と手元を見つめたまま、英二は背中へ声をかけた。
「周太、怖くない?」
「ん、安心している」
やわらかい声が、英二の頬すぐから囁いた。
いま背負う、この隣は随分と変わった。
あの滑落事故の時は、遠慮がちで頑なで、垣間見える孤独が痛々しかった。
その背負う悲しみを、心を少しでも背負わせて欲しい。食い込むザイルに、英二はそう思った。
そして、今はもう背負っている。
この胸元に隠した合鍵には、必ず帰る約束が籠っている。
この隣のため、昨日、英二は殺人の覚悟すらした。
だから昨日、この隣は純粋な優しさに、英二を置去りに離れようとした。
何があっても離れたくない、そんな自分には、それ以上残酷なことは無い。
昨夜から時間がたつほど、痛くて悲しくて、辛くて。
けれどさっき、この隣は気づいて、許してと願ってくれた。
「はい、おつかれさま」
登り終えて、国村が労ってくれる。
けれどすぐ唇の端をあげて、細い目が笑った。
「はい、次は俺が湯原くん背負うから」
「…そう、なの?」
「だって訓練だからね、救助者役がんばって」
飄々と国村は笑っている。
けれどちょっと待ってほしい、英二は国村の顔を覗きこんだ。
「いつも通り、俺を背負えばいいだろ」
けれど国村は、当然だと言う顔で返事をした。
「もう時間だろ。だからさ、宮田くんはザイルを外して降りてよ」
国村の言う通り、それが効率的だった。
けれど、他の誰かが周太を背負うのは、嫌だ。
そんな事を思っていたら、国村が唇の端をあげた。
「宮田くん、顔、エロくなってるよ」
「え、今、そうだった俺?」
自分で意外で、英二は思わず聴き直した。
けれど、真っ赤にした顔で、周太が口を開いた。
「…国村さん、俺、背負われますから」
「うん、協力ありがとうね」
さっさと背負うと、じゃあ後でと国村は下降してしまった。
ハイスピードだけれど、確実に下降する姿を見送って、英二はため息をついた。
たぶん国村は、周太を恥ずかしがらせる為に言った。
そうすれば、英二に背負われる事が恥ずかしくて、国村に背負われるから。
またああして国村は、可笑しがっている。
そしてたぶん、国村の背中で周太は、背負われた事を後悔しただろう。
きっと逃げられない状況で、存分に苛めているに違いない。
国村はいい奴だ。けれど悪戯心が起き上がると、やっかいな知能犯になる。
それでも大して厭味にならないのは、底抜けの明るさの為だろう。
あいつほんと自由人だな、そんな国村は楽しくて英二は好きだった。
けれど、あの隣には、あまりちょっかい出して、欲しくない。
御岳駐在所まで戻って、周太の淹れた茶を3人で飲んだ。
それから国村は、軽トラックの運転席から笑いかけた。
「じゃ、またな。来週も楽しんでね、湯原くん」
からっと笑って、国村は軽トラで帰って行った。
ほっと隣がため息をついて、英二を見あげた。
「なんか俺、国村さんの玩具にされた気がする…」
困ったような顔が可愛くて、言っている事が可笑しくて、英二は困った。
今ここで笑ったらきっと、機嫌を損ねるだろう。
英二は微笑んで、周太の顔を覗きこんだ。
「周太は、嫌だった?」
「すごく困ったけど、…嫌いな人ではないな」
それからと目だけで訊いて、英二は微笑んで答えを待つ。
少し首かしげて、それから周太は笑った。
「…ん、良いひとだな、面白いよね」
「ああ、良い奴だよ」
英二も笑った。
けれど次回会わせる時は、何か対処を考えようかな。
そんな事を思いながら、駐在所へと周太と戻った。
「お帰り、楽しかったかい」
笑って岩崎が迎えてくれる。
はいと微笑んで答えながら、周太は給湯室に立った。
「宮田、ちょっと来てくれる」
呼ばれて英二は隣に立って、黒目がちの瞳を覗きこんだ。
見上げて、周太は折り目正しく言った。
「今から茶を淹れます、きちんと見ていて下さい」
「…なに、周太どうしたんだ?」
周太の言動が不思議で、英二は訊いてみた。
けれど周太は、生真面目な顔のままで、英二を見あげている。
「今日、いろんな人から俺、言われたんだ。だから茶の淹れ方、覚えて」
なるほどと英二は納得した。
確かに自分が淹れる茶は、まずい。
英二は、台所の事はほとんど知らない。
作れるのは、クラブハウスサンドウィッチと、握飯だけだった。
好物で弁当にもなるのと、よく姉が作る様子を見ていたのとで、これだけは覚えた。
旨い茶が淹れられるようになるのは、自分にも周囲にも便利だろう。
けれど覚えるなら、条件がある。黒目がちの瞳を覗きこんで、英二は微笑んだ。
「じゃあさ、約束してくれる?」
「やくそく?」
今度は周太が、不思議そうな顔になる。
そうだよと頷いて、英二は言った。
「俺にはさ、一生ずっと周太が淹れてくれること。それなら覚える」
「…っなにそんなきゅうに」
一生ずっと。
プロポーズみたいな言葉だなと、解って言ってみた。
大きくなった黒目がちの瞳が、かわいくて嬉しくて、きれいに英二は笑った。
「周太の茶もコーヒーも俺、いちばん好きなんだ。だから我儘を言わせてよ」
「…わがまま?」
周太は英二に「わがまま」と言われると弱い。
きっと頷いてくれるだろう。
そう見つめる視線の真中で、周太は素直にうなずいた。
「わかった…約束する」
頷いて見上げた笑顔が、きれいで可愛かった。
こういうのは幸せだ、嬉しくて英二は微笑んだ。
「お、旨い」
ひとくち啜って、岩崎の顔が綻んだ。
基本的に、英二の能力は要領が良い。
だから、正確なお手本を見れば、正確にこなす事が出来る。
周太は茶の淹れ方まで、正確だったのだろう。
「喜んでいただけて、良かったです」
微笑んで返事しながら、英二自身は周太が淹れてくれた茶を飲んだ。
周太はさっそく、約束を守ってくれた。それが英二には嬉しかった。
3人で茶を啜りながら、英二は口を開いた。
「岩崎さん、来週の木曜日ですが、国村さんとシフト交換させて下さい」
「うん。二人で決めているなら構わないよ。シフト表、直しておいてくれ」
シフト表を直す英二の隣から、周太が見上げた。
「もしかして、もう、予定決めてくれた?」
「うん、そうだけど?」
当然だろと微笑んで、英二は続けた。
「山荘の予約も取れたからさ、岩崎さんに言ったんだ」
「…いつのまに?」
「つい、さっきだよ」
さっき訓練中、国村が周太を背負って下降している時だった。
二人の様子とザイルの具合を目線で追いながら、さっさと携帯で予約電話を済ませた。
「ほんとに、行けるんだな」
黒目がちの瞳が、嬉しそうに微笑んでくれる。
こういうのは嬉しい。
昨日もし15分遅れていたら、この約束も果たせなかった。
こんなふうに今、話せて見つめられて、幸せだ。
嬉しく幸せで、きれいに英二は笑った。
「本当に連れて行くよ、約束だろ、周太」
自分達は警察官、危険の中で生きている。
明日があるか解らない、だから本当は約束なんてできない。
そして山の警察官として生きる自分は、より危険が高くなる。
それでも自分は、こうして約束を果たしていく。
こういう約束をたくさん出来たらいい。
そんな約束で幸せに浚って、この隣の笑顔を見つめていきたい。
そしてずっと一緒に、寄り添って生きていけたらいい。
だからいつも思う、この隣の約束の為に。俺は、死なない警察官になる。
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