萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第67話 陽照act.6-side story「陽はまた昇る」

2013-08-23 21:24:47 | 陽はまた昇るside story
望、闇冥の先に 



第67話 陽照act.6-side story「陽はまた昇る」

まだ蛍光灯の照らす廊下、擦違う先輩ごと笑顔で会釈する。
ときおり話しかけられながら歩いてゆく手には一冊の厚みが何か温かい。

『これを湯原くんに渡して下さい、私からと言わなくても良いから…何より湯原くんには御守になる本です』

吉村医師から預ってきた英文綴りのハンドブックは、銃創処置の実例が多く記される。
本当は異動すぐ渡すつもりだった、けれどそれでは周太が奥多摩に行った目的を暴くようで間を置いた。
踏みこみ過ぎてはいけない領域は周太にもある、そんな尊重に一週間を預かった本を自分も読み、現実を見つめた。

―この本に書いてあった現実に周太は立つんだ、もうじき…もう、明後日かもしれない、

廊下を歩く自分の靴音に、一歩一刻の時限は近づいてゆく。
そんな瞬間が本当は怖い、出来るなら今すぐ攫って遠くへ逃げたいと願っている。
それでも同じ男だからこそ出来る理解と想いに受けとめて支えるプライドと信頼が自分も欲しい。

本気で想っているから黙っている、それでも今夜、周太は話してくれるだろうか?

―もし明後日なら今夜が最後かもしれない、でも嫌だ、

もう明後日に終わりは来る?

その覚悟だけはしなくてはいけない、それくらい解っている。
自分も警察官なら一秒後に危険へ駈けるかもしれない、けれど自分事なら恐怖の感覚は今もう鈍い。
山岳救助の最前線、そんな青梅署の生活は救助要請が無かった月など一度もなくて、召集は日常だった。
だから緊張感はあっても「怖い」は少ない、それなのに周太のことは怖くて座りきれない覚悟が悶えている。

それでも周太はもう、覚悟を決めている。

『銃器の第1小隊長サンは声が昏かったね、普通は解んないだろうケド意に反した事をヤらされた鬱屈があるよ』

七機に異動して間もなく、光一に教えられた周太の上司にあった異変。
あの言葉が今をカウントさせて明後日だと告げてくる、この週明けに瞬間が訪れる。
そんな予測は毎日どこかざわめいて跫に鳴ってゆく、そう想うほどに自分は本音は、怖い。

「…ダメだ、」

ぽつん、独り言こぼれて廊下に脚が止まる。
あの角を曲がれば周太と光一の部屋がある場所へ着く、けれど心が何も定まらない。
もう止められない時間に自分たちはいる、それなのに進めない覚悟に英二は踵を返した。

かつん、かつん、かつ、かつ…

速まらす足音は自分の靴音、そのビートアップに鼓動が呼応する。
背を向けてしまった扉が遠ざかる、それでも現実は呼吸するごと近づいて攫いこむ。
そう解っているからこそ迫上がってしまう孤独感と喪失の予兆に突き飛ばされて、英二は階段を駈け上がった。

「…っ、」

呼吸ごと呑みこんだ息に、瞳の熱くなるまま心泣きだしている。
もう幾度も重ねてきた覚悟と決断、それなのに抱えこんでしまう涙が悔しい。
そんな想いに非常灯の緑を登って把手を掴み、開錠した扉から夜が英二を抱きとめた。

「…昏い、」

声と見あげた空は、自室の窓と同じ闇夜に月は無い。
あわく墨の滲ませた雲も融けてしまう空、その下は隊舎のライトだけが無機質に光る。
同じように灯り無くても奥多摩はこんなに昏くない、そんな想いと歩く屋上でも風は吹いてゆく。
ゆるやかに濡れ髪を梳いてゆく風はTシャツ透かして肌ふれる、ほっと涼しさに微笑んで鉄柵に腕を組んだ。

「奥多摩は今夜、晴れかな…」

ぽつり声こぼれた想いは、きっと郷愁。
この想い見あげる西北の空で自分は「山」に生きられた。
山の世界は時に冷厳で、けれど深い懐へ抱かれる安らぎは訓練や任務の時すら温かい。
そういう空気が心地よかった、そして自分がどれだけ慰められていたのか今、この人口壁の要塞で思い知らされる。

―山があったから俺、周太のことも強く居られたんだな、

山があったから、その夢と悦楽と責任が自分の支えだった。
こんなにも自分に「山」は大きくなっている、そんな実感が燈火ひとつ心に灯す。
もしも唯ひとつ、自分が「誇り」と呼べるものを抱いているのなら、それは「山」に懸けたのかもしれない。

『立派な男なら自分の意志を貫くことが本望だ』

夏富士の時間、最高の山ヤの警察官が贈ってくれた言葉が今すこし解かる。
あの言葉は周太の決意を護るためのアドバイスだった、けれど今の自分に大きな杖になる。

「俺の意志は山にある、よな、」

自分の言葉でなぞらす杖は、しっくり背骨に徹ってゆく。
そんな感覚に気づかされる、きっと周太も同じなのかもしれない。

―お父さんとお祖父さんのことが背骨なんだ、周太には、

大学で警察で、二人の軌跡を辿ろうとすること。

それは周太にとって少ないヒントで始まった謎解き、けれど辿り着いてゆく。
その時間のなか樹木医の夢と再会した周太は今、こんな瀬戸際にも微笑んでいる。
過去と現実に向きあいたい、その意志ひとつで周太は記憶喪失も病気も超えてゆく。

“Je te donne la recherche” 探し物を君に贈る

本当は泣き虫な周太、きっと独り何度も泣いてきた。
それでも「探し物」を真直ぐ見つめ辿り着く姿は晉のメッセージに叶う。
そんな祖父と父と孫の一冊に繋がってゆく意志に、記憶の詩が闇夜に映る。

Who have sought more than is in rain or dew
Or in the sun and moon, or on the earth,
Or sighs amid the wandering, starry mirth,
Or comes in laughter from the sea’s sad lips,
And wage God‘s battles in the long grey ships.
The sad, the lonely, the insatiable,
To these Old Night shall all her mystery tell;

 愁雨や涙の雫より多くを探し求める君よ、
 また太陽や月に、大地の上に、
 また陽気な星煌めく彷徨に吐息あふれ、
 また海の哀しき唇の波間から高らかな笑いで入港し、
 そして遥かなる混沌の船に乗り神の戦を闘うがいい。
 悲哀、孤愁、渇望、
 これらの者へ、盤古の夜はその謎すべてを解くだろう。

“The Rose of Battle”

闘いの薔薇、そんな意味の題名を英国の言葉は謳う。
きっと馨もこの詩を読んだろう、息子にも読み聴かせたかもしれない。
あの庭のベンチに座り詩を聴かす、その幸せな時間に馨は何を祈っていたのだろう?

「…そのために俺が今、出来ることは、」

そっと言葉に出して見つめる手に一冊の本が闇に浮ぶ。
この一冊に籠めてくれた医師の願いは、他にも願われる祈りかもしれない。
そんな想い肚に静まってゆくのを見つめながら微笑んで、英二は屋上の扉へ踵を返した。






【引用詩歌:William Butler Yeats「The Rose of Battle」】

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青×向日葵@告知2件と休憩合間の気晴らしに

2013-08-22 15:43:35 | お知らせ他


こんにちは、残暑の午後ですけど元気ですか?笑

9月3日で連載スタートから丁度2年なんですけど、何かリクエストってありますかね?
今までの登場人物で短編読みたいとか、全く違う設定でコンナの読んでみたいとか、文学閑話でコレやってとか。
コメントorメール(tomoei420@mail.goo.ne.jp)などでメッセージ気軽に声かけてもらえたら、ちょっと書きます。
今までのでコレ面白かったよ、なんてご意見ご感想なども教えてもらえたら感謝です、笑

そんなわけで直2年なんですけど、毎日1,000以上のPV+400前後のIPに閲覧頂いています。
読んでくれてる方って何を想って読むのかなあ、とか考えながら毎日コッチも書いてきたワケですが。
最初の頃は不慣れなPCイラストと初心者丸出しな文章で、今見ると写真貼り直し+加筆校正したくなる、笑
そういうのも毎日なにかしら書いてる醍醐味なのかな、とも思いますが単に書きたくって続けています。
そういう自分の書いたものが、読んでくれた方に何かしらプラス要素があるんなら嬉しいですけど、笑




昨夜UPした短編2つとも加筆が終わっています。
書いといた草稿を貼りつけたので校正も少しで済むんじゃないかなと。
で、ご注意ですが「後朝の花―Introduction act.5,Aesculapius」はR18になっています。
ので真昼間に読むと恥ずかしいかもしれません、貼りつけたコッチも休憩合間とは言えナンカ恥ずかしかったしね、笑
昼間にR18読んじゃって恥ずかしかったと感想を頂いたので念のため告知しました、敢えて読まれる方は自己責任でどうぞ?笑

描いていて英二と雅樹は似ていて全く違う個性のキャラクターなんですよね。
ストイックでエロいってトコは似てますけど、ある意味で雅樹の方がR18指定が強固です。
この二人の主人公についてソノウチ設定補記を書こうかなって思ってますが、ちょっと驚かれるかもしれません。
ソコントコは[目次]をよく読むとネタ晴らしが見つかるんですけど、もうお気づきの方っていらっしゃいますか?

夜は「side story」第68話か新連載の第1話+短編1本をUPする予定です。
新連載は「天津風」と同じく不定期連載になります、っていうのは季節感もあるからね、笑
ここんとこ「天津風」は休憩中ですがも少し秋めいたら再開予定です、秋冬シーンを描きたいなって思ってるので。

とりあえず取り急ぎ、









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朱×浅葱、黄昏@時限付

2013-08-21 19:43:51 | お知らせ他


こんばんわ、蒸し暑かった神奈川です。
帰り道の空がコンナ↑感じで綺麗でした、が、風はなまぬるかった、笑
都内では豪雨があったとのことですが、コッチでは夕方に遠雷がありました。

さっき第67話「陽照5」の加筆校正が終わりました、英二@夕暮れ時のワンシーンです。
このあと短編を2つUPしようかなって思ってます。

取り急ぎ、


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第67話 陽照act.5-side story「陽はまた昇る」

2013-08-21 00:41:04 | 陽はまた昇るside story
夜の涯、晨は 



第67話 陽照act.5-side story「陽はまた昇る」

架け慣れないコールする番号に、なんとなく緊張してしまう。
壁凭れかかり見あげる窓は月が無い、ただ雲の形が薄墨色に空へ流れゆく。
あんなふうに見えるのは星明りではなく街のネオンだろう、それが寂しい想いに電話が繋がった。

「こんばんは、宮田くん?」
「吉村先生、お久しぶりです。いつもメールばかりですみません、」

嬉しくて笑いかけた電話越し、穏やかな空気が伝わらす。
いつもどおり寛がせてくれる空気は優しい、その安堵の向こう吉村は笑ってくれた。

「元気そうだけど、少し考えこんでいる感じですね?後藤さんと湯原くんのことかな、」

ほら、いつものようお見通しだ?
何も言わなくても解ってくれる、その理解が嬉しくて英二は笑った。

「はい、先生に隠し事は難しいですね?」
「ははっ、そんなに全て解かってはいませんよ、私も、」

穏やかに深い声が可笑しそうに笑ってくれる。
この声に肩の力ほどかれてゆく、幾らか楽になった心へ吉村医師は話してくれた。

「後藤さんは明後日、予定通りに検査入院します。今日までの経過は悪くないので、検査の結果が良好ならそのまま手術します、」

後藤が手術する。

この現実に鼓動ずしんと肚へ響く。
きっと大丈夫、そう信じる願いに呼吸ひとつ英二は微笑んだ。

「後藤さん、手術されることに決めたんですね?」
「はい、私の腕に懸けて下さるそうです、雅人が助手を務めてくれます、」

穏やかな声の告げる名前に、もう一人の患者が想い出される。
もう帰っているだろう俤を想いながら英二は電話向うへ頭を下げた。

「吉村先生、どうか後藤さんのことお願い致します。雅人先生にも、」

こんなふう電話越しに頭を下げた事なんて、無かった。
けれど自然と頭が下がってしまう、こんな今の自分がなんだか誇らしくて温かい。
誰かのために礼を尽くそうと出来る、そう想える相手がいてくれる幸せに微笑んだ耳元に篤実な声が笑ってくれた。

「宮田くん、頭を上げて下さい?私の方こそ礼を言いたいんだから、」

頭を下げたことを解かってしまう、そんな医師にまた信頼が篤くなる。
こういう男と出会えた幸運に微笑んで頭上げて、窓の北西を見あげながら尋ねた。

「先生、どうして俺に礼を言ってくれるんですか?」
「後藤さんが手術を決心してくれたからだよ、」

穏やかな声が笑ってくれる言葉に、夏富士の黄昏が映りこむ。
最高峰で見つめた煙草の蒼い煙と黄金の雲、あのとき最高の山ヤの警察官は何を想ったろう?
そんな思案に微笑んだ電話の向こう、山と生きている医師は笑いかけてくれた。

「宮田くんと夏富士に登った所為で欲が出た、だから手術してクライミングを続けられる可能性に懸けたくなった、そう仰ってね。
もっと自分の脚で宮田くんと登ってみたくなったそうです、まだ一ノ倉沢も滝谷も一緒に登っていないから未練が死にきれんぞってね、」

話してくれる言葉に懐かしい口調と笑顔が浮んで、瞳の奥に込みあげる。
そんなふうに自分を想ってくれる人が居る、その温もりに幸せなまま笑った。

「俺も後藤さんと一ノ倉沢とか登りたいです、アルパインのテクニックをもっと教えてほしいって欲が俺にもありますから、」
「そうだね、後藤さんの岩登りは最高テクニックだから教わらないと勿体ないよ?雅樹も色々と教わっていたよ、越沢や白妙橋でね、」

楽しげなトーンで言ってくれる言葉は懐旧にも温かい。
その言葉に籠る吉村の祈り二つ見つめながら訊いてみた。

「先生、周太のことを雅人先生は何か仰っていましたか?」
「いいえ、守秘義務を厳守したままです、」

明解な答え、けれど微かな溜息の気配が漂う。
吉村医師も心配してくれている、その心遣いに英二は微笑んだ。

「周太に気づかれないように診てるんですけど、この一週間は朝晩とも熱や目の充血はありません。夜も呼吸は正常でよく眠れています。
雅人先生に頂いた薬も几帳面に飲んでいるようです、薬の包みとかはゴミ箱に捨てていませんが、よくテルモスに水を汲んでいるので、」

朝と夜と、さり気なく額を重ねて熱を診てきた。
会話する時は瞳の充血や瞳孔の変化に注意して、眠りの深さと水汲む頻度に気をつける。
そんなふう見守ることしか今は出来ない、それでも精一杯に護りたい願いに医師は笑ってくれた。

「包みも捨てないで水もペットボトルを買わないなんて、湯原くんらしい慎重さですね。それを確認している宮田くんも流石ですけど、」
「周太らしいですよね、だから俺も気づかれないように慎重にチェックしています、」

あのひとらしい、そう笑いあえる幸せが温かい。
病状の心配をするなど哀しい、けれど生きていてくれるなら笑って話せる。
これがいつか全快したと笑いたい、そう願う向こう側で篤実な医師は微笑んだ。

「宮田くんに医学を教えて良かった、君のおかげで私の友人を2人も援けてもらっています、ありがとう、」

友人を二人、その言葉に感謝が瞳の奥で温まる。
この言葉を周太に伝えたら喜ぶだろう、けれど出来ない切なさ飲みこんで英二は笑った。

「こちらこそです、先生。先生が教えてくれたから俺は大切にしたい人を少しでも援けられます、本当にありがとうございます、」
「君は医学に向いてるって私は思うよ、この間の学生さんも宮田くんの対応が良かったから回復が早くてね。だから春が楽しみです、」

穏やかな声が言ってくれる言葉に、春からの責務が心現れる。
その重みに少しの緊張と誇らしさで英二は綺麗に笑った。

「はい、必ず救命救急士になります。これから願書は出すところですが、」
「忙しくなるだろうけど、体は充分に気をつけて下さいね?君なら体力は充分だろうけど、」

穏やかな声が配慮と笑ってくれる、そこにある想いが切ないまま優しい。
いまも医師の心に生きている俤を想いながら約束と笑いかけた。

「先生、今度そちらに第2小隊の訓練で伺うんですが、来月は個人的に帰る予定でいます、ゲレンデの訓練と剣道会の稽古も出たいので、」

久しぶりに会える、そう想っている自分の懐かしさが温かい。
こんなふうに想える場所と相手がいる歓びに尊敬する人は笑ってくれた。

「剣道会の稽古も兼ねるなら一泊するでしょう?ぜひ家に泊まって下さい、訓練は日帰りですか?」
「ありがとうございます、訓練はビバークもするので山中一泊です、」

予定を話しながら温かな心遣いが幸せになる。
この医師が受けとめてくれるから自分は今日まで頑張れた、だから今もここに居られる。
こうした感謝の相手もう一人を想いながら英二はもう一度頭を下げた。

「先生、後藤さんのこと、どうかよろしくお願いします、」
「はい、」

短い返事、けれど明るい希望が温かい。
その温もりに安堵と頭を上げた想いへと、穏やかな声は言ってくれた。

「大丈夫、後藤さんは肺気腫にやられるようなヤワな人じゃないから。湯原くんも強い人だ、心が強い人は大丈夫、」

大丈夫、そう言ってくれる声に瞳から熱ひとつ雫になる。
ゆるやかに頬伝う濡れた温もりに英二は綺麗に笑った。

「はい、二人とも大丈夫ですね、」
「そうだよ、大丈夫だ、」

大丈夫、そう互いに言い交す想いが祈りに綯われる。
大切なひとの無事を共に祈ってくれる人が居る、その優しい信頼に笑って英二は電話を切った。
ポケットに携帯電話を入れながら見あげる窓は月も星も無い、さっきと同じに雲だけが薄墨ひくよう駈けてゆく。

それでも1つ、瞬く光を見つけて英二はゆっくりカーテン引きながら夜空に笑った。





(to be continued)

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進捗&アウトドア×降雨の心配

2013-08-20 19:51:54 | お知らせ他


こんばんわ、晴天だった神奈川です。
が、夕暮れの空がちょっと嵐の前っぽくて気になります。
何ともないと良いんですけどね、いま川遊びシーズンなんで増水が怖いです。

コッチで降っていなくても上流の山で夕立など豪雨があれば、あっという間に増水します。
そういうの知らずに川縁でテント張ったりすると、マジで逃げる間もなく押し流されるんですよね。
何年か前に神奈川郊外で起きた水難事故は被害者グループが避難勧告を無視したことが原因でした。
毎年来ているから大丈夫、そう町役場職員に言い張った涯に子供まで溺死する惨事になっています。
ホント自然災害は舐めたら命を落とします、どうか慎重に楽しんで下さいね?

第67話「陽照4」加筆校正が今終わりました、当初の倍以上です。
久しぶりに宮田がちょっと転がされています、笑
今夜は第67話の続きと短篇をUP予定しています、

取り急ぎ、
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燈花の百合―万葉集×古事記

2013-08-20 09:19:26 | 文学閑話散文系
花燈火、ゆり戻す戀に



燈花の百合―万葉集×古事記

燈火の 光に見ゆる紗由理花 由利も逢はむと 想ひ初めてき  内蔵縄麻呂
ともしびの ひかりにみゆる さゆりばな ゆりもあはむと おもひそめてき

燈火の光に見える薄紅いろ清らかな百合の花 
薄暮ほの白く揺れて明るませ、また揺らぎ夕風の戻るように 
君の許に戻りたいと想い初めてる、清らかに優しい百合のような君に今逢いたい 

『万葉集』第十八巻に掲載の歌です。
宴席で読まれたちょっと政治的な色もある歌ですが、相聞歌に訳しました。
宴の土産として百合の花で作った髪飾りが贈られた歌になります、が、百合の花にある恋愛伝説から恋歌解釈です。

歌中「由理」は百合のことで、万葉仮名では「由理」「由利」と表記されていました。
現在の「百合」は中国から伝来した書き方で、2~3世紀頃の中国の古書に記載されています。
いずれも読み方は「ゆり」ですが、語源の説は幾つかあってドレと正解特定はされていません。
その一説に風揺らぐ花の様子「揺り」があるんですけど、上記の歌そのまんまです。
また、球根が寄り重なり集まっている形「寄り」が転訛したとも言われています。

百合の花物語には伊須気余理比売命の伝説があります。
読みは「いすきよりひめのみこと」この「余理」が転訛して「ゆり」になったという語源説ですが「寄り」にも通じます。
彼女が百合の花を摘んでいる姿に神武天皇が恋して妻とした物語が『古事記』に記載され、これが日本最古の百合に関する記述です。
この花物語は奈良の三輪山麓が舞台とされており、当時の植物分布などから彼女が摘んだ百合は笹百合だと考えられます。

笹百合は中部地方より西から四国や九州に分布する日本固有種で、芳香があり葉や茎が笹に似ているので「笹百合」の名が付きました。
花色はごく淡い薄紅色でアルビノの純白もあります、この変成種として新潟や東北に自生する姫早百合があり淡紅色で芳香性の花です。
姫早百合は別名に乙女百合・春百合・小町百合・会津百合など異称も多く、淡桃色と香が親しまれ園芸種として乱獲されました。
またダム建設などで植生地が絶滅させられた為に絶滅危惧IB類ENに指定され、そのあと保護活動で少し持ち直しています。
現在は2008年の新レッドリストでは準絶滅危惧NTにランクされていますが、希少種であることは今も変わりません。
それは笹百合も同じで園芸目的の乱獲が続けられるために分布を狭めていく現状があります。

で、写真の花は鉄砲百合だと思うんですけど、台湾固有種の帰化植物である高砂百合との交雑がちょっと入っている感じです。
鉄砲百合は南西諸島や九州南部が原産で本州以東は園芸用として移入され野生化して根付きました、写真も野生化した花です。
高砂百合は白ベースに淡紫色の筋が特徴で、根元がつながっている細めの花被片は6枚で外側は橙褐色になります。

歌は冒頭「燈火の光」とあることから百合の花色が明るい色だと解かります。
ここでは薄暮ゆれる燈火のようなイメージ+当時スタンダードだった笹百合の花色で訳してみました。
薄紅あわい花色は優しい柔肌と頬なめらかな貌をを想わせて、伝説の花物語にもなぞらえる恋愛の相聞歌です。




昨夜UP「七彩の光 aurora」校正をあと少しします。
第67話「陽照4」も加筆は終わりました、校正ちょっとする予定です。
今夜は第67話の続きと短篇1つ掲載しようかなと思っています。
寝落ちした昨夜は短編2本の予定が1本でしたが、笑

取り急ぎ、




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第67話 陽照act.4-side story「陽はまた昇る」

2013-08-19 20:54:13 | 陽はまた昇るside story
黄昏、君待つ風 



第67話 陽照act.4-side story「陽はまた昇る」

夕食の箸を動かしながら時おりペンを執る。
いつもの手帳にメモ取りながら打合せは進む、この時間は一週間前と違う。
たった一週間、けれど食事する相手も席も、会話内容も違っていて時間の経過が大きい。

「宮田、このコースで注意点を列挙してくれる?」
「はい、ここは作業道が入り組んでいます、この辺りは樹林の雰囲気も似ているので錯覚しやすいです、」

上司の求めに応えて箸を置き、登山図の要所を示していく。
その指先を黒木たち3人の視線が追う、どれも前と違う責務を感じながら英二は言葉を続けた。

「今期ツキノワグマの目撃があったのは、この5地点になります。どれも食料になる草木が多い場所ですが、9月下旬ならこの辺りです。
あと、こちらは鹿の多いポイントになります、害獣駆除の流れ弾に気をつけて下さい。先月に1件、道迷いのハイカーが被弾しています、」

説明していくルートは、この一年で幾度も駈けた。
青梅警察署山岳救助隊に卒業配置された去年10月、あの日から脚で頭で奥多摩の山を学んだ。
そんな日々はいつも説明される側で質問する側だった、それが今この第七機動隊山岳レンジャーで逆の立場に立つ。

―初めて御岳の登山道を巡回してから一年経ってないんだ、まだ、

心に歳月を数えながら頭と指先はルートを追い、言葉は説明に専念する。
その隣で箸を動かすアンザイレンパートナーの存在は前と同じで、けれど今は上官としても佇む。
膳を囲む仲間が同僚で先輩達だという事も青梅署と変わらない、それでも自分に対する視線は全く違う。

―もう単なる後輩で同僚じゃないんだな、俺の立場は、

いま向けられる視線たちの感情に、自分の立場が思い知らされる。
夕食を摂りながら山の話をする、それは一年変わらない日常の風景と同じだろう。
だけど緊張感、かすかな嫉妬と値踏みの眼差し、それから讃嘆、こうした空気は今までと違い過ぎる。
そんな相違の理由たちは隣に座る存在から始まった、それが自分を幾度も援けてくれる重みが今この時に解かる。

―俺よりも光一の方が、もっと、

食事と打合せを進めながら考えてしまう。
自分ですら立場に変化の途惑いがある、ならば光一はもっと変動が大きい。
それを自分は光一の隣で超えられる、けれど光一は独り山岳レンジャー第2小隊の指揮官として一ヶ月を超えた。

ずっと生きてきた故郷を離れて、「山」と離れることは光一にとって楽しい筈が無い。
それ以上に、唯ひとり想い続ける存在の名残から離れることは光一に何を想わせるだろう?
そんな時間たちは自由に生きる山っ子にとって安易なはずがない、そう想い辿るまま言葉の意味が解る。

『話したかったからね、』

毎晩ずっと光一は周太と話してきたのか?そう尋ねた答えの言葉と笑顔が今、ようやく解かる。
もしも自分が光一と同時に異動していたら、光一は独りきり自身の変動と途惑いと孤独を抱え込んだろう。
光一にとっての周太がどういう存在なのか少しだけ解かるようで、二人だけの時間が必要だったと想える。

―俺が後から異動でよかった、俺の為にも光一の為にも、たぶん周太にも…ありがとうございます、

打合せに食事する時間、後藤の采配に納得と感謝が起きあがる。
あの深い眼差しも声も懐かしい、そして明後日への心配がまた鼓動を締める。
この打合せが終わったら電話してみようか?そんな思案と説明を終えた向かい日焼あわい端整な顔が笑った。

「野生動物の生態や樹林の特徴まで掴んでるんですね、一年でここまでって凄いな、」
「ありがとうございます、先生たちのお蔭です、」

素直に笑って答えた向かい、穏やかに綺麗な瞳が笑ってくれる。
この笑顔について聴いていることを思い出す隣、テノールの声が機嫌よく笑った。

「後藤サンと吉村先生にキッチリ仕込まれてるからね、宮田は。で、今回はビバーク1泊だけどナンカ質問他にありますか?」

問いかけた上官の笑顔に3人から幾つかの確認が向けられる。
すぐ応答は済んで登山図を仕舞うと、端整な笑顔が訊いてくれた。

「湯原くんは宮田さんと同じ教場の同期だって聴いたんだけど、穂高にも登ったことあるらしいね?」
「そうらしいです、穂高のこと浦部さんにも聴いたそうですね、」

答えながらつい嬉しくて微笑んでしまう。
大好きな人にまつわる話は嬉しい、けれど緊張も同時に起きる。

―あの男に操られているかなんて本人も解ってない場合がある、内山みたいに、

緊張感と話題に、懐かしさと小さな苛立ちが思い出される。
あの同期を嫌いじゃない、けれど周太に構うことが二つの理由で気になってしまう。
その理由1つを今も向かいに座る端整な顔に見つけそうで、それでも微笑んだ前から齋藤が尋ねた。

「湯原って、銃器の第1で箭野さんが可愛がってるヤツだよな?宮田さんと同期ってことは、高卒任官じゃないんだ?」

やっぱり周太って、稚く見えちゃうんだな?

いつもながらの誤解に可笑しくて笑いたくなる。
けれど本人に伝わるのが怖くて英二は、真面目な微笑で4期上の先輩に答えた。

「はい、湯原も大卒です。私の期で入学から初任総合までずっと首席でした、」
「ずっとってすごいな、国村さんもずっと首席だったけど湯原も出世しそうだな、」

浅黒い貌ほころばせて齋藤が言ってくれる、その言葉は素直な賞賛が明るい。
けれど自分には少しも嬉しくない心配2つが鼓動で軋む、その向かい端整な貌が微笑んだ。

「湯原くん、首席だったんだね。そういうの全く言わないし見せないけど、納得だな。すごく頭が良いって高田も褒めてたよ?」
「高田のやつ、湯原に大学のノート見せてもらってるらしいな、東大の。大学に行ってるから湯原って高卒だって想ってたよ、」

率直なトーンで言ってくれる齋藤の言葉に、色んな意味で納得が笑いたくなる。
確かに周太の容貌で大学に行っていると言われたら疑いなく高卒任官だと思うだろう?
また可笑しくて笑いたい、けれど笑ったと伝わってしまう可能性に笑えない隣で誣告者候補がからり笑った。

「齋藤さん、湯原のこと完全に高卒だって思ってたんだね?ま、アンダケ可愛いと仕方ないけどさ、」

ちょっと煽らないでくれないかな光一?
そう言いたいけれど言えない、今は微笑むしかない。
そんな立場もどかしくて小さな苛立ちが熾きだす右斜め前、齋藤が笑った。

「ああ、正直なとこ可愛いって思ってたよ?あいつ、高田から色々聴くけど素直で良いヤツだよな、」
「そ、湯原って性格から可愛いんだよね。宮田もそう想うだろ?」

楽しげに隣で頷いてくれる雪白の顔が、何だか今は小面憎い。
そんな身勝手な自分に困りながら微笑んで頷いた向かい、端整な笑顔も言ってくれた。

「確かに湯原くんって可愛いですよね、話し方とか表情が純粋で少年ぽくて。良い体してるのに華奢な雰囲気だし、」

良い体って何それ勝手に見ないでくれる?

同じ隊舎の寮にいるなら共同浴場で見るだろう、けれど自分はここでまだ一緒に入っていないのに?
そんな反論に苛立ってしまう、こんな反論は自分勝手と解っていても肚は立つ。
それでも貌は微笑んで、けれど箸先つい力籠って冷奴が砕け潰れた。

「あ、」

小鉢から一欠け、大らかな放物線を描いて白く跳ぶ。
宙を飛ぶ豆腐の一片はスローモーションのよう、左斜め前の膳に落下した。

―よりによってそこに落ちるんだ?

つい心呟いた先、精悍な顔は憮然と白い一片を見つめている。
いちばん失態を見せたくなかった相手、けれど起きてしまった事態に英二は微笑んで謝った。

「すみません、黒木さん。俺のと交換します、まだ金平は手を付けてないので、」

笑いかけた先、鋭利な瞳が豆腐の落ち着き先を眺めている。
元は金平牛蒡だった小鉢を見つめて黒木は落着いた声で言ってくれた。

「いや、白和えも嫌いじゃないから、」

なんかその言い回し懐かしいな?
そう想った途端に朗らかな人の好い笑顔が記憶から笑った。

―あ、藤岡と似てるんだ?

あの気の好い同期と気難しげな先輩が、ちょっと似ている?
こんな意外が可笑しくてまた笑いたくなる隣からテノールが愉しげに暴露した。

「すみませんね、黒木さん。宮田ってナンカ食事中に粗相しちゃうんです、青梅署では味噌汁ぶちまけたりして有名でね、」

そんな情報まで流してくれるんだ?
そう思った端からまた可笑しくなる向かい、浦部が綺麗な笑顔ほころばせた。

「なんか意外です、宮田さんがそういう失敗するのって。でも本音のとこ、そういうのって俺けっこう好きだな、」
「ははっ、確かに宮田さんがって意外でなんか良いな、」

一緒に齋藤も可笑しそうに寛いだ笑顔を見せてくれる。
こんなふう親しんでもらえるのは嬉しいけれど気恥ずかしい?
そんな幾らか複雑な想いに吉村医師の言葉が記憶から笑ってくれた。

―…宮田くんの失敗が原さんの君への壁を崩したんだと思いますよ…才能と容姿の自己評価について周囲との温度差が大きいんです、

原が青梅署に異動して間もない日、食卓でコップの水を吹きだしてしまった英二に原は大笑いした。
それから原が少しずつ親しんでくれるようになったことを吉村医師は温度差にあると教えてくれた。
それが今、この第七機動隊山岳レンジャー部隊でも同じなのだろうか?

―そんなに俺のこと評価してくれてるんなら山のことでは絶対ミス出来ない、光一の補佐も、それから周太のことも、

この場所で負う立場と責任を考えながら今ここに居ない人を想ってしまう。
今日の周太は大学で研究生になる返答をして、そのあと友人と食事してから戻ってくる。
そんな時間たちが周太にとって幸せであってほしい、そんな願い微笑んで英二は丼飯へ箸を運んだ。






(to be continued)

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第67話 陽照act.3-side story「陽はまた昇る」

2013-08-16 06:45:11 | 陽はまた昇るside story
秋、熱風の行方 



第67話 陽照act.3-side story「陽はまた昇る」

過去から離れるなんざ、無理だね。

そうテノールが告げたことは現実通りだろう、けれど苦しい。
過去は現実に起きたこと、それを無かった事に出来ないのは当然かもしれない。
だからこそ逃げられなくて傷みごと呑みこんだ背中を、ぽんと軽くひとつ叩かれた。

「英二、おまえってイイ背中だね。だけど、周太もイイ背中になったって気づいてる?」

言われた言葉に瞳ひとつ瞬いて英二はザイルパートナーを見た。
同じ高さの透明な瞳は底抜けに明るいまま、穏やかに笑ってくれた。

「この一ヶ月、俺は周太の顔を毎日見てたよ。一緒に飯食って夜はサシで喋ってきたけどね、周太カッコよくなったよ?
祖父さんの本を貰った時も、オヤジさんの本を借りて来た夜も落着いてた、たった一ヶ月だけど周太はデカくなってるね、」

この一ヶ月、いちばん近くで周太と向き合ってきたのは自分じゃなく光一。
それが現実だと解っている、だから灼かれる焦燥に英二は微笑んだ。

「毎晩、いつも話してたんだ?」
「話したかったからね、」

短く答えて底抜けに明るい目が笑ってくれる。
ただ正直に行動する率直は眩しくて、羨ましい本音が声になった。

「ごめん、自分勝手だけど俺、すごい嫉妬してる。この一ヶ月って本当は焦ってたから、」

八月、光一と周太が第七機動隊に異動した日から一ヶ月。
自分が居ない時間に光一と周太は一緒に過ごした、その時間にパートナーは笑ってくれた。

「ま、それもイイ経験じゃない?」

さらっと言ってくれる瞳は悪戯っ子に笑いながら大らかに優しい。
その明るさに嫉妬すら可笑しくなって英二は笑った。

「俺って元から嫉妬深いのに、今回の嫉妬も良い経験なんだ?」
「ほんとに独り仲間はずれって気分はお初だろ、そういうの少しは経験しないと周太コト、本当のトコで解んないんじゃない?」

テノールが微笑んだ言葉に、鼓動ひとつ心を敲く。
とくん、ひとつ撃たれる想いに透明な声は続けてくれた。

「周太はね、仲間はずれって気分をずっと抱えてるよ?俺と初めて会ったガキの時もさ、自分は普通と違うって悩んでた。
だからオヤジさんや祖父さんのコト知りたいんだよ、自分に繋がる人を知って大切にしてさ、自分が何者なのか自信を持ちたいワケ。
で、知るほど周太はカッコよくなってきたよ、そういう周太なら祖父さん達のコト全部も受けとめられる男だって思う、過去もナンでもね、」

話してくれるテノールは明るく落着いて、一ヶ月の時間そのまま信頼に篤い。
光一と周大、ふたり向き合ってきた時間は自分の知らない温度がある。
そう解る分だけ反論も出来ない溜息に英二は微笑んだ。

「光一も一ヶ月で変わったな、」
「ま、ソレなりにね、」

飄々と笑ってくれる瞳は明るいまま、けれど深い。
その雰囲気は懐かしい人と少し似て、思い出すまま英二は口を開いた。

「夏富士で後藤さんにも同じこと言われたんだよな、俺…周太を一人の男として認めろって、」

認めて信じろ。

そう言ってくれた後藤の声は深く強かった。
あのとき最高峰に祈った想いに英二は微笑んだ。

「心配過剰だな、俺は。いつも心配する口実を探してる、周太に必要とされたくて、」

あのひとに必要とされたい、そして愛されたい。
そんな願いが援助の手を出したがる、愛される理由探しをしてしまう。
この身勝手が寂しく笑った隣、光一も笑ってくれた。

「必要とされたいっての解るよ、」

必要とされたい、

そう言った雪白の貌は明るく笑ってくれる。
澄んだ瞳も底抜けに明るくて温かい、その温もりこそ経験に生まれている。
それが解かるから嫉妬深いはずの自分が光一は憎めない、そんな想いにテノールの声が笑った。

「おまえさ、鉄塔やコンクリの壁は味気ないって貌してたね?」
「うん、光一もしてたな、」

同じ目線で笑い返した隣、無垢の瞳が愉しげに笑ってくれる。
その眼差し明るいまま空を見上げてアンザイレンパートナーは笑った。

「山ヤだったら当然だね、だから本チャン訓練を近々入れるよ?だから晩飯は会議でヨロシクね、」

からり笑ってくれる言葉には信頼と責務が温かい。
そんな上司に頷いて見上げた先、鉄塔に正午の光きらめいて太陽は雲間にも眩しい。






(to be continued)

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Rose of Words、薔薇彩々

2013-08-15 23:51:22 | 文学閑話韻文系
Rose of All-花の名前+α



Rose of Words、薔薇彩々





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解夏、緋雲天衣―morceau by K2

2013-08-15 04:30:34 | morceau
誰彼時、戀ひるがえし 



解夏、緋雲天衣―morceau by K2

竹刀袋と学生鞄の向こう、薄紅きらめく空ひるがえる。
あわい紫暮れる山は蒼く、森は夜の墨色しずませ融けてゆく。
自転車を漕ぐ頬に風は火照りを醒まし、稽古着の衿元から涼ませる。
すっと冷えてゆく汗に首元で紐揺らぐ、その懐に弾むガラス細工が心地良い。

―いまごろ病院も終わる頃かね、今夜はちゃんと帰れる?

汗薄い胸ふれるガラス細工に、これと揃いを持つ人が慕わしい。
水曜日の今日は日勤だけのはず、けれど急患が訪れたら白衣を脱がないだろう。
あの人は勤務時間外でも医師である誇りにただ微笑んで、優しい手に目の前の人を援ける。

―そういうトコ大好き、でも、構ってほしいってのも本音だね?

いつも真摯に微笑む白衣の美しい人、だから尊敬に仰いで愛している。
そんな人だから自分だけ見てほしいと願う、こんな我儘ごとあの人は愛してくれる。
だから離れている時すら我儘も幸せで、胸ゆれるガラスに微笑んでいつもの坂を漕いでゆく。
梢ふる薄闇に黄昏の木洩陽は紅い、その鮮やかな色彩に逢いたい肌を想い光一は自転車を止めた。

遥か連なる故郷の山嶺、その空は緋色あざやかに夏日暮れて秋を呼び、いつかの約束すこし近くなる。





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