萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

雑談寓話:或るフィクション&ノンフィクション@御曹司譚304

2014-12-24 08:26:24 | 雑談寓話
七月半ば金曜日=最終出勤日、夜は自分の送別会で、

「あのお、彼が来ても大丈夫ですか?遠ざけたいならそうしますけど、」
「そんな気づかいするんなら上司の酒とか気をつけなね?笑」

なんて会話を坊っちゃんクン=幹事として、
廊下の窓ですこし風当たりながら携帯のメールチェックやらしていたら御曹司クンが来た、

「あ…おつかれ、」
「おつかれサン、笑」

ってなんとなく挨拶して、
照明落とした廊下で御曹司クンの表情は見えにくかった、
でも声の雰囲気とうつむき加減で解る気がして軽くSった、

「泣いてんの?ガキだねえ、笑」

ホント子供だね?
そんな感想と笑ったら御曹司クンがこっち見た、

「泣いてねーよ、さっきまでは、」
「ふうん?笑」

さっきまでは、がなんだか可笑しくて笑って、
そうしたら御曹司クンが言った、

「マジで泣いてねーもん、今おまえの顔見て泣けたんだからなっ、おまえのせいだ笑うなよバカっ」

バカまで言うんだな?

こんな悪口もちょっと楽しかった、
こういうのも今夜が最後だろう?そんな結末感覚は少し寂しくて、それも可笑しくて笑った、

「泣なかせたんならゴメンね、でも後から来たのはそっちだろ?笑」
「俺の行く先にオマエが邪魔してるんだろ、拗」
「ふうん?ジャイアン発言だね、笑」
「俺あんなデブじゃねーし、拗」

なんて会話していたら同僚が来た、

「おー、最後まで仲良しだな、笑顔」

そう見えるんだな?笑
こんな傍目評価も可笑しくて笑った、

「仲良く見えます?笑」
「こんなとこでジャレてたら仲良さそうだろ?」

なんて笑われて、そして言われた、

「部長が主役はどこだって探してたぞ、」
「はい、そろそろ戻ります、笑」

ホントそろそろ戻らないと?
そんなタイミングに御曹司クンへ笑った、

「じゃあ戻るね、おまえ顔洗っとけよ?笑」



なんとなく忙しなくて加筆ほかココンとこ遅れ気味です。
でもクリスマスのナンカをUP出来たらなと思っています。

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第81話 凍結 act.4-side story「陽はまた昇る」

2014-12-24 01:00:14 | 陽はまた昇るside story
reach an agreement 妥協と祈り



第81話 凍結 act.4-side story「陽はまた昇る」

この男は、鏡かもしれない。

「この屋敷の主には決定権があるか、なぜ英二はそう想う?」

涼しい眼が可笑しそうに笑いかける、こんな眼を自分もしているのだろう。
それは今も同じかもしれない、そんな自覚に英二は微笑んだ。

「マンションや山林も俺の財産にしたのではありませんか、その賃貸収入でこの屋敷も納税するんでしょう?経済力は権力も呼びます、特にこの屋敷は、」

いま座るダイニングテーブルは10人座れる、この広さだけ人々も集う。
けれど今は二人きり対峙する、その足もとに黒い犬が戻って座った。

「ヴァイゼ、残さず食べて偉いな?」
「くん、」

笑いかけた真中で茶色い瞳が見あげてくれる。
つぶらな聡い眼差しは変わらない、そんな愛犬に祖父は微笑んだ。

「ヴァイゼは英二がいると楽しそうだな、心から従うことを楽しんでおる。人間も同じなのだろう?」

ほら、こんな問いかけ混ぜてくる。
これは質問というより確認だろう?その設問者に笑いかけた。

「俺の勤務状況はご存知でしょう?あなたの信奉者から聴いて、」
「その該当者は見つけたのか?」

さらり問い返されて確信またさせられる、そのままに微笑んだ。

「正確には、あなたの信奉者と親しい人間が近くにいると思っています。今の部署にも同期にも、」

同期は見当つけることも簡単だ?そんな解かりきった答に低く透る声が笑った。

「英二も麹町に入れても良かったがな、山岳救助隊の方がチャンスも多かろう?」
「俺の希望も考慮してくれたんですね、感謝すべきですか?」

フォークとナイフ動かしながら唇噛みたくなる。
こんなふうに結局「手の内」というやつだ?

―最初からなんだ、俺が進学先を曲げられた時からずっと、

もし希望どおりに大学受験していたのなら?
そんな仮定しても虚しい現実に笑ったテーブル、祖父は言った。

「英二が山岳救助隊に入れたのは努力と適性だ、私は関係ない。そんなに山は愉しいか?」

祖父の権力は関係ない、自分が掴んだ居場所。

それが本当なら嬉しい、けれど今は素直に受けとり難い。
だって自分が山を選んだことも「関係ない」だろうか?それでも居場所に笑った。

「山は厳しい分だけ自由になれます、登れる人間が少ない分だけ自由です、」
「なるほど、英二らしい好みだな、」

微笑んで応えてくれる言葉は「理解」だろう。
それでも反発したい本音は子供じみた意地でしかない、だから微笑んだ。

「俺らしい好みですか、でも俺が山を選ぶなんて意外だと仰っていましたけど?」
「厳しい分だけ自由というのは英二らしいだろう、物堅い反骨は宮田君ゆずりかもしれんな、」

低く透る声の言葉にすこし心解かれる。
もう一人の祖父を言われると嬉しい、けれど今は思惑と微笑んだ。

「宮田の祖父と似ている俺だから屋敷を譲りたいんですか?憧れの男と血縁を結べた記念として、」

こんな言い方は嫌味だろう?けれど武器でもある。

そう解っているから発言した、そんな唇つけたワイングラスごし端正な瞳が微笑む。
この眼差しは少なくとも今偽りない、そう見とりながら自分がすこし嫌になる。
だって君がこんなところ見たら何て言うんだろう?

―周太、こんな俺だって解かっても言ってくれる?帰ってきてって、

英二の家はここって約束したよね、違うの?

そう言ってくれたのは元旦の電話だった。
電話の声だけでも嬉しくて幸せになる、そんな笑顔が今は遠い。
このまま遠くなってしまうのだろうか、その現実に祖父が微笑んだ。

「この屋敷を相続できるのは英二ぐらいだ、それは征彦自身がいちばん解っている。だから官僚を選ばず銀行に入ったのだ、その程度の賢さはある、」

ほら、現実また突きつけられる。
もう続く言葉も解かってしまう、そのままに笑った。

「俺は征彦伯父さんの相談役もするんですか?この屋敷に住んで、」
「英二が相談役なら征彦も安心だろう、」

低く透る声が応えて微笑む、その言葉はある意味残酷だ。
けれど祖父にとっては慈愛なのかもしれない、そう解かるから尋ねた。

「率直に訊きます、征彦伯父さんより俺の方があなたの権力に相応しいと判断した根拠は何ですか?」

この祖父と自分は似ている、それだけが理由かもしれない。

だって見つめてくる眼差しは怜悧で美しいけれど酷薄だ、この眼を自分もしていると知っている。
それでも今は少し違うのだと言いたいテーブル越し、端整な老人は微笑んだ。

「私と宮田君の孫だからだ、」
「やっぱり俺は記念碑ですか、あなたの憧れた男の?」

即答に問いかけてワイングラス口つける。
黄金あわくランプゆれて消えてゆく、その向こう低く透る声は言った。

「記念碑というより作品だ。私の狡賢さと宮田君の潔癖な優しさが合わさったら何が出来るのか、私も見てみたい、」

作品、そんなもんだろう?

こんな言い方しか祖父は出来ない、それくらい昔から解っている。
だから母もあんな家庭しか出来ないのだろう、この冷たい原点に微笑んだ。

「あなたにとって母も父も作品の素材なんですね、今度は俺にどんな女を掛け合わせて作品を生むつもりですか?あなたのゲームは、」

この男にとって、全てはゲームだ。

権力も家庭もすべてが遊戯、だから恬淡といつも笑っている。
それを気づいたから向きあうことを避けていた、そんな本音に祖父が笑った。

「英二が生まれたのは私のゲームの成果か、確かにそうかもしれんが何故そう思う?」
「さっき俺に早く結婚をさせたいと言いましたよね、ゲームの成果を生きているうちに見たいから言ってるんじゃありませんか、」

即答しながらフォーク動かし、皿が空になる。
チャコールグレイの腕そっと伸ばされ皿は引かれて、優しい深い声が訊いた。

「英二さん、ワインの銘柄を替えますか?」

この家宰が話中こんな質問なんて珍しい。
その意図すぐ気がついて、可笑しくて綺麗に笑った。

「中森さんのお奨めがいいな、ありますか?」
「はい、」

頷いてワインバケットから出してくれる。
シンプルで美しいラベルと色彩をランプに透かし家宰は言ってくれた。

「このロゼは香が華やかですが辛口で食事と合います、英理さんがいらしたらお出しする予定です、」

酒と食事が合うことを何て言うのか?
その単語に可笑しくて、この穏やかで愉快な助太刀に笑いかけた。

「姉が喜ぶマリアージュになりそうですか?」

“ mariage ”

このフランス語は酒と食事の合致を言う、その語源が何なのか?
この懸け言葉にテーブルむこうも気づいたろう、そんな視線に愉しくなる傍ら銀髪の笑顔が頷いた。

「きっとお好みです。英二さんにもご自分で選んで、味わって戴きたいですよ?」

ほら、やっぱり解っているんだ?
この「選んで」も「味わって」も酒だけじゃない、そう深い静かな瞳が微笑む。
こうして聡明な優しさで昔から援けてくれる、その信頼するだけ痛みに微笑んだ。

「ありがとう、でも俺の好きなマリアージュは普通じゃないと思うよ?中森さんも嫌がるかもしれない、」

本当に「普通」じゃない、それくらい解かっている。
それを後悔なんてしていない、それでも幼い日から支えてくれる笑顔には痛んで、けれど優しい深い瞳は笑ってくれた。

「英二さんのお好みは知っているつもりです、それが私の予想を超えることも多いと解っていますよ?それも私の楽しみです、」

どんな選択でも支持しましょう?
そう告げてくれる眼差しを見つめる足元、ふさり、温もり寄りそって家宰が微笑んだ。

「ヴァイゼも私と同じですよ、きっと。お注ぎしますね?」
「ありがとう、」

素直に微笑んで足元の温もりへ指伸ばす。
ふさり毛並ふれて温かい、そんなテーブル越し祖父が尋ねた。

「英二、英理は結婚の話で来るのか?」

冷静なトーン、でも底深くが揺れている?
この隙をつくってくれたワイン一杯かかげて、薔薇色を透かし微笑んだ。

「お祖父さん、この屋敷を俺にくださって感謝します。中森さんもヴァイゼも俺と一緒にいてくれるって条件付きですけど、」

もう屋敷は相続した、そこに付随する全てを受けとれば良い。

こんな選択は2年前なら絶対しない、全てを蔑んで拒絶して棄てるだろう。
けれど今は護りたい人がいる、だから受けとる選択に端正な白皙が笑った。

「英理の結婚に口出しするなということか、この家の所有者として私に指図して?」
「それも決めたのはあなたです、違いますか?」

笑いかけワイングラスに口つける。
華やいだ馥郁ゆるやかに喉すべりこんで、吐息さわやかな深い味に微笑んだ。

「美味しいです、中森さんが言うとおり姉も喜びます、」
「よかった、英二さんのお墨付きなら安心です、」

笑いかけてくれる眼差しがどこか悪戯っ子に見える。
こんな眼をしてくれるから幼い日なんども救われた、その信頼に低く透る声が笑った。

「中森もすっかり英二の家宰になったか、もう私は隠居のようだな?」

隠居、だなんて似合わない貌のクセに?
そんなこと想ってつい笑いたくなる、そのまま素直に笑いかけた。

「家庭では隠居で構いません、でも権力ゲームは死ぬまで現役でしょう?あなたはゲームが呼吸なんですから、」

この男が隠居するなど有得ない、だってこれは性分だ?
そう解るから笑ったテーブルに祖父もワイングラス受けとり、愉しげに笑った。

「私を手駒に遣うつもりか、何を今させたい?」
「何もして頂くことはありません、教えてほしいことはありますが、」

素直に笑いかけてグラス口つける。
ふわり馥郁すべりこんで微かに甘い、呑みこんだ胸に金属ひとつ肌温まる。
ちいさな硬い輪郭は鍵を象ってシャツと素肌の狭間をゆらす、この感触もう馴染んでしまった。

―馨さんも今聴いていますか、こんな俺をどう想うんですか?

肌温まる小さな鍵、この持ち主に自分の本性を問いかける。
こんな自分でも本当に赦されるのだろうか?そんな思案に新しい皿が置かれて、深い芳醇の湯気に祖父が笑った。

「英二がリクエストした皿だな、この料理に関することを知りたいのか?英二にしては細かいリクエストをしていたが佳い香だ、」

ほら、解かってくれている。

この怜悧は信頼していい、その愛情は解らなくても頭脳は信じられる。
そう見つめる白皙の笑顔は前より微かに温かで、こんな変化を笑いかけた。

「この料理を俺に初めて食べさせた人に会いたいと思いますか?」

これは賭けだろう?

“ mariage ”

自分が選びたいそれは普通じゃない、拒絶されて当り前だろう。
そのリスクは大きすぎて、それでも多分きっと最大の守護で攻撃になる。



(to be continued)

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山岳点景:湖舟の陰翳

2014-12-22 21:00:00 | 写真:山岳点景
黄昏、湖畔の泊



山岳点景:湖舟の陰翳

山中湖@山梨県にて、晩秋の日没時です。
これから湖は凍れる季節、ここも全面凍結に銀盤化します。


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雑談寓話:或るフィクション&ノンフィクション@御曹司譚303

2014-12-22 00:45:02 | 雑談寓話
七月半ば金曜日=最終出勤日、夜は自分の送別会だった。

とはいえ最終日だからデスクの片付&ロッカーの荷物まとめて、仕事も引継ぎの仕上げして、
挨拶まわりが終わったと思ったら餞別をくれに来てくれた人との挨拶もして、なんだかアレコレ忙しくて、

「ほら、送別会の主賓が遅刻とかダメだろ?」

なんて上司に笑われながら最終日ラストの仕事して、
使っていたパソコンの個人データの全消去も済んで、席を立ったらなんだか感慨深かった、

ホントに辞めるんだな?

そんな自覚あらためて不思議で少し寂しくて、やたらサワヤカな昂揚感みたいなモンがあった。
ここで仕事して学んだことイッパイあったな?そんなこと考えながらロッカーとデスクの鍵を返却した、

「おつかれさまでした、新しいトコでも元気で、」
「はい、色々ありがとうございました、」

なんて会話を総務担当とも交わして、
ホントの最終退勤だなー想いながら待っててくれた同期たちと職場を出た、

「やっと終った、笑」

ビル出て最初そんな言葉で笑って、そしたら同期も笑ってくれた、

「ホント爽やかな顔してんなー、転職おめでとさん、」
「ありがと、笑」
「次は俺がいきたいなあ、転職のコツとか教えてよ?」
「やりたいことキッチリ決めることじゃない?笑」

なんて話しながら送別会の店に着いて、席はやっぱり上司の隣で、
だけど逆隣は花サンだったあたり幹事はよく解っていた、幹事=坊ちゃんクンだけど、笑

でも送別会なんて挨拶まわり=席移動するけどね?

とか考えながらも飲み会は普段通りゆるく始まって、
かわるがわる色んな人が前に来てくれて、飲みながら話して笑って、
その合間ちょっと席を立った廊下、幹事=坊ちゃんクンが訊いてきた、

「あのお、彼が来ても大丈夫ですか?遠ざけたいならそうしますけど、」

彼=誰なのか?なんて解りきっている、
こんな気遣いに擦違い×価値観違いを想いながら笑った、

「そんな気づかいするんなら上司の酒とか気をつけなね?笑」
「あ、それはもちろんです、」

なんて会話ちょっとして、
すこし風当たりながら携帯のメールチェックやらしていたら御曹司クンが来た、


第81話「凍結3」+「少年時譚79」加筆まだします、
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第81話 凍結 act.3-side story「陽はまた昇る」

2014-12-21 22:00:00 | 陽はまた昇るside story
Temperature of talks 思惑の温度



第81話 凍結 act.3-side story「陽はまた昇る」

黄金ゆれるグラスに光さし照らす、この風景は2カ月前も見た。

けれど座っている椅子は4年越しで、銀のカトラリーも青絵の皿も同じに久しい。
ここで食事する自体が4年に隔てて、それでも足もと寄りそう温もりは変わらない。
ふわり、時おり尻尾ふれて遠慮がちねだってくれる。この愛犬に英二は微笑んだ。

「中森さん、ヴァイゼのお皿を出してもらえますか?一緒に食事したがってる、」

こんな申し出は行儀が悪いのだろう?
それでも敢えて言いだした提案に銀髪やわらかな笑顔は頷いた。

「ヴァイゼの食事もお持ちします、」
「ありがとう、」

笑いかけながら信頼やわらかに篤くなる。
この家宰がいたから今日も「帰られた」のだろう、そんな想いに祖父が言った。

「相変わらずヴァイゼは英二から離れんな、忠誠心を誓うのは唯一人という貌だ、」

さっきも似たようなことを言われたな?
こんな繰返しが少しだけ温かく想えて、この素直に笑いかけた。

「ヴァイゼと食事するのが迷惑なら俺、向こうに行きますけど、」

こんな台詞を4年前も言った。
あの日まで訪問は単独でしていない、このテーブルにも同席者がいた。
けれど今は独り訪れて祖父と二人きり向かいあう、その足元やさしい温もりに深い低い声が笑った。

「ヴァイゼもここで食事したら良い、美貴子がいたら煩いだろうが私は構わん、」
「ありがとうございます、」

微笑んで応えながら少しまた認められる。
いま向きあっている相手が自分の誰なのか?その現実が今は近しい。

“英二さんが分籍されたと知って遺言を書き直されたのです。ヴァイゼも私もお帰りを待っています、克憲様もお待ちです、だから次は食事にお戻りください”

二ヵ月前に家宰から教えられたこと、それが今この食卓に載っている。
この事も確かめたくて今日ここに来た、そのための時間に微笑んだ。

「中森さんから聴きました、この屋敷を俺に相続させるんですか?」

そんなこと本当に大丈夫なのか?
そんな意味も笑いかけたテーブル、端正な笑顔はワイングラスとった。

「正確には生前贈与だ、もう手続きは済んでいる、」

こんな返事くると思わなかったな?
また意外で、この不意打ち可笑しくてワイングラスとり笑った。

「納税額が増えますね、でも俺は普通の地方公務員ですよ?維持できません、」

この立地と敷地を維持するなら固定資産税も並みでは無い。
けれどこの男なら配慮しているだろう、そんな予想どおり即答された。

「納税の手配もしてある、知りたければ中森に訊いたら良い、」

答えながらグラスを掲げてみせる。
マナー通りな乾杯の仕草にこちらも応えて、グラスくちつけ微笑んだ。

「それなら今、この屋敷は俺が家主ということですか?」
「そうだ、私とは賃貸契約がされてある、」

さらり答えてグラスまた含む。
その端正な貌から可笑しくてつい笑った。

―この祖父が借家人って可笑しいよな?

外貌から家柄中身まで全てがサラブレッド。
そんな男の選択はあまりに予想外で、それも愉しくて笑った。

「あなたが孫に家を借りるなんて不思議ですね。何故そこまでして俺に屋敷をくれるんですか、征彦伯父さん達も納得しないのではありませんか?」

伯父とその娘が納得すると想えない。
それでも組込む算段があるのだろう、その考案者は微笑んだ。

「それなりの援助は以前からしてある、納得せざるを得ん、」
「本当に納得されているでしょうか?」

問いかけて、でも本当は答なんか解かっている。
この祖父が「せざるを得ん」と言う時は既成事実でしかない、そう見たまま端正な瞳は笑った。

「征彦には文句を言えん、あれの弱点は美貴子だからな。英二も屋敷ひとつくらい迷惑がらずに受けとれ、」

迷惑がられるって自覚はあるんだな?

こんなふうに解かってくれている、それを今更に教えられてしまった。
こんな時に知ることも運命じみているようで、すこしだけ反抗心と微笑んだ。

「俺が今すぐ売り飛ばしたらどうするつもりですか?住む場所だけの問題じゃないでしょう、あなたは、」

これくらいの意地悪は言ってみたい。
けれど対処されていることも解っている、そんな推測のまま涼やかな顔は言った、

「ヴァイゼが哀しむことを英二は好まんだろう?中森のこともな、」

ほら、分析なんてとっくにされている。
この理解が前は嫌いだった、でも今は少し違う感情と笑いかけた。

「ヴァイゼと中森さんは俺の人質ですか?」
「元は意図していなかったがな、でも結果は利用すべきだ、」

低く透る声が笑ってグラス傾ける。
黄金あわくゆれる芳香に祖父の貌は若い、そんな視界の向こうネクタイ姿が戻った。

「お待たせいたしました、」

ワゴン停めて、銀のトレイから食事が並べられる。
野菜と魚の冷菜は彩り豊かに美しい、けれど順番が可笑しくて笑った。

「俺から先に皿を置いて良いんですか?ここの主は祖父なのに、」
「はい、克憲様からの言いつけです、」

深い声やわらかに答えてワゴンの下段へ手をのばす。
白い陶器ふたつ並んだトレイひきだして、傍らの黒い大犬に微笑んだ。

「ヴァイゼ、英二さんから許可を頂いたので今夜はここで食事しなさい。いいですね?」
「おん、」

一声うなずいて茶色い瞳が見あげてくれる。
その視線に笑いかけワインひとくち飲むと愛犬に告げた。

「ヴァイゼ、中森さんにお辞儀は?」
「くん、」

三角耳ゆるやかに頷いて頭下げてみせる。
それから差出した黒い手そっと左手に受けると笑いかけた。

「ヴァイゼ、食べていいよ?」
「おんっ、」

ひとこえ嬉しそうに鳴いて食事へ鼻づら向ける。
きちんと座って行儀が良い、相変わらずの姿が嬉しくて笑いかけた。

「中森さん、思ったより食欲あるよ?」
「はい、英二さんが傍にいるからでしょう、」

穏やかに微笑んでくれる、その言葉に理由すこし解かってしまう。
なぜ愛犬が食欲をすこし落としていたのか?そんな思案とテーブルに向きあった。

「ヴァイゼは英二の言葉を全て解っていそうだな、視線からよく見ている、」

低く透る声は笑っている、手元のフォークも楽しげに料理を運ぶ。
その声も仕草も九十の老人に見えない、こんな祖父だから不思議で尋ねた。

「なぜ屋敷からヴァイゼまで今すぐ継がせたいんですか?体はどこも悪くなそうですけど、」

正確には生前贈与だ、もう手続きは済んでいる。

そう今も祖父は言った、だから既に「今すぐ継がせた」のだろう。
そして継がせたのは実質この屋敷だけじゃない、そんな推定に祖父は微笑んだ。

「私は九十の老人だ、明日の朝を覚悟して生きるのは当り前だろう?」

明日の朝、死ぬかもしれない。

それが当り前の年齢に祖父は生きている、そんな現実は解っていた。
解っていた、それでも声に言われたまま鼓動は軋んで意固地が微笑んだ。

「明日の朝が解からないのは俺こそですよ?警察官で山岳救助隊員なんていつ死んでも不思議はありません、」

そういう場所にあなたの孫は生きている。
この現実ストレートに告げたのは初めてだ?こんな初体験に祖父は笑った。

「そうだ、私より英二の方がリスクが高い。だから今継がせたいのだ、結婚も早くと願っている、」

また意外なこと言われたな?

―今ここで本当のこと話したら驚くのかな、それも面白そうだけど?

このまま告げてしまおうか、自分の本当の現実を?
その思案すこし廻らせたくて別の話題に口開いた。

「結婚なら俺より先に姉です、でも屋敷を相続したのなら姉の結婚も俺に決定権があるんですか?あなたや征彦伯父さんよりも、」

この家の権力者は誰なのか?

それが姉の人生も決めるだろう、そして自分こそ多くが影響する。
こういう「家」だから嫌で遠ざかっていた、けれど今はもう逃げ回るわけにいかない。
だって姉の選んだ相手は「家」が望まないと知っている、それ以上に自分こそ唯ひとり護りたい。

「この屋敷の主人が俺なら決定権も俺ですよね、そういう相続だという理解で良いんですか?」

姉は何とかなるだろう、でも大切な人は何とかならない、だって時間が残されていない。
それでも幸せにしたいなら最短距離を選ぶしかない、その途が与えられるなら受けとれば良い。

叶えたいなら権力を掴めばいい、本当は望まなくても。


(to be continued)

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雑談寓話:或るフィクション&ノンフィクション@御曹司譚302

2014-12-21 00:38:09 | 雑談寓話
七月半ば金曜日=最終出勤日、
最後の職場挨拶まわりで菓子折の菓子を配りながらいろんな人と話して、
ホントに今日で最後だなーなんて想いながら職場あちこち歩き回って、で、御曹司クンの席に来た、

「お疲れさまです、挨拶に来たんですけど、笑」

で、振向いた御曹司クンの眼は赤かった、

「あ…おつかれさまです、今まで、どうも…」

なんてカンジに返事してくれた顔は明白で、
こんな場所こんな反応に困りながらも笑ってやった、

「なに泣いてんですか?笑」
「…泣いてませんからお気になさらずで、」

って意地張ってくれて、
こんな貌される事はホントのとこ解っていたから、持ってきたモンをデスクに置いてやった、

「これあげます、前に欲しがってたから、笑」

置いたもの=残業または昼いけない対策の菓子ボックス(中身入り)

いつもデスクの抽斗に入れておいた非常食ボックス=元なんかの空き箱はデスクとサイズが調度いい、
だからソレイイナーよく言われていて、だからあげたら少しだけ笑ってくれた、

「中身まだ入ってるじゃん、オールブランとかうまいっすよねコレ…でもチョコとか溶けるしイジメすか?」

ちょっとだけ冗談交えて返してくれる、
それでも赤いままの眼に笑って軽くSった、

「要らないんなら他にあげますけど?田中サンとか欲しがってたし、笑」

田中さん=花サン、
で、御曹司クンは菓子ボックス(中身入り)を抽斗にしまった、

「いります、そっちの菓子折もください、」
「もちろんどうぞ?笑」

笑って菓子いっこ渡して、それから写真ひとつ見せた、

「デスクのトコ置いてたやつですけど、前に欲しいって言ってましたけど要ります?」
「え、ホントにくれるの?」

ちょっと驚いた顔で訊き返してくれる、そのまま訊き返した、

「フレームもいれないで置きっぱなしだから傷んでますけど、ホントに欲しいんですか?笑」
「ほしい、頂戴ありがとう、」

ってカンジに受けとってくれて、赤い目は少しうれしそうに笑った、

「これ良い写真だよな、まっすぐな道と空のカンジがすごい好き。撮るの巧いですよね?」

なんて褒めてくれて、その職場モード喋りがナンカ可笑しくてつい弄った、

「似たようなやつ前にあげたじゃないですか?なのにコレも欲しいって目的ちょっと怖いですね、笑」
「はーーもう最後までイジワルかよ?ほんとSですよね、」

すこし笑って言い返してくれて、その貌は少しだけ元気になってた、
この後も仕事に差支えたら困るから泣き止んでくれよとか想いながら、でも言った、

「いろいろお世話になりました、ありがとうございました、笑」

笑って頭下げて、そして顔上げたら赤い目は潤み始めていて、
こんなんじゃ送別会とかドウナルンダろ想いながら踵返した、



ウィルキンソン炭酸水(甘くない)のキツメ炭酸飲んでも眠い+朝早いので短めです、笑

Favonius「少年時譚78」+Aesculapius「Dryad12」+第81話「凍結2」読み直したら校了です、
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山岳点景:曇天の赤

2014-12-20 19:00:00 | 写真:山岳点景
Gray×赤い実



山岳点景:曇天の赤

雨ときおりの曇空、赤い実は惹きます。

お散歩写真(12月)ブログトーナメント

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雑談寓話:或るフィクション&ノンフィクション@御曹司譚301

2014-12-20 01:10:00 | 雑談寓話
「送別会、ちゃんと俺も出るから。二次会とかも行くから、」

と、御曹司クンが言って別れた7月の日曜@港の見える丘公園付近、
買物して帰宅して、のんびり晩酌しながらパソコン開いてあれこれやって、寝て、
翌日はフツーに出勤して、それでも最後の一週間だから夜は飲み会+残業が続きだった、

From:花サン
本文:ホント最終週になっちゃったね、やっぱ寂しいな(困り顔文字)

Re :来週土曜の昼ゴハン何が良い?笑

Re2:ドライブついでだと歓迎です(顔文字笑顔)でも疲れてるよね?

Re3:手伝ってくれるんなら平気、笑

なんてメールで花サンとは相変わらず会話していて、
その一方でアレコレ準備することはして、で、最終日の金曜になった、

「お世話になりました、笑」

とか仕事合間に挨拶しながら菓子を配って歩いて、

「おー、ほんとに辞めちゃうんだなあ?」
「はい、ホントに辞めます、笑」
「サワヤカな顔してんな、次イイとこに決まってるんだろ?」
「笑、」
「あ、余裕の笑いしやがってコイツ、いいなあー」
「元気で頑張れよ、飲み会の時また話そうな?」
「ありがとうございます、」

なんて会話しながら職場を回って、花サンのトコにも来た、

「お世話になりました、笑」
「こちらこそホントお世話になりました、お菓子くれるんならチョコの下さい、笑顔」
「好きにどうぞ?笑」

とかフツーに別れの会話して、
だけど来週末すぐ会うけどね?なんて思いながら話して、
上司、先輩や後輩ぐるっと挨拶回りして坊ちゃんクンにも行った、

「菓子いる?笑」
「あ、今日で最終日なんですよね?マジ世話になりました、」

って頭下げてくれて、なんか色々と懐かしかった。
想えばコイツのメール披露からあれこれ始まった、そんな記憶に坊ちゃんクンは言った、

「ホント色んな相談とかありがとうございました、あのとき聴いてもらって嬉しかったです、」

色んな相談=あのとき、が何かなんて訊くまでも無い。
そんなこと考えながら軽くSった、

「ホント迷惑だったけど?笑」
「あーそういうこと最後まで言うんですね?もーー送別会ちゃんと幹事しますから許して下さいよ、もー、」

とか会話して笑って、城戸さん(仮名)のトコも回った、

「どこ行ってもやってけそうですよね、体気をつけて頑張ってください、」
「どうも、笑」

なんて会話しながらコイツ相変わらずソツないな思って、
で、御曹司クンのとこ行って声かけた、

「お疲れさまです、挨拶に来たんですけど、笑」

って話しかけて振向いた御曹司クンの眼は赤かった、

なんでんかんでん14ブログトーナメント

ウィルキンソンの炭酸水(甘くない)をコップに注いだら音+飛沫が起つほど発泡すごいです、笑
そんなの飲んでも眠いので短めですがUPしておきます、

Aesculapius「Dryad12」もう少し加筆します、第81話「凍結2」読み直したら校了です、
コレや小説ほか楽しんでもらえてたらコメント&バナーお願いします、笑

取り急ぎ、



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雑談寓話:或るフィクション&ノンフィクション@御曹司譚300

2014-12-19 01:10:08 | 雑談寓話
「あのさ、公園いこ?缶コーヒーおごる、」

なんて御曹司クンに言われた7月日曜の午後、くだんの公園でベンチに座った。
夏の午後だから暑くて、それでも海から吹き上げる風は気分が良くて、
気温から缶コーヒーの温度まで前とは違う変化に訊いた、

「残り時間あと40分だけど、なんでここに来たかったワケ?笑」

ここは前にも来た、だから来たんだろう?
それくらい解かってるけど訊いた隣、御曹司クンが言った、

「おまえが好きな場所だから来たかっただけ、」

そんなこと憶えてたんだ?
こんな返事ちょっと嬉しい気がした、で、困るなって想ったけど都合がいいとも思った、
だって今日ここで最後になるだろう?そんな予想と笑った、

「もしかして一人でも来たりしてたワケ?笑」
「それはしてねえよ、寂しいじゃん?さすがに、」

答える声は拗ねても泣いてもいない、
ただ普通にベンチに座って缶コーヒー飲んでいる、そんな横顔がこっち向いた、

「おまえ、有休消化で最終日は今週末なんだろ?そのあとすぐ転職先に出るのかよ、」
「来月からだよ、笑」

笑って答えながら次の質問を予想して、そのまま訊かれた、

「じゃあさ、辞めたあと2週間なにすんの?」

これで下手なコト言うと面倒なことになる、
それくらい解かってるから正直に隠して言った、

「東北を歩いてくるよ、笑」

嘘は吐いていない、これもホントの予定だから。
そんなまま御曹司クンは訊いてきた、

「それって独りで?」
「独りのが気楽だろ?笑」

これも正直に答えて、そしたら安心したみたいな貌に言われた、

「あー…おまえってそういうとこあるよな、そっか、」

花サンと一緒に行くとでも思ったんだろうか?
そんな貌が可笑しくてSってやろうとも思った、でも時間あまり無いから軽くSった、

「おまえは独りとか無理っぽいね?笑」
「どうせ寂しがりですー旅行の相手には困らねえし、拗」
「ふうん?笑」
「あ、今なんか馬鹿にしてねえ?」
「さあ?笑」

って感じにナントナク話して時間は過ぎて、まだ明るい公園で言った、

「制限時間だよ、帰るね?缶コーヒーごちそうさん、笑」

もう1時間経った、
だから立ちあがって歩きだしたら御曹司クンは付いてきた、

「待ってよ、送るし、」
「いいよ、駅まで歩けるし買物してくから、笑」

答えながら公園の駐車場を通り過ぎて、
どうしようって顔になった御曹司クンに笑って言った、

「ありがとな、気をつけて帰れよ?笑」

ほんと、色々ありがとうって思った。
たぶん今日これが最後、もう二人だけで話すことも無い、
そんな道端も照り返しちょっと熱くて、だけど御曹司クンが追っかけてきて言った、

「送別会、ちゃんと俺も出るから。二次会とかも行くから、」

ソウイウ集まりに御曹司クンが出るって珍しい、
そこらへん気持ちが透けるようで、今なに言って良いか解らないからただ笑った、

「飲み過ぎないようにね、またな?笑」

またな、って言われたら安心して今離れてくれるだろう?
そう想ったまま御曹司クンはちょっと笑って駐車場に戻った、

おーる22ブログトーナメント

いま零下ですけど星が冴えています、

第81話「凍結2」加筆まだします、そのあとFavonius「少年時譚」かナンカUPします、
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第81話 凍結 act.2-side story「陽はまた昇る」

2014-12-18 23:00:00 | 陽はまた昇るside story
storage shed 堆積の眼



第81話 凍結 act.2-side story「陽はまた昇る」

開かれた扉の風景は、2ヶ月前と何も変わらない。

活けられた花の種類は違う、けれど同じ色調は主の趣味に合せている。
物静かな銀髪のネクタイ姿も変らない、それでも小さな変化に英二は笑いかけた。

「こんにちは、中森さん。今日は寒いね?」

コート脱ぎながら笑いかけた玄関先、銀髪の微笑が頭を下げる。
優雅な挙措にチャコールグレイ優しいニットの背起こし、静かな声が微笑んだ。

「おかえりなさい、英二さん、」

おかえりなさい、って出迎えるんだな?
この変化すこし困りながら、それでも笑って応えた。

「ただいま、ヴァイゼは?」
「今来ると思います、ほら、」

静かな微笑が見たむこう、明るい回廊を黒い犬が駆けてくる。
陽だまりで昼寝していたのだろう?そんなジャーマンシェパードに笑いかけた。

「ただいま、ヴァイゼ、」
「くん、」

鼻かすかに鳴らし前に座ってくれる。
その鼻づら掌さしだすと小さく舐めて、ころり仰向き腹をさらした。

「ありがとう、ヴァイゼ?」

笑いかけ屈んで腹そっと撫でてやる。
ふわり毛並やわらかに掌くるむ、和毛を透かす体温ふれる。
見あげてくれる瞳は茶色やさしく澄んで変わらない、それでも交じる白い毛に寂寥を微笑んだ。

「中森さん、ヴァイゼは何歳になる?」
「この春で11歳です、」

答えてくれる声は慈しみ柔らかい。
大型犬の11歳がどういう意味なのか、それが解かるから尋ねた。

「ヴァイゼも少し耳が遠くなった?出迎えが遅かったけど、」

前は庭まで出迎えてくれていた、四年ごし訪れた秋も庭先で遊んだ。
それが今は玄関を入ってから来ている、この変化に家宰は頷いた。

「はい、年末あたりから少し。食事は変わらず摂りますが、昼寝が増えたようです、」
「冬の寒さが堪えるのかな、ヴァイゼ?」

笑いかけ頷きながら鼓動そっと軋みだす。
この昔馴染みともいつか別れがくる、その時間の堆積に微笑んだ。

「ごめんなヴァイゼ、4年も、」

四年間、ずっと自分はここに来なかった。
その時間の経過は犬と自分に違う、いま気づかされた後悔に家宰は言った。

「これからは4年分お帰り下さい、ヴァイゼも報われます、」

この犬まで引き合いに出すんだな?
こんな論法が可笑しくて、けれど巧みに突かれた弱点に笑った。

「じゃあ俺、ヴァイゼとだけ遊んで帰るよ?」
「それでも克憲様は喜ばれますよ、テラスにどうぞ?」

静かに微笑んで案内の手伸べてくれる。
もう一度やわらかな腹そっと撫で、立ちあがると愛犬も起き寄りそった。

「ヴァイゼは英二さんがいると元気ですね?」

また家宰は微笑んでホールを歩きだす。
チャコールグレイのニット端正な背は変わらない、それでも銀髪は白くなった。
そんな後姿を眺めながら歩く足元も黒い犬の背は白まじる、この時の流れに言われた言葉が響く。

『それでも克憲様は喜ばれますよ、』

犬とだけ遊んで帰る、そんな自分の言葉に家宰は微笑んだ。
そこにある意味はきっと2年前の自分なら解からない、けれど今は解る。

―俺がいる気配だけでもってことなんだ、それだけ今は、

もう九十を超える齢、それだけ少なくなった時間は求めるのだろう。
そこにある孤独感も焦燥も今の自分は知っている、だって別れの哀痛も恐怖も知ってしまった。
残された時間のカウントに気づいてしまった、そして喪う可能性が怖くて哀しくて自分こそ泣きたい。

―だから周太、逢いたいよ?

あの人は今、何をしているのだろう?

そんな問いは秋から幾度も廻らせる、そのたび聴きたいけれど訊けない。
もう詮索してはいけない場所に今あの人はいる、それが嫌だから今日もここに来た。

だって知っている、この屋敷の主人なら全ての鍵を自分に渡すだろう?

「克憲様、おかえりになりました、」

静かな呼びかけに安楽椅子の横顔が身じろがす。
白皙すこし笑って、楽しげな深い低い声が透った。

「中森の勝ちだな?」

勝ち、なんて言葉が何かすぐ解かる。
老人ふたり何をしているのだろう?可笑しくて少し笑った。

「中森さん、俺が1月に来るか賭けていましたね?景品は何ですか、」

こういう信頼が二人にはある。
それが救いのよう想えて楽しい隣、優しい瞳が微笑んだ。

「後ほどお教えします、今夜は何を召し上がりたいですか?」

てらいない声と言葉が訊いてくれる。
この微笑には敵わないな?そんな素直に笑いかけた。

「和風のローストビーフは出来る?茸のソースと焼いた野菜を添えたやつ、」

本当はあのひとに作ってほしいけどね?
そう本音ひとり笑いかけて家宰は微笑んだ。

「かしこまりました、」
「よろしく、」

笑いかけた腕からコート受けってくれる。
端正に礼ひとつして、チャコールグレイの背中むこうへ行くと安楽椅子に腰かけた。

「相変わらずヴァイゼは英二に絶対服従だな、」

この台詞、前も聞いたな?

―11月も同じこと言われたよな、庭先で、

晩秋、四年ぶりの再会に祖父は同じ言葉を言った。
こんな事すこし可笑しくて、足元の犬そっと撫でながら微笑んだ。

「お元気そうですね、」
「英二はまた佳い貌になったな、テレビで観るより美形だ、」

深く低く透る声は笑っている。
揄っているようで瞳は満足に細めさす、そんな祖父に問いかけた。

「観碕征治を宮田の祖父の通夜に招いたのは、あなたですか?」

これを確かめたくて今日、ここに来た。
この回答次第では赦せない、けれど祖父は呆れ顔で笑った。

「なぜ私が観碕など招くのだ?」

馬鹿らしいことを言うな?
そんなふう端正な眼差し哂いだす、その正直な眼に微笑んだ。

「通夜で話したと観碕さんから言われました、母に俺の事を褒めたと言っていましたよ?」
「ああ、美貴子にも話しかけていたな、」

陽だまりに深い低い声が記憶をなぞる。
その貌は秋の再会と変わらない、あの時と同じ端整な顔は酷薄に微笑んだ。

「あれは呼ばれざる客だ。だから軽く脅したが、その仕返しが美貴子の我儘だろうな?寂しがりを利用して英二の進学を妨害させて、」

ほら、祖父は全て解っていた。
こんなふうカード幾つも隠している、この近親者に問いかけた。

「あなたは全て納得ずくで俺の進学を邪魔させたんでしょう?それは観碕を牽制するためですか、俺を警察庁で出世させて“ Fantome ”も脅かして?」

最初から自分の進路は仕組まれていたのだろう?
それくらい祖父なら簡単だ、そう見つめた陽だまりに白皙の微笑は尋ねた。

「英二が警察に入ったことも私の意図か、なぜそう想う?」
「あなたが理事の大学に入れておけば進路の操作など簡単です、現に、警視庁は先輩のアドバイスでしたから、」

答えながら昔の自分に忌まわしい、こんな簡単なことも気づかなかった。

―あの先輩も体よく使われていたんだな、だから伝聞系で話してたんだ、

警視庁も悪くないらしいよ?

そんな他愛ないアドバイスだった、けれど自分に進路を示して動かした。
あの一言も祖父が仕組んだのなら全て納得できる、その証拠の発言たちを微笑んだ。

「11月にも言っていましたよね?ノンキャリアから警視総監になった前例は無いが俺なら可能性ゼロとも言えない、性格的にも軍人向きだ、ストレートに警察庁も良いけれど前例を超えることは喜ばしい。どれも俺が警察庁に入ることを最初から望んでいた発言です、あなたは俺を検事よりも警察にしたくて母の我儘に従ったフリをしたんだ、俺が司法修習を保留することも最初からの計画なんでしょう?」

警察官の途は自分で選んだと思っていた、けれど違う。
そう気づかされてプライドは罅割れる、苛立つ、それでも冷静が告げていく。

「警察そのものが正義の秘密で、正義だからこそ内務省の三役は権力者だと仰っていましたよね?あなたは俺を使って全てを握るつもりですか、あなたが踏みこんでいない警察に俺を入れて観碕を追い詰めさせるつもりですか?そこまでして観碕を牽制したい目的は権力ですか、それとも暇潰しのゲームですか?」

こんなふうに自分は結局、手駒にされている。
司法修習を保留して警視庁に入った、それは自分の意志で反抗でもある。
けれど「意志の動機」反抗の原点から操作されていた、こんな祖父に自分は敵わないのだろうか?

―こういう男だから権力が寄ってくるんだ、今も、

こんな男を社会人2年目が凌げるはずもない、それが当り前なのだろう。
それくらい納得できる程度の謙虚は自分にもある、それでもプライドの怒りは鼓動から焼く。
この傷から逃げたくないから今日も「帰って」きた、だから座っているテラスに低く深い声が徹った。

「目的は復讐だ、宮田君を穢した罪を観碕に償わせる、」

今、祖父は何て言ったのだろう?

「今、復讐と言ったんですか?宮田の祖父を穢したってどういう意味ですか、」

もう一人の祖父のために復讐したい、そう今言ったのだろうか?
こんな事この男が考えるなんて意外で、けれど穏やかな瞳は冷徹に微笑んだ。

「宮田君の葬儀にあれほど相応しくない男はおらん、だが観碕は弁えもせず穢したのだ、」

穏やかに響く声、けれど酷薄が冷たい。
冷えきるほど焦がれる怒り見つめる真中、白皙の端整な顔は微笑んだ。

「宮田君は呆れるほど高潔で清廉な男だった、この私が敵わないと思う唯ひとりの男がおまえの祖父だ。泥塗れの私だからこそ宮田君の清らかさは沁みる、そういう理解も出来ないほど観碕は大義とやらに囚われているのだ。大義など小さな人間の愚かな畸形だとも気づけん、あれでは大義を遣うのではなく使われている、あれは囚人だ、」

遣うのではなく使われている「囚人」だ。
そんな言葉に祖父の感情と評価がわかる、そのまま尋ねた。

「元から観碕を嫌いなんですね?まったく顔には出さないでしょうけど、」
「卑しいものは嫌いだ、英二も嫌いだろう?」

深く低く徹らす声は否定できない、それくらい自分たちは似ている。
その自覚と座りこんだ陽だまりの席、穏やかな冷酷が微笑んだ。

「どんな偽善で飾ろうが囚人は卑しい、そんな男は清らかに生きた男の最期に踏みこんではならん。けれど観碕は弁えず参列したのだ、英二を目的にな?」

穏やかに澄んだ瞳は美しい、けれど冷たい酷薄が嗤っている。
この眼差しが祖父を今の地位に据えた、そんな納得に端正な微笑は言った。

「観碕が英二を狙った明確な理由は知らん、だが利用目的があるから美貴子を洗脳したのだろう?この私と宮田君の孫を手駒にしようなど赦せるわけもない、この報復は駒に咬み殺される屈辱が最も効く。だから罠に嵌ったよう見せてやったのだ、この復讐は英二も望むだろう?」

ほら、やっぱり自分たちは同類だ?

こんなこと認めたくはない、けれど言葉に改めて血縁の濃さを知らされる。
こういう祖父の孫だから自分の今を克ちとれた、そんな自覚に冷徹な熱情は微笑んだ。

「英二も私も傲慢だ、傲慢ゆえに尊敬の対象は大切になる。それを貶めた者を赦すほど英二は寛容でも甘くもない、報復を望むと思ったから警察を選ばせたのだ。何も知らず検事になるよりも全てを知る機会と判断を英二なら選ぶ、そう思ったから私なりにサポートしたつもりだが、迷惑だったなら謝る、」

この七年間ずっと祖父は何を想い、考えていたのか?
そんな吐露に答はひとつしかなくて悔しさと微笑んだ。

「あなたが言うとおり、俺は知る機会と判断を選びます。だからこそ大学を選ぶ時点で言って欲しかったですけど、」

あのとき最初に知っていれば近道も探せたろう?
そうしたら今こんなふうに大切な人を心配しなくて良かったかもしれない。

“もし自分が警察官僚に最初からなっていたら?”

こんな仮定を今更しても仕方ない、それに答なんて解っている。
それでも我儘な推論を見つめながら足元の犬そっと撫で微笑んだ。

「飲むものを貰ってきます、ワインですか?」
「もう5分で持ってくるだろう、」

低い綺麗な声に応えられて相変わらずなのだと可笑しくなる。
こんなふう祖父と家宰は紐帯が深い、それが今は温かに想えるまま質問を笑いかけた。

「姉とは最近、会いましたか?」

多分この数日後には会うだろう?
そんな予想と笑いかけた先、冷静な瞳すこし揺らいだ。

「月末に来ると言っているが、なにか訊いてるのか?」
「いいえ、」

短く応えて愉しくなる、だって今たぶん動揺しているだろう?
この祖父にも弱点はある。その人間らしい温度が今、素直に嬉しい。



(to be continued)

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